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012 空元気でも
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「そんなスープだけで、一緒に行ってもらってもいいんですか?」
「もちろんだ! すごく美味しかったし。そのリーシャってコが作ったのか?」
「いえ、これはボクが作りました」
「それはすごいなぁー。うちもランタスがやってくれればいいんだが」
「どうして僕がやらなきゃいけないんだ。自分の分は自分でやってくれ」
呆れた目で、ランタスは大きくため息をついた。
「ところでこの黒くてツルツルした食感のヤツ、上手いな! 初めて食べたぞ」
「ああ、それですか? それはアレですよ」
ボクは先ほど摘んだ黒いキノコを指さす。
「おーーーーい、よりによってアレかよ!」
吹き出しそうになりながらも、ガルドは口の中に残っていたスープを飲み込んだ。
わー。飲み込むんだ。
あの勢いだったら、絶対に吐き出しそうなのに。
「アレかよって言う割には、ちゃんと飲み込むんだな、ガルド」
「吐き出したら、食べ物に失礼だろ」
「まぁ、そうだが」
やや感心しつつも、呆れた様子にランタスがガルドを見つめている。
嫌いな物だったのに、それでもちゃんと食べるなんて確かにすごいなぁ。
今のボクは大して好き嫌いはないけど、昔は本当に多かったもんなぁ。
ガルドの気持ちはなんとなく分かるよ。
「ごめんなさい。アレが苦手だって知らなくて。先に使っている食材を言っておけばよかったですね」
「い、いや、そーじゃなくってだな」
「へ?」
「アレは普通食えないだろー」
ガルドはキノコを指さす。
んんん?
毒がないはずなんだけど、なんかいわくつきのキノコだったのかな。
そういう知識はないから、考えたことなかった。
「えっと、それは死体から生える系みたいな意味でですか?」
昔、図鑑で見たことあるなぁ。
冬虫夏草だっけ。
せみか何かの死骸のとこから生えてくるキノコ。
「いやいやいやいや。死体って。もーっと嫌だぞ、それだったら。コレはスライムキノコっていうんだ」
「へー。そういう名前なんですね。ボク、そういうことは詳しくなくて」
「ルルドは、どうしてコレをスープに入れようと思ったんだ?」
ランタスに聞かれて、ふと考える。
なんだろう。
食べられるから。
美味しそうな匂いがしたから?
「ん-。なんていうか、食べられるって分かってるから、みたいな? 匂いもそうですし」
「獣人特有のスキルみたいなものかな」
「そうなんですかね?」
そう言われても自覚がないからなぁ。
ああ、よく本とかで見たステータスオープンとか言うと、見えちゃうヤツだったりして。
人前じゃあ、恥ずかしくてやらないけど。
「そうかもしれないな。今まであまり獣人との付き合いがなかったから知らなかったが、これは興味深い」
「そうなのですね。ボクで分かることなら、答えられますから聞いて下さいね」
「それはありがたい。では、出発する前に一個だけ」
ランタスはすっと、木を指さす。
そこにはリーシャも興味を示した赤い実があった。
丸く瑞々しい赤い実は、どこからどう見てもジューシーそう。
熟れた実は、パッと見たら美味しそうに見える。
だけど――
「あれは食べられないですよ」
「そうなのか?! やっぱり、ダメだったのか……」
「やっぱり?」
「ああ。ガルドは今朝あれを食べて、お腹を壊したんだ」
そう。見た目からしたら、この黒いキノコなんかよりもずっと美味しそうに見える。
だけど、アレは全然いい匂いがしないんだ。
むしろ果実ですらないような気もする。
「ボクからすれば、あれはなんかよくない感じがします。匂いもダメだし。近づきたくすらない」
「あーーーーー。うん。アレはもう二度と食べないぜ」
「え。食べたあとだったんですか?」
「まあな」
「そんなに酷かったんですね?」
「それはもう……本当に酷かった」
思い出したくもないというように、ガルドは肩を落としながら首を何度も横に振った。
そんなに酷かったんだ。
どれくらいダメそうっていうのは、さすがにボクでも分からないからなあ。
食べたがるリーシャを止めて正解だったよ。
「いや、本当にルルドは優秀だな。また何かにつけて質問させてほしい」
「あ、ハイ」
「ランタスは知りたがりだから、気を付けた方がいいぞ」
「探求心があると言ってくれ」
なんだか真逆のパーティーに、思わず笑みがこぼれた。
「さぁ、腹ごしらえしたから出発するぞ、二人とも」
「……おまえ待ちだよ、ガルド」
「あ? んー。ま。気にするな!」
空元気であったとしても、なんだか二人を見ているとほんの少しだけボクも元気が出てくる気がする。
急いで片づけを終えると、ボクたちはあの鳥が飛び立った山へ向かい、歩き出した。
「もちろんだ! すごく美味しかったし。そのリーシャってコが作ったのか?」
「いえ、これはボクが作りました」
「それはすごいなぁー。うちもランタスがやってくれればいいんだが」
「どうして僕がやらなきゃいけないんだ。自分の分は自分でやってくれ」
呆れた目で、ランタスは大きくため息をついた。
「ところでこの黒くてツルツルした食感のヤツ、上手いな! 初めて食べたぞ」
「ああ、それですか? それはアレですよ」
ボクは先ほど摘んだ黒いキノコを指さす。
「おーーーーい、よりによってアレかよ!」
吹き出しそうになりながらも、ガルドは口の中に残っていたスープを飲み込んだ。
わー。飲み込むんだ。
あの勢いだったら、絶対に吐き出しそうなのに。
「アレかよって言う割には、ちゃんと飲み込むんだな、ガルド」
「吐き出したら、食べ物に失礼だろ」
「まぁ、そうだが」
やや感心しつつも、呆れた様子にランタスがガルドを見つめている。
嫌いな物だったのに、それでもちゃんと食べるなんて確かにすごいなぁ。
今のボクは大して好き嫌いはないけど、昔は本当に多かったもんなぁ。
ガルドの気持ちはなんとなく分かるよ。
「ごめんなさい。アレが苦手だって知らなくて。先に使っている食材を言っておけばよかったですね」
「い、いや、そーじゃなくってだな」
「へ?」
「アレは普通食えないだろー」
ガルドはキノコを指さす。
んんん?
毒がないはずなんだけど、なんかいわくつきのキノコだったのかな。
そういう知識はないから、考えたことなかった。
「えっと、それは死体から生える系みたいな意味でですか?」
昔、図鑑で見たことあるなぁ。
冬虫夏草だっけ。
せみか何かの死骸のとこから生えてくるキノコ。
「いやいやいやいや。死体って。もーっと嫌だぞ、それだったら。コレはスライムキノコっていうんだ」
「へー。そういう名前なんですね。ボク、そういうことは詳しくなくて」
「ルルドは、どうしてコレをスープに入れようと思ったんだ?」
ランタスに聞かれて、ふと考える。
なんだろう。
食べられるから。
美味しそうな匂いがしたから?
「ん-。なんていうか、食べられるって分かってるから、みたいな? 匂いもそうですし」
「獣人特有のスキルみたいなものかな」
「そうなんですかね?」
そう言われても自覚がないからなぁ。
ああ、よく本とかで見たステータスオープンとか言うと、見えちゃうヤツだったりして。
人前じゃあ、恥ずかしくてやらないけど。
「そうかもしれないな。今まであまり獣人との付き合いがなかったから知らなかったが、これは興味深い」
「そうなのですね。ボクで分かることなら、答えられますから聞いて下さいね」
「それはありがたい。では、出発する前に一個だけ」
ランタスはすっと、木を指さす。
そこにはリーシャも興味を示した赤い実があった。
丸く瑞々しい赤い実は、どこからどう見てもジューシーそう。
熟れた実は、パッと見たら美味しそうに見える。
だけど――
「あれは食べられないですよ」
「そうなのか?! やっぱり、ダメだったのか……」
「やっぱり?」
「ああ。ガルドは今朝あれを食べて、お腹を壊したんだ」
そう。見た目からしたら、この黒いキノコなんかよりもずっと美味しそうに見える。
だけど、アレは全然いい匂いがしないんだ。
むしろ果実ですらないような気もする。
「ボクからすれば、あれはなんかよくない感じがします。匂いもダメだし。近づきたくすらない」
「あーーーーー。うん。アレはもう二度と食べないぜ」
「え。食べたあとだったんですか?」
「まあな」
「そんなに酷かったんですね?」
「それはもう……本当に酷かった」
思い出したくもないというように、ガルドは肩を落としながら首を何度も横に振った。
そんなに酷かったんだ。
どれくらいダメそうっていうのは、さすがにボクでも分からないからなあ。
食べたがるリーシャを止めて正解だったよ。
「いや、本当にルルドは優秀だな。また何かにつけて質問させてほしい」
「あ、ハイ」
「ランタスは知りたがりだから、気を付けた方がいいぞ」
「探求心があると言ってくれ」
なんだか真逆のパーティーに、思わず笑みがこぼれた。
「さぁ、腹ごしらえしたから出発するぞ、二人とも」
「……おまえ待ちだよ、ガルド」
「あ? んー。ま。気にするな!」
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急いで片づけを終えると、ボクたちはあの鳥が飛び立った山へ向かい、歩き出した。
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