異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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013 ボクはボクの役を

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 小高くなった山は標高こそそれほど高くないものの、上に上がるにつれ空気がだんだん澄んでくる。
 生い茂っていた木々も、頂上へ着くころにはややその背を低くしていた。

 奴の巣は、木の上ではなく頂上の小高くなった場所に造られていた。
 小さな子ども並みの大きさがある白い卵が、巣の中心に置かれている。

「親鳥はいないようだな」

 ボクたちは最大限にあたりを警戒しつつ、巣の間近までやってきた。

「ああ。そのようだな」
「でもどうするんですか? 巣には少し近づきづらいんじゃあ……」

 少し離れたところで、手をこまねいているのには理由があった。
 巣の付近にはまったく木々がなく開けてしまっているため、その身を隠すところがないのだ。

 今は親鳥の姿は見えないものの、近づけばきっと気づかれるだろう。
 そうなれば戦闘は避けられない。

「さて、どうするか……だな」
「ギルドの予想どおり、卵が生まれていたな」
「確かそのために被害が出てるんでしたっけ」
「そうだ。普段は人里などに降りて来るモンスターではないのだが、産卵時期になると狂暴化する個体があるんだ」

 それがあの親鳥ってわけか。
 あの子どもの卵がかえったら、餌をあげようって思っているのかな。
 それは紛れもない生存本能だ。

 母鳥ならば、自分の子どものために餌を持ってくることなど当たり前のことなのだろう。

「狂暴化する個体ってことは、そうじゃないモノもいるってことですか?」
「基本的にあのモンスターは人は襲わないんだぞ。だから害獣指定もされていないし、討伐対象でもない。だけど一度人などを襲い始めると、もうその行為を止められないんだ」

 ガルドはどこか悲しそうだった。
 産卵期であっても、ひな鳥が産まれても、人を襲わずに餌を得る方法は確かに他にもあるだろう。

 でもあの親鳥は人を襲ってしまった。
 しかも討伐対象になるほどに。

「だから討伐対象なんですね、あの親鳥は……」
「可哀想かもしれないが、これは仕方のないことなんだ、ルルド」
「分かっています」

 誰が悪いわけでもない。
 それにボクが悲しそうにすれば、きっともっと、ガルドたちは苦しくなってしまう気がした。

「そうだ。ボクがおとりになります!」

 振り返り、ボクは二人を見る。
 ボクは戦闘は出来ない。
 だけどボクだからこそ出来ることもある。

「それは危険すぎるからダメだ」
「ルルドはここで隠れていればいい。危険すぎる」

 ランタスは大きく首を横に振った。
 会ったばかりだというのに、こんな風にボクのことを心配してくれる。
 それだけで強くなれる気がした。

「大丈夫です」
「大丈夫ではないだろう」

 小刻みに震える膝を見られたかもしれない。
 顔だってきっと引きつってる。

 だけど……。

「ボクがやりたいんです。だから、大丈夫です! 絶対にやり遂げます。それにこういう役は慣れてるんです」
「慣れてるって……」
「本当です。何度もやったことがありますから」

 きちんと真っすぐに姿勢を正した。
 ボクは決めたことだもん。

 きちんと自分っていうものを探すためには、勇気だって必要さ。
 それにいつものようにやれば、怖くなんてない。

 もう何度だってやってきたことだから。

「ボクがこのまま、声を出しながら巣に近づきます。そうすればきっと、親鳥は出てくるはずです」
「……親鳥が出てきたら、すぐに逃げるんだぞ」
「いえ。親鳥が出てきたら、一旦怖がったフリをしてその場にしゃがみ込みます」
「ああ、その時に僕とガルドが一気に出て行って攻撃をということだな」
「はい。それでお願いします」
「だが、本当に危ないと思ったらすぐに逃げてくれ」
「はい。分かりました」

 ボクがしゃがんで一瞬気がそっちにそれた隙ならば、きっと二人の攻撃が通じるはず。
 ボクがその間にリーシャを救い出せば完璧だ。

 二度深呼吸をしたあと、皮のリュックをその場に下ろす。
 そしていつものようにあの水晶を見やすい位置にセットした。

「……これはいつもの撮影……撮影……。ボクの役は……」

 服の胸元をつかみ、何度か呪文のように言葉を繰り返したあと、前を向いた。
 そしてボクは演技を始める。

「あーーーー。あんなとこに大きな卵があるぅぅぅぅ。なんだろーーーー」

 どこまでも響くような大きな声を上げながらボクは歩き出す。
 片方の手を眉上に当て、キョロキョロと辺りを見た。

 今のところ、あの親鳥はいない。
 
 もしかしたらこのまま距離を縮めてリーシャを救出できるのではないか。
 そんな幻想を思い浮かべられるくらいの空気感が流れる。

 ボクはただ慎重でいながら、コミカルな足取りでゆっくりと巣に近づいていった。

「にゃーーーー」

 白いふわふわとした手が、巣の端にかかったのが見えた。

 リーシャだ。
 おそらくボクたちの気配を感じたのだろう。
 いつもは『にゃー』だなんて猫みたいに、絶対に鳴かないのに。

 そう考えると、なんだか余計にボクはどうしようもない気持ちで胸がいっぱいになる。
 きっとリーシャも不安なんだ。
 早く助けなきゃ。

 小走りになりかけたボクの頭上を、大きな影が通り過ぎて行った。
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