異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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018 街の中の匂い

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 さらに二日ほどかけ、ボクたちはやっと次の街へとやってきた。
 しかし街に入ろうとして一つ、大きな問題にぶち当たった。

「あのね、だから君はココには入れないんだよ」
「ぴょ?」
「んとねーぴょじゃなくって。そんなつぶらな瞳で見つめてもダメなの。ココで待っていて欲しいの」
「ぴょょ?」
「うーーーー」

 ボクを完全に親鳥だと思い込んでいるこのヒナが、どうしても離れようとはしないのだ。
 もちろん言葉もまったく通じる気配はない。

 たった数時間だけでも街の外で待っていて欲しいだけなんだけどなぁ。
 言葉もジェスチャーも通じないから、困ったもんだ。

 ランタスが門番にヒナのことを話してはくれたけど、いくら危害を加えないとはいえこの子はモンスターだ。
 街の安全を考えれば、入れさせてくれるわけもない。

「困ったなぁ」
「いやー、言葉が通じないってのは困ったもんだな」

 ガルドが一緒になってヒナを説得してくれているんだけど、もちろん効果なし。
 それどころかヒナは、結構ガルドを無視しているし。

 なんていうか、可愛い顔の割には押しが強いんだよなぁ、ヒナは。

「どうしようかなぁ。ボクも説明にいかないといけないし。それに配信した振り込みの件もあるし」

 基本的に配信で稼いだお金は一旦ギルド扱いになっている。
 それを取りに行きたいし、次の旅に必要なものも買いたかったんだけど。

「にゃぁ」

 リーシャは短く声を発したあと、ヒナの頭の上へとジャンプして飛び乗った。

「えええ、リーシャ?」

 どういう意味だろう。
 リーシャはガルドたちがいるところでは、決して人の言葉を話そうとはしない。
 だけどヒナの頭に乗るって、説明してくれないと意味が分からないよ。

「あー、ん-。ほら、ここで面倒見ていてやるから、行ってこいって意味じゃないのか?」
「え、そうなのリーシャ」
「にゃー」

 大丈夫かなぁ。
 別にリーシャが猫の姿をしているからって、言葉が通じないのはボクと同じなのに。

「二人ともここで待っててね。すぐ戻るから」

 手を振り、恐る恐る歩き出すボクに、やはりヒナはついて行こうとする。
 すると頭の上に乗ったリーシャが、その手でヒナの頭をペシペシと叩いていた。

「にゃ」
「ぴぃょー」
「にゃにゃ」

 通じてなどいないはずの二人の会話が、どこか通じているようにさえ思える。

 そして何度も歩き出そうとするヒナの頭をペシペシしていると、ヒナはやや諦めたようにその瞳をうるませて立ち止まっていた。

「すぐ戻るからね」
「にゃ」
「ぴーーーーよぉぉぉぉぉぉ」
「にゃ!」

 泣き叫ぶヒナの頭をまたペシペシとリーシャがしている。
 どうやらうるさいと、怒られたようだ。

 可哀想だけど仕方ない。
 リーシャが引き留めてくれているうちに、ギルドとの話を終わらせちゃわなきゃ。

 ボクは後ろ髪を引かれつつも、ガルドたちと共に街に入った。


 行き交う人々が、物珍しそうにボクを見てきた。
 しかしその視線は思ったよりも痛くはない。

 ただ珍しいものを見ているというだけのもの。
 ランタスが言うように、確かにここでは獣人に嫌悪している感じはないなぁ。

 みんな物珍しそうに遠巻きに見ているけど、嫌そうな顔をしている人はいないし。
 
 だけど、なんだろう。
 街の中に入った途端、少し変わった匂いが漂っている気がした。

 そして良く見ると、かなりの人がマスクをしている。

 この世界にもマスクってあったんだー。
 でもあれをするってことは、なんか病気でも流行ってるのかな。
 
 もしそうなら、リーシャたちを連れてこなくて正解だったかも。
 ヒナは体こそ大きいもののまだ子どもだし。
 リーシャは中身は大人って言い張ってたけど、何せ小さいから。

 もし病気にでも罹ったら大変だ。

「なんだか変な雰囲気だな」
「そーだな。前に来た時はもう少し活気があったはずだけどなー」
「みんなマスクをしているので、何か病気が流行っている感じですかねぇ?」
「この時期に病気か。他の村などでは、聞いたことがないが……」

 他では流行ってないんだ。
 でも確かに前の街でも病気なんて流行ってなかったし。

 冬とかなら、風邪のような症状の人が増えるのも分かるけど。
 今は春を少し過ぎた頃。
 あまりこの時期に病気が流行った記憶はない。

「ん-。病気のせいですかねぇ」
「どうしたルルド」
「いえ。なんていうか……街の中が変な匂いで」
「変な匂い? そーか? 何にも匂わないけどなぁ」
「おまえとルルドの鼻を一緒にするな」
「いや、そうだけど」

 ガルドもランタスも、特段何の匂いもしないという。
 ボクが鼻がよく利くからだけなのかな。

 ただ辺りを見回しても、その匂いを特定することは出来なかった。

「ともかくギルドに行って話をしよう」
「そうですね。そしたら何か聞けるかもしれませんし」

 分からない以上、考えても仕方ないか。
 そう思いながらボクたちは、やや足早にギルドへと向かった。
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