異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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023 しらみつぶし

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「なーなー、さっきのギルドでの話って」

 地図を手に持ち、先頭を歩いていたランタスの隣からガルドが後ろを振りかえる。

「転ぶぞ、ガルド」
「子どもじゃないんだから、転ばねーって」

 などと言いつつ、人にぶつかりそうになったガルドは、向き直り相手に頭を下げている。
 そんな姿を横目にランタスが深いため息をつけば、いつもの日常がそこにある気がした。

「まったくおまえは。落ち着きがなさすぎだ」
「だって、ランタスも気になっただろ? 最後のルルドのお願いは」

 ボクがギルドを出る際にみんなにお願いしたことの意味を、ガルドは気になったらしい。
 そんなに深いこと言ったつもりはないんだけど。

「それとなく、ボクたちを監視したり井戸に過剰に近づく人がいないか観察しておいてくださいってことですか?」
「ああ、それだよ。ルルドはこの街にまだ犯人がいるって思っているのか?」
「まだ……どうですかね」
「なんとなく、ルルドの中ではもうこの病の原因がわかっているんじゃないか?」

 ランタスも立ち止まり、ボクを見た。
 そう。なんとなくは、わかっている。
 この街の中に漂う、異様なにおい。

 それは井戸から発生しているものだから。
 井戸の水は地脈を伝って、広がっている。

 だからきっと原点の緯度に、今回の原因はある。
 しかもおそらくそれは……。

「あんまりいい顔じゃないな」

 ボクの顔が曇ったことに、ランタスが気づく。
 
「ん-。今はまだ仮説でしかないですし、全部が分かってるわけじゃないんです。だけど……」
「あんまり良くない結果ってことか?」
「想像が正しければ」

 そうじゃない方がいいのかもしれないけど。
 でも、そうじゃないなら余計に難しくなってしまう。
 
 ボクの特技は鼻が利くことだけ。
 別に細かい鑑定が出来るわけでもなければ、病を治すことも出来ない。

 ただ結果から、その原因を取り除くことが出来るかどうかは、もう賭けでしかないんだけど。

「まぁ、今はとにかく地脈の流れから原因を特定しよう」
「……はい」

 ボクたちは三人で、×が付いた場所へ向かった。
 もちろんその中にメインの井戸もあるのだが、そこだけはわざとよけて。

 メインはきっと最後の方がいい。
 それにボクたちよそ者が、地図を持って井戸の確認をしていることはすぐに街中の人々の目に留まるはず。

 そうなれば、犯人が行動を起こすと思うんだ。

「それにしても、ルルドの能力はすごいな」

 さらさらとボクは、地脈に線を引いていく。
 
「そうですかね? ただ匂いを嗅いでるだけなんですけど」

 水といっても、少しずつ井戸を流れる水の匂いが違う。
 その地質のせいなのか、それとも地脈の上流に何かあるのか。

 さすがにそこまでは特定できないんだけど。

「それでも見分けがつかないトコもあるので、そこには上流の井戸に花か果実でも入れてもらえば、もっとはっきりするかもしれません」

 あの強烈な匂いのする井戸は、近づかなくともわかる。
 それだけは赤い線で結んで、あとは黒の線でだいたいの井戸が結び終わった。

 メインの井戸には近づいていないせいか、街の中の人々の視線は気になるものの、妨害などもされていない。

「あとは一旦ギルドに帰って、地脈の件はザイオンさんに報告しましょう」
「メインはどーするんだ?」
「確認はだいたい出来たので、明日はメインをやっつけます」
「そっか」

 それでもまだ、問題はある。

「その時に、結構な人が必要になるんですけど、冒険者さんたちって手伝ってくれますかね?」
「この街のことだから、大丈夫だろ」
「ルルド、それはガルドと二人では難しそうなのか?」
「ん-。どうでしょう。お二人は強いから大丈夫かもしれないですけど」

 はっきり言って、相手がどうかがボクにはわからない。
 前回の戦闘で二人がとっても強いのは知っているけど、どうなんだろう。

「ボクはこういうことに疎くって。しかも一応冒険者ではありますが、戦闘要員でもないですし」

 ボクの言葉に二人は顔を見合わせた。
 どうやら二人が思っていたのと、事態は少し違うみたい。

 ボクとしては初めからそのつもりで進めていたんだけど、そっかぁ。

「……そうか。それならザイオンに頼もう。一応、何かあった時のために人手は多い方がいい」
「はい。お願いします」
「今日はこれからどうする? このまま宿をとろうと思っていたんだが」

 辺りを見渡せば、確かにだんだんと日が落ちてきてしまっていた。
 夢中になっていろいろしていたせいで、すっかり遅い時間になってしまってたんだ。

 いくら日が長くなってきたとはいえ、日没まであと少しだろう。

 ああ、いけない。
 こんな時間まで、まずいことしちゃった。

「ボクはリーシャたちのとこに行きます」
「それだと野宿になってしまうんじゃないか?」
「ああ、それは構いませんよ。ヒナもいますし、街に入れないのは仕方のないことです」
「だけどそれはダメだろ。この街のために、こんなにもやってるヤツが野宿なんて」
「ふふふ。ボクは気にしないから大丈夫です」

 二人ともかなり納得いかないという顔をしてる。
 でも、本当に大丈夫なんだけどな。
 そういうことは、今まで気にしたこともないし。

 確かにふかふかのベッドはうれしいけど、今はそれよりもリーシャたちのとこに行きたい。
 だから大丈夫。
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