異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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026 リーシャとの距離感

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 焚火で焼かれた魚が香ばしい匂いを立てる。
 リーシャが今か今かと、食べ時を待っていた。

 ヒナの名前は、リーシャがジト目で見ていたものの、ぽちが喜んだということでそのまま決定した。
 犬の名前だって分かる人もいなさそうだし、きっと大丈夫じゃないかな。

 ああ、でも異世界人っていうか、転生者も中にはいるんだっけ。
 でもまぁ、ボクがそうだってバレたところで何にもないからな。

「焼けたけど、大丈夫かな」

 リーシャに手渡すと、器用に前足二本で掴み食べ始める。

「あっつーーーい」
「ああ、ほら。だから今、それを言おうとしたのに」

 お腹が空いてたからだろうけど、自分が猫だって忘れちゃってたみたいだ。
 そういえば、猫の獣人も猫舌だったりするのかな。

「焼きたてだもん。熱いよ」
「もーー。もう少し早く言ってよ」
「言う前に食べちゃうんだもん。ねーねー、猫の獣人は猫舌じゃないの?」

 ボクの言葉に、リーシャは止まる。
 一瞬、その瞳が大きくなった気がした。

 しかしそれは本当に一瞬で、いつもの調子でリーシャは話し出す。

「獣人は猫そのものじゃないんだから、全部が全部猫舌ってわけでもないのよ」
「へー。そうなんだ」
「そうよ。もっとも、猫舌の子もいるけどね」
「その人によるって感じなんだね」
「そうね、そんな感じね」

 知れば知るほど、なんか獣人って不思議だなぁ。
 見た目は人に似てるけど、能力もそうだし、全然別の生き物って感じなんだよね。

 もっとたくさんの獣人にも会ってみたいな。
 ランタスじゃないけど、そういうのも知りたいな。

「そういえば、モンスターのコト聞きたかったんだ」
「どんなこと?」
「モンスターっていろんな種類がいると思うんだけど、物理攻撃が効かないのとかもいるの?」

 リーシャは魚に息を吹きかけ、冷ましながらこちらを見た。
 少し考えたあと、魚を頬張る。

「まったく効かないっていうのは少ないけど、効きにくいっていうのは結構いるわね」
「効きにくいかぁ」
「アンデッドとか、スライムなんかは効きにくい類だと思うわ。基本的には魔法とかで倒しちゃった方が早い感じ」
「そうなんだねー」
「でも、まったく効かないってわけでもないから、まぁ、地道に頑張ればいつかは倒せるんじゃないかしら」

 地道にいつか、ねぇ。
 でもそれって、こっちも攻撃を食らう前提だよね。

 全部かわすわけにもいかないだろうし、さすがに結構大変そうだ。
 そう考えると、冒険をするならパーティーに魔法使いがいるっていうのは心強いよな。

「ガルドさんたちって、ほぼ攻撃重視だけど、あれでも成り立つものなんだね。やっぱり強いからかな」
「ん-。どうかしらね。今回はほら、あれの駆除だけだったから二人なのかもよ」
「ああ、そういうこともあるんだ」

 サイラスたちはいつも四人で行動していたから、考えたこともなかったよ。
 でもそうだね。
 簡単な依頼ならば、不参加な人がいてもおかしくないんだ。

「それよりも、よ。なんで今日はこんなに遅かったの?」
「ああ、それは……あの街で変な病が流行ってるらしくって」
「まさかと思うけど、それにツッコんだんじゃ」
「うん」

 えへへと言いつつボクが頬をかけば、リーシャは心底深いため息をついた。

「だってほら、困ってたみたいだし」
「ルルドが感染したら、どうするのよ」
「あー、それは大丈夫かな」
「そんな保証、どこにもないでしょう。もしかかって、死んでしまったら笑ってなんていられないのよ!」

 いつになくリーシャの言葉は強い。
 真剣を通り越し、かなり怒っているようだ。

「大丈夫なんて保証は、旅を続ける以上、どこにもないの。ほんのちょっとの油断で、何が起きるかなんて分からない世界なんだからね」
「うん」
「なんでルルドはそういつも、危ないことに首をつっこむのよ」

 今にもリーシャは泣き出しそうだった。
 ボクはリーシャの過去を知らない。

 ずっと一緒だったけど、彼女を助ける前のことは何一つ聞いたことがない。
 だって聞いてしまえば、リーシャはいなくなってしまうような気がしたから。

 何よりも目に見えない傷口に触れてしまうような気がする。

「心配かけてごめんね、リーシャ。でも今回のことは、ボクでも解決できそうだったから」
「そんなの……」
「うん。やってみなきゃ分からないのは、分かっているよ」
「……」
「それに危なくなったら、ギルドの人に助けてもらうようにする」

 手を伸ばし、リーシャの背中に触れた。
 ゆっくり撫でると、リーシャは顔を背けながらも嫌がることはない。

「ボクはボクの出来る範囲で、いろんなことをしてみたいんだ」
「うん」
「もちろんその中には危険なこともあると思う」
「そうね」
「その時は今みたいに言ってくれると、嬉しい」

 覗き込むと、リーシャとやっと視線が合う。
 何か言いたげなのに、リーシャはただ口を歪ませるだけ。

 いつかは話してくれるといいな。
 もっと仲良くなりたいから。

「仕方ないわね。危ないって思ったら、全力で止めるからね」
「うん。いつもありがとう、リーシャ」

 街の状況を一通り話し、明日の予定を伝えるとボクたちは眠りについた。
 明日、すべてが解決するだろう。
 そんな期待を胸に抱きながら。
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