異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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029 本当の犯人

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「え……、リーシャ?」

 ボクは辺りを見渡すと、上空に大きな影がスッと横切っていく。

「ああ」

 リーシャだ。
 リーシャたちが助けに来てくれたんだ。

 空を悠々と飛ぶ鳥とその上に、小さな白い猫。

 きっと心配になって二人で来てくれたのだろう。

 みんなに姿を見られるのは、絶対に嫌だって言っていたのに。
 それでも来てくれた。

 ボクのために。ごねんね、リーシャ。いつも助けられてばっかりだ。

「何か分からんが、好機だ! 一気に畳みかけろ」

 ザイオンの怒号が飛ぶ。
 武器を手にした冒険者たちが、一斉に攻撃を始めた。

 あのね、あの攻撃はリーシャなんだ。とても強い魔法使いの猫の獣人で、ボクの大切な仲間なんだ。

 そう叫びたい気持ちを抑え、ボクは戦闘を見守った。

「トドメだぁぁぁぁぁ!」

 大きく跳躍したガルドの剣が、ヘドロスライムの中心を貫く。
 声にならない甲高い悲鳴のような音を上げたそれは、そのまま弾け飛んだ。

「ううう、やっぱり臭い……」
「やったぞー!」

 ボクはみんなが勝利宣言をしているところを見ながら、水晶を止めた。

「ルルド、大丈夫か?」

 鼻を押さえ、顔を歪ませるボクに気づいたランタスが近づいてきた。

「うん、なんとか。戦闘、ありがとうございました」
「いや、それはこっちの仕事だからな。それより、そんなに匂うのか?」
「むしろ匂わないんですか?」
「多少……ヘドロのような匂いはするが、そこまでではない」
「そうなんですね。やっぱりボクは結構鼻がいいみたいです」

 こういう時は鼻が利くっていうのは、ちょっと……だいぶ嫌かもしれない。
 臭くて臭くて、すでに涙が出ていた。

「ギルドで休んだ方がいいだろう」
「いえ。今からがメインですから」

 ボクは鼻を押さえたまま、井戸へ歩き出す。
 そう、本当の目的はこの後なんだ。

 だからこそボクは、配信を止めた。
 だって、これは放送することが出来ないから。

「ランタンのあまりはありますか?」

 井戸の底は深く、どこまでも光が差すことはない。
 だけどボクは知っているから。

「おい、誰かランタンを持ってこい!」

 ザイオンの言葉に、すぐさま冒険者がランタンを借りてきてくれた。
 そしてそれで井戸の底を照らす。

 するとボクの行動が気になったランタスとザイオンも、井戸へと近づいてきた。

「なんだ、あれ」

 白い何か。
 それが水がほぼなくなった底に見える。

「まさかあれは……」
「骨です。おそらく人間の」
「おいおいおいおい。どういうことだ!」

 この事態を予想していなかったザイオンが、ボクの肩を掴んだ。

「ザイオン!」
「いや、すまない。だが、あれは……」
「おそらく前に話してくれた、行方不明になった方の骨だと思われます」

 あのヘドロスライムは、昔地下水脈で見たことがある。
 その時もネズミなどの死骸をあのモンスターは食べていた。

 そう。あのモンスターは水場を好み、死骸を餌にしている。

「昔、あのヘドロスライムを見たことがあります。井戸から同じ匂いがした時に、そうじゃないかと見当をつけていたんです」
「それが死体だというのか?」
「死体かどうかは賭けでしたが、井戸にあれがいるのは間違いないと思っていました」

 そして現に行方不明者が、井戸の中で骨になっている。
 おそらくヘドロスライムは、あの遺体に引き寄せられ、井戸の中に入ったのだろう。

「井戸にヘドロスライムが侵入したのは偶然かもしれませんが、あの井戸には遺体があった。そして結果、それを好物としたあれが住み着き、井戸は汚染されてしまった」
「まてまてまてまて……」

 ザイオンはボクの言葉に頭を抱えた。
 まぁ、普通はそこまで一気に考えられないだろう。

 ボクだって考えをまとめるのに、一日かかったもん。

「じゃあ何か? 井戸の汚染が水脈で広がったのは分かるが、それ以外は」
「おそらくあの遺体とモンスターを隠蔽したかった奴が、やったんじゃないですかね?」

 犯人はずっと遺体のある井戸が気になっていたはず。
 だからこそ、あのモンスターが住み着いたことはすぐに気づいただろう。

 でもどうすることも出来なかった。
 だってモンスターのことをギルドに報告すれば、遺体が見つかってしまうから。

 だからきっと、井戸の水を調査するってなった時は焦ったと思う。
 でもその調査の精度は決して高くはない。

 水の中身さえ同じにしてしまえば問題なかったのだから。

「違うとこから汲んできたフリをして、全部同じものにするのは簡単ですよね。混ぜちゃえばいいわけだし」
「……確かにな」
「精度が高くないからこそ、だな」
「ですね」
「だとすれば、あの井戸の中の遺体は行方不明になった奴の奥さんということか……」
「そしておそらく犯人は……」

 ボクの言葉にザイオンが頷く。
 そしてあとはこっちで処理すると言い、数名の冒険者たちを連れて近くの家へと向かって行った。

「ああ、なんか疲れたな。というか、腹減った」
「おまえは毎回それだな」
「なんだよ。たくさん動いたんだから、いいだろう」

 二人のいつもの会話を聞いていると、ほんの少しホッとする。
 ああ、そうだ。
 ザイオンに聞きたいことがあったのに、すっかり忘れてた。

「リーシャとヒナも申請したら、街に入れるかもしれないって言われてたのに……」

 二人がいたら、みんなで一緒にご飯が食べれたのにな。
 失敗しちゃった。

 肩を落とすボクを見たランタスが、ある提案をしてくれた。
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