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032 お買い物デート
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「リーシャ、すごいね。ベッドがすごくふかふかだ!」
ボクはベッドの縁に腰かけまま、ジャンプする。
ベッドに先に乗っていたリーシャが、揺れに足を取られて転ぶ。
しかしふかふかとしたベッドが、リーシャの体を包み込むようだった。
「ちょっとぉ、子どもじゃないんだからはしゃがないでよ」
「だって、あんまりにもふかふかで大きなベッドだから嬉しくて」
「それは分かるけど」
「しかもさ、部屋にお風呂みたいなのがあって後でお湯を届けてくれるって!」
「ああ、そんな説明してたわね」
「川の水じゃないんだよー。冷たくないし、きっとサイコーだ」
お風呂なんて、どれぐらいぶりだろう。
いつも体は川でとか、井戸の水でしか洗い流したことなかったのに。
温かいお湯がもらえるなんて、すごいなぁ。
前の世界では当たり前のことでも、こういうのは中々ね。
しかもボクが泊れるようなすごく安い宿には、そもそもそんな設備もなかったし。
昔、風呂なしトイレなし物件とかいうのをテレビで見たことがあったっけ。
でも今はまさにそんなとこで、しかも定住先すらなく生活しているんだもんな。
「いつかさ。本当にやりたいこととか、好きなこととか……いろんなことを見つけたら、家が欲しいな」
「家? そんなものどうするの?」
「みんなで住むんだよ」
ボクの言葉にリーシャはキョトンとした顔をしていた。
あ、もしかして嫌だったかな。
確かに旅の仲間ではあるけど、リーシャにだって家族や帰る場所はあるだろうし。
勝手に言い出しちゃダメだったよね。
「いや、その……みんなで住めたら幸せかなって思っちゃって、つい」
「な、ばっ。もー。顔赤くしながら、変なコト言わないでよね! こ、告白でもされたのかと思っちゃったじゃない」
リーシャの方が顔赤いんだけどな。
でも告白ってなんだろう。
一緒に住むのって、告白とかいるんだっけ。
「いやだって、家族みたいでいいなって」
「家族……もう、馬鹿」
「えー? なんかボクまた変なコト言った?」
「知らない。私、先に寝るからね」
「えー。もう少しお話しようよー」
「明日、買い物行くんでしょう」
「うん、まぁ、そうだけど」
顔を赤くしたり怒ったり、リーシャはなんだか忙しいな。
「一緒にお風呂入ってから寝ればいいのに」
「だーかーらー。何度も言うけど、私は猫じゃないんだってば!」
「わかってるけど、お湯もったいないし」
「そういう問題じゃありません。全然分かってないじゃないのよ、もう」
リーシャは頬を膨らませながら、ベッドに潜り込む。
「一緒に入る?」
「ぴょ?」
なんだかぽちも嫌そう。
そもそもモンスターがお風呂って、なんか違うのかな。
二人にフラれたボクは、一人でひとしきりお風呂を堪能したあと、リーシャの隣で眠りについた。
◇ ◇ ◇
「いい天気で良かったね」
空は雲一つなく晴れ渡り、遠くで鳥がさえずっていた。
病が解決したせいもあるのか、街の中はどこまでも明るい。
あの嫌な匂いも全然なくなったし、みんなの表情も明るい気がするな。
「もうお昼だけどね」
ぽちの頭の上に乗るリーシャが、他の人には聞こえないくらいの小さな声でぼそっと呟いた。
「ごめん……」
あのふかふかのベッドと、お風呂にゆっくり入ったせいか、珍しく寝坊してしまったんだ。
転生してから、こんなこと初めてかもしれない。
「気が緩んじゃったかな」
「いいんじゃない、別に。疲れてたんでしょう?」
「うん、そうかも。でもきっと、二人がそばにいてくれたからだと思うよ?」
リーシャはふんっと言いながら、そっぽを向く。
あとでなんか美味しいものを買ってあげよう。
ずっと寝てるボクを、文句も言わずに待っててくれたんだもん。
せめて何かしてあげないとね。
本当はもっと稼いで、服とか……リーシャが着れる服とかあるのかな。
手先が器用だったら作れそうだけど。
「リーシャの服とかも見れたらいいのに」
「さすがにこのサイズはないんじゃない?」
「大きい街に行ったらないかな」
「どうかしら」
「あったら見てみたいなぁ」
「別になくても困らないけど」
「ボクが見たいのー」
「変わってるわね、ルルドは」
そうかな。
仲間のものが欲しいっていうのは、普通だと思うんだけどなぁ。
今が猫だからそう思うだけだと思うんだけど。
「清算が終わったら、また三人で旅だね」
「そうね」
ああ、次に行く街のこととかも知りたいし、地図も欲しいな。
それにモンスター図鑑も。
この前の戦闘みたいに、迷惑をかけないようにしなきゃ。
旅を続けるなら、知識は多い方がいいもんね。
「今日は次の旅に必要なものばっかりだけど、ごめんね」
「別にかまわないわよ」
「でもさ」
「うん」
「なんかデートみたいだね」
ボクの言葉に、リーシャは吹き出した。
あれ? またボクなんか間違えたかな。
「ダメだった?」
「だから、そこで小首をかしげないの!」
「えー。だって。デートとかしたことないしさ。なんか、こんな感じなのかなって思っちゃって」
「もーーー。そういうとこ!」
「?」
ボクが尋ねても、リーシャはどういうことなのか教えてはくれなかった。
難しいなぁ。
こういうのを女心とか言うのかな。
知らないけど。
リーシャに触れようとした瞬間、いつか感じたものと同じ視線が突き刺さった。
ボクはベッドの縁に腰かけまま、ジャンプする。
ベッドに先に乗っていたリーシャが、揺れに足を取られて転ぶ。
しかしふかふかとしたベッドが、リーシャの体を包み込むようだった。
「ちょっとぉ、子どもじゃないんだからはしゃがないでよ」
「だって、あんまりにもふかふかで大きなベッドだから嬉しくて」
「それは分かるけど」
「しかもさ、部屋にお風呂みたいなのがあって後でお湯を届けてくれるって!」
「ああ、そんな説明してたわね」
「川の水じゃないんだよー。冷たくないし、きっとサイコーだ」
お風呂なんて、どれぐらいぶりだろう。
いつも体は川でとか、井戸の水でしか洗い流したことなかったのに。
温かいお湯がもらえるなんて、すごいなぁ。
前の世界では当たり前のことでも、こういうのは中々ね。
しかもボクが泊れるようなすごく安い宿には、そもそもそんな設備もなかったし。
昔、風呂なしトイレなし物件とかいうのをテレビで見たことがあったっけ。
でも今はまさにそんなとこで、しかも定住先すらなく生活しているんだもんな。
「いつかさ。本当にやりたいこととか、好きなこととか……いろんなことを見つけたら、家が欲しいな」
「家? そんなものどうするの?」
「みんなで住むんだよ」
ボクの言葉にリーシャはキョトンとした顔をしていた。
あ、もしかして嫌だったかな。
確かに旅の仲間ではあるけど、リーシャにだって家族や帰る場所はあるだろうし。
勝手に言い出しちゃダメだったよね。
「いや、その……みんなで住めたら幸せかなって思っちゃって、つい」
「な、ばっ。もー。顔赤くしながら、変なコト言わないでよね! こ、告白でもされたのかと思っちゃったじゃない」
リーシャの方が顔赤いんだけどな。
でも告白ってなんだろう。
一緒に住むのって、告白とかいるんだっけ。
「いやだって、家族みたいでいいなって」
「家族……もう、馬鹿」
「えー? なんかボクまた変なコト言った?」
「知らない。私、先に寝るからね」
「えー。もう少しお話しようよー」
「明日、買い物行くんでしょう」
「うん、まぁ、そうだけど」
顔を赤くしたり怒ったり、リーシャはなんだか忙しいな。
「一緒にお風呂入ってから寝ればいいのに」
「だーかーらー。何度も言うけど、私は猫じゃないんだってば!」
「わかってるけど、お湯もったいないし」
「そういう問題じゃありません。全然分かってないじゃないのよ、もう」
リーシャは頬を膨らませながら、ベッドに潜り込む。
「一緒に入る?」
「ぴょ?」
なんだかぽちも嫌そう。
そもそもモンスターがお風呂って、なんか違うのかな。
二人にフラれたボクは、一人でひとしきりお風呂を堪能したあと、リーシャの隣で眠りについた。
◇ ◇ ◇
「いい天気で良かったね」
空は雲一つなく晴れ渡り、遠くで鳥がさえずっていた。
病が解決したせいもあるのか、街の中はどこまでも明るい。
あの嫌な匂いも全然なくなったし、みんなの表情も明るい気がするな。
「もうお昼だけどね」
ぽちの頭の上に乗るリーシャが、他の人には聞こえないくらいの小さな声でぼそっと呟いた。
「ごめん……」
あのふかふかのベッドと、お風呂にゆっくり入ったせいか、珍しく寝坊してしまったんだ。
転生してから、こんなこと初めてかもしれない。
「気が緩んじゃったかな」
「いいんじゃない、別に。疲れてたんでしょう?」
「うん、そうかも。でもきっと、二人がそばにいてくれたからだと思うよ?」
リーシャはふんっと言いながら、そっぽを向く。
あとでなんか美味しいものを買ってあげよう。
ずっと寝てるボクを、文句も言わずに待っててくれたんだもん。
せめて何かしてあげないとね。
本当はもっと稼いで、服とか……リーシャが着れる服とかあるのかな。
手先が器用だったら作れそうだけど。
「リーシャの服とかも見れたらいいのに」
「さすがにこのサイズはないんじゃない?」
「大きい街に行ったらないかな」
「どうかしら」
「あったら見てみたいなぁ」
「別になくても困らないけど」
「ボクが見たいのー」
「変わってるわね、ルルドは」
そうかな。
仲間のものが欲しいっていうのは、普通だと思うんだけどなぁ。
今が猫だからそう思うだけだと思うんだけど。
「清算が終わったら、また三人で旅だね」
「そうね」
ああ、次に行く街のこととかも知りたいし、地図も欲しいな。
それにモンスター図鑑も。
この前の戦闘みたいに、迷惑をかけないようにしなきゃ。
旅を続けるなら、知識は多い方がいいもんね。
「今日は次の旅に必要なものばっかりだけど、ごめんね」
「別にかまわないわよ」
「でもさ」
「うん」
「なんかデートみたいだね」
ボクの言葉に、リーシャは吹き出した。
あれ? またボクなんか間違えたかな。
「ダメだった?」
「だから、そこで小首をかしげないの!」
「えー。だって。デートとかしたことないしさ。なんか、こんな感じなのかなって思っちゃって」
「もーーー。そういうとこ!」
「?」
ボクが尋ねても、リーシャはどういうことなのか教えてはくれなかった。
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こういうのを女心とか言うのかな。
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リーシャに触れようとした瞬間、いつか感じたものと同じ視線が突き刺さった。
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