異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
33 / 49

033 どこの世界でも共通

しおりを挟む
「え? 今の……」

 前に街を出ようと思った時に感じた視線と同じ気がする。
 あの時は、井戸の犯人のものだって思ってたんだけどそうじゃないのかな。

 どうしよう。
 二人を連れているし、一旦ギルドに避難した方がいいかな。

「大丈夫よ、ルルド。そこまで殺気は感じないから」
「そこまでって⁉ 十分ダメだと思うけど?」

 リーシャもこの視線を感じ取っていたんだ。
 さすが元冒険者。

 もしかしなくても、リーシャの方がボクよりもずっと優れてるんだよな。
 にしても、多少であっても殺意があるなら危ないんじゃあ。

 しかしリーシャもぽちも、いつもと何も変わらない様子で歩いている。
 慣れっこになんてなることはないだろうけど、大丈夫かな。

「でもリーシャ」
「ん-?」
「少しでも殺意があったら危ないんじゃないの?」
「そう? だって考えてルルド。例えばよ? 何かの争奪戦をしていたり、食べ物とかがかかっていたら多少の殺気ぐらいない?」
「えー」

 何かの争奪戦って……。
 ボクはぼんやりと頭の中に、バーゲン品に命をかけるおばちゃんたちが浮かんでくる。

 あ、うん。
 ボクは無理だな。
 つぶされちゃう。

「あー、なんか想像ついたかも」
「そう? それくらいの殺気でしかないから、気にすることはないわ」
「……うん」

 だけど、何をどうしたらそんな殺気をボクに向けてくるんだろう。
 別に知り合いがいるわけでもないし、ボクがいいものを持っているわけでもない。

 しかもお金を持ってそうにも見えないだろうし。

「あ! きっとリーシャとぽちが可愛いからだ」
「は⁉ なんでそうなるのよ」
「だってそれしかなくない? 二人を狙っているのかもしれないよ」

 密漁とか捕獲まではされないにしても、ほら、ストーカーとか。
 異世界ストーカーか。
 そういう文化みたいなのはどこも共通かな。

 うれしくないけど。

「どっちにしても、警戒しておいた方がいいね。ぽち、何かあったらすぐにリーシャを乗せて高く飛ぶんだよ?」
「ぴっぴょ!」

 身振り手振りでも、最近はぽちと意思疎通が出来ている気がする。
 モンスターって頭いいんだな。
 成長もすごく早いし。

 気づけば、もふもふとしたグレーの毛はほぼ抜け落ち、親鳥と同じ羽の色になっている。
 目の大きさとかは変わりないけど、ずいぶんシュッと細くなった印象だ。

 しかも背が伸びているし。
 ボクもぽちくらい背が伸びたいよ。

「ルルド、ついたみたいよ?」

 ボーっと歩いていたボクにリーシャが声をかけてきた。

 見上げれば目の前に、一軒の派手な店がある。
 店の外壁はいろんな色のペンキで模様が描かれていた。
 
 だがそれ以上に目を引くのが、軒先にかけられたトカゲだ。
 干物とでもいうのかな。
 干からびてる……。

 これじゃあ、普通の人は入れないと思うんだけど。
 さすが魔法の用品を扱っている店って感じだ。

 中には魔女とかいたりして。

「まだ他にも買い物あるんでしょう? とっとと入るわよ」

 いろんなものが気になって仕方ないボクとは違い、リーシャはぽちに指示を出して先に入ってしまう。

「ええええ、待ってよ、リーシャ」

 いくらなんでも、二人で入ってったらビックリされちゃうってば。
 もー。なんでも早すぎるんだよ。

「いらっしゃ……鳥と猫?」
「すみません、ボクもいます!」

 追いかけてすぐ店に入ると、店員さんと目が合う。

「んと、お店番?」

 思わず声に出してしまうほど、店員さんは幼かった。
 歳はボクと同じくらいだろうか。

 薄茶色のやや長めの髪の毛を耳の下で二つ結びし、薄緑の瞳が可愛らしい女の子。
 きょとんとした顔をすると、さらに幼く見える。

 いきなりこんな三人組が入ってきたら、そりゃあビックリするよね。
 もしかして怖がらせちゃったかな。

「あ、怪しいものじゃなくて。んと、ギルドから話は来てないかな? 魔物に付ける首輪を買いにきたんだけど、あのお母さんとか誰か……」
「あはははは。いや、いいんじゃ。ココはワシの店だから」

 顔に似合わないしゃべり方。
 しかも自分の店って言ったっけ?

「子どもなのに、なんかいろいろとすごいね」
「お主とて、子どもじゃろうがよ」
「いや、まぁ、うん」
「それに言うて、ワシは子どもでもないのじゃ。見た目は、コレだがの」
「えええ」

 なんか……そういう種族さんってことかな。
 いや、ボクも十分きっと若くはないんだけど。

「ワシはこの魔法具屋の店主、ユメリだ」
「ボクはルルド。で、こっちの白猫がリーシャで、この鳥がぽちです」

 ボクは急いで紹介したあと、頭を下げた。
 コメリは物珍しそうにボクたちを眺めたあと、ニコリと笑った。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

処理中です...