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036 やっと一個

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 ユメリの店をあとにしたボクたちは、街の中に出ていた出店で食べたいものを買い、宿へ戻った。

 次の日はぽちが森へ行きたがっていたので、単独行動させることになる。
 するとリーシャも見て回りたいからと、結局バラバラの別行動となった。

 それでも日が暮れる頃にはみんなが宿に戻ってきて、共に食事をとり、共に寝る。
 なんだかそんな日常が、ボクには嬉しかった。

 そしてザイオンとの約束の日、お昼前に宿の部屋を片付けて、お礼を言ったあとボクたちはギルドへ向かった。

「さすがにぽちの首輪代くらいは足りたかな?」

 歩き始めたボクは、ふとそんな不安に駆られた。

 魔法具って自分で買ったことはなかったけど、なんとなく高いことだけは知っている。
 だからこそ、ユメリの店で値段を聞くのが怖かったんだよね。

 いや、そこはあえて聞いておくべきだったんだろうけど。
 でも、なんとなくさ。

 聞いたら怖くて買えなくなるような気がしたから。

「動画、何本分の収入なの?」

 ぽちの頭の上は、リーシャの定位置になりつつある。
 そんな少しボクより高い位置から、リーシャが尋ねた。

 何本だっけ。
 確か、サイラスたちと最後の撮影になったアレのお金もまだだったんだよね。

 ってことは、あれとリーシャを助けた時の、あとは間に合えば井戸の戦闘シーンのが入ってるけど。

「この前の井戸のは時間的にまだそうだから、たぶんその前の二本分じゃないかなー」

 一個はパーティ全滅だし。
 もう一個は元のメンバーでもないからなぁ。

 売上的にはそんなにないどころか、違約金とか発生してないといいけど。

「そういえば、パーティー全滅したのに、よく水晶の使用許可取れたわね。
「ああ、それね。前の全滅した時にギルドからスポンサーさんへ連絡入れてもらったんだ。向こうも申し訳ないと思ったのか、撮れ高があるうちは自由に使っていいって許可もらったの」
「せめてものって感じなのかしらね」

 どうなのかな。
 ああいう人たちって、どこまでも自分たちの利益優先な気もするけど。

 そうはいっても、ボクも直接やりとりしていたわけじゃないから、なんとも言えないな。

「どうかな。でも、そうだといいな」
「なんかさ、ルルドって配信の撮影は嫌いなんだと私は思ってたのに、そうでもないのね」
「すごく好きってわけじゃないけど……。ボクが嫌いだったのは、あの与えられた役でしか動けないところだったからなぁ」

 どこまでも役立たずで、モブでしかないところが嫌だった。
 でもその役から解放されて、自分で考えて動いて撮影するようになってからは、嫌悪感みたいなものは少なくともない。

「恥ずかしいってのは、未だにあるけど。でも、考えてみんなで動くっていうのは好きかな」

 そこまで言って、ボクはふと立ち止まる。

「ルルド?」

 そっか。
 ボクはこういうのが好きだったんだ。

 みんなで考え、みんなで一致団結して動く。
 そこにはモブも作られた役もなくて、ただ一応のシナリオがあるだけ。

「自由に決めれて動いて考えるのって、楽しいんだなって。もちろん、みんながいてこそだけどね」
「一個、自分の好きなことが見つかったのねルルド」
「うん……そうかも。ありがとうリーシャ。気づかせてくれて」

 笑顔でお礼を言うと、リーシャも嬉しそうに微笑み返してくれる。
 暖かく優しい日差しが降り注ぎ、風がどこからか甘い花の匂いを運んでくる。

 なんか、いい日だな。

 そんな風に思いながら再び歩き出し、ギルドのドアを開けた。

「こんにちわー」

 ドアを開け、中に入ると冒険者たちの視線が一斉にボクに集まる。
 あれ。なんかやっちゃったかな?

 固まるボクをよそに、冒険者たちがわらわらと集まってきた。

「主役がきたぞー」
「おお、ギルド長起こしてこい」
「こんな小さな子が主役なんだから、本当にすごいよなぁ」

 頭をなでられたり、関心されたり。
 フレンドリーな対応に、ボクは戸惑う。

「あ、あの?」
「おい、ルルドが怖がってるだろう」
「わわわっ」

 そんな輪の中から、急にひょいっと持ち上げられ、救出される。
 さすがにそっちの方がビックリしたなんて言えなかったけど。

 見上げれば、ボクを持ち上げたのはガルドだった。
 いくらボクが大きくないとはいえ、そんなに軽い方でもないと思うんだけど。
 
 強く鍛えた冒険者っていうのは、なんか違うんだろう。
 筋肉とか、筋肉とか。

「あ、ありがとうございます、ガルドさん」
「いや、みんながこの街の事件を解決したルルドを見たがってな」
「あの作戦に参加した方たちですよね?」
「ああ、そうだ。みんなてっきり、ザイオンの指示かと思っていたらしい」

 ああ、そういうこと。
 ボクはザイオンさんにあの時の動きをお願いしたから。
 
 まさかみんな、ボクの意見だって思わなかったのかな。

「にしても、なんだかすごいですね」
「いや、すごいのは全部この事態を見抜いていやルルドさ」
「あ、ランタスさん」
「ガルド、いい加減、ルルドをおろしてやれ」

 いいとこに来てくれた。
 さっきから、脇で支えられてぷらんぷらんしてたから、下して欲しかったんだよ。

「いや、あまりに軽いなぁって思って」
「計測してどーするんですか」
「あ、いや。なんとなく。ちゃんと食べてるか心配になってだなぁ」

 まったく、面倒見がいいのだろうけど。
 でも、ぷらんぷらんはさすがに嫌です。

 ボクが頬を膨らまして抗議すると、ガルドは『悪い悪い』と言いながら下してくれた。
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