37 / 49
037 急なお金持ち
しおりを挟む
「おいおい、ギルドで祭りを始めるのはやめてくれよ。片づけに困るからな」
奥からのっそりと、ザイオンが顔を出す。
三日前に見た時よりも、やっぱりかなり疲れている。
人増えたはずなのに、なんか大変そうだな。
目の下クマが出来ちゃってるし。
しかもザイオンの言葉など、冒険者たちはまったく気にする様子もない。
見たこともない料理たちや、お酒をテーブルに次々外から運び入れて並べていた。
うん。
どう頑張っても、もうお祭り騒ぎ始まっちゃう寸前じゃない?
「まったく……。ルルド、会計は出来てるから少し奥に来てくれ」
手招きされたボクは、ギルドのカウンターの奥へ呼ばれる。
「ザイオンがごまかすといけないから、ランタスもついてってやれよ」
「ああ、そうだな。それがいい」
なんかずいぶんな言われようだけど、お金の細かい話っていうのはあんまり得意じゃないんだよね。
もともと、自分で管理しなきゃいけないほどのお金って持ったことがないから。
「すみません。でもランタスさんがついてきてくれると助かります。ボク、あんまりお金の管理とかしたことなくて」
「大丈夫だ。ザイオンにちょろまかされると困るからな」
「おいおい、聞こえてんぞ」
少し先を歩くザイオンが、ため息交じりに声を上げる。
しかしみんながそれをスルーするあたりが、なんとも。
ザイオンは一番奥の部屋にボクたちを招きいれた。
乱雑に書類が山積みになったデスク。
その手前にある、やや小ぶりのテーブルとソファー。
「ああ、そこ座ってくれ」
「相変わらず、ギルド長室は汚いな」
「どこに何があるかだけ分かればいいんだよ」
「分かった……シーラにそう報告しておこう」
「本当にやめてくれ。家で雷が落ちる」
なんとなく二人のやり取りが想像できて楽しい。
ザイオンって、すごくシーラのコトが好きって感じだったもんなぁ。
なんかああいうの、いいなって思う。
「ふふふ」
「笑ってないで、助けてくれよルルド」
「でも、なんか楽しそうだし」
「まったく……。とりあえず、わかりやすく現物で用意してみた」
奥の金庫らしきものから、ザイオンがお金を運んでくる。
うん。
なんか、金色だなー。
金貨だっけ。
この世界のたぶん一番大きな通貨。
持ったことないけど。
布の上に、ザイオンは金貨を10枚並べる。
「えっと?」
金貨1枚で、どれくらいの価値だっけ。
確か昔、サイラスが宿の一年契約でとか言ってた気がする。
「これは?」
ザイオンは一旦それをおくと、再び金庫に戻る。
「えーーーっと?」
状況がまったく理解できないボク。
しかし隣に座るランタスは、まったく動じる様子はない。
「あとは、これだけだ」
ザイオンはそれ以外だと言って、金貨の下の通貨である銀貨と銅貨を持ってきた。
あわせて50枚ほどあるだろうか。
前回、サイラスたちが石化してしまった時に、その前まで分をもらったのが最後。
あの時は銀貨が5枚ほどだった気がするんだけど。
「二回分の配信料に、その前の危険手当が入っているそうだ」
「危険手当……そんなに危ない配信を行ったのか、ルルド」
「ボクじゃなくて。ボクのいたパーティーが、ですね」
苦笑いすると、ランタスは少し考えたあと、それ以上何も聞いては来なかった。
「にしても、これ……」
「ちゃんと二回数えたからな。ごまかしてなんてないぞ?」
「いえ、そっちじゃなくて。ずいぶん多いなって」
すっかりザイオンはみんなが言ってたコト真に受けちゃってるけど、誰も本気でザイオンがごまかすなんて思ってないのに。
むしろ、予想していた金額の倍以上ある気がする。
「危険な配信をしたっていうんだから、視聴率も良かっただろうし。手当がつけば、こんなもんだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、金額的には間違っていないと思う。上位配信者はかなりの稼ぎがあると聞いたことがあるしな」
二人がそう言うのだから、間違いはないのだろう。
だけど困ったな。
こんなに大金。
持ち歩くにしたって、なんにしたって。
お金持ちとか、人生初すぎる。
「えっと、これどうすれいいんですかね。あ、先に首輪代払います!」
「ああ。それはいい。街の者たちからのプレゼントだ。大したものではないがな」
「いえいえ。ダメです。アレ結構高かったですよね?」
魔法が込められている以上、決して安くなんてない。
普通の魔石だって、高いものは金貨ぐらいの値段がするって聞いたことあるし。
「あの店の値段は、ユメリの気分だからな。思ったより安くてビックリしたぐらいだ。よほど気に入られたんだな、ルルドは」
「そうなんですか?」
「ああ。だから、あれは構わない。街を救ってもらったお礼にしては安すぎるくらいだ」
そうかな。
配信料までもらっちゃってるのに、なんだか気が引けるのはボクだけだろうか。
でもリーシャに言ったら『くれるって言ってるんだから、ありがたくもらっちゃいなさい』とか言いそう。
「……うー。すみません、ありがとうございます」
ボクの言葉に、二人もなんだか嬉しそうだ。
どうやら、返答はコレで間違っていなかったみたい。
ものよりも、その気持ちがボクの心の中をぽかぽかさせていた。
奥からのっそりと、ザイオンが顔を出す。
三日前に見た時よりも、やっぱりかなり疲れている。
人増えたはずなのに、なんか大変そうだな。
目の下クマが出来ちゃってるし。
しかもザイオンの言葉など、冒険者たちはまったく気にする様子もない。
見たこともない料理たちや、お酒をテーブルに次々外から運び入れて並べていた。
うん。
どう頑張っても、もうお祭り騒ぎ始まっちゃう寸前じゃない?
「まったく……。ルルド、会計は出来てるから少し奥に来てくれ」
手招きされたボクは、ギルドのカウンターの奥へ呼ばれる。
「ザイオンがごまかすといけないから、ランタスもついてってやれよ」
「ああ、そうだな。それがいい」
なんかずいぶんな言われようだけど、お金の細かい話っていうのはあんまり得意じゃないんだよね。
もともと、自分で管理しなきゃいけないほどのお金って持ったことがないから。
「すみません。でもランタスさんがついてきてくれると助かります。ボク、あんまりお金の管理とかしたことなくて」
「大丈夫だ。ザイオンにちょろまかされると困るからな」
「おいおい、聞こえてんぞ」
少し先を歩くザイオンが、ため息交じりに声を上げる。
しかしみんながそれをスルーするあたりが、なんとも。
ザイオンは一番奥の部屋にボクたちを招きいれた。
乱雑に書類が山積みになったデスク。
その手前にある、やや小ぶりのテーブルとソファー。
「ああ、そこ座ってくれ」
「相変わらず、ギルド長室は汚いな」
「どこに何があるかだけ分かればいいんだよ」
「分かった……シーラにそう報告しておこう」
「本当にやめてくれ。家で雷が落ちる」
なんとなく二人のやり取りが想像できて楽しい。
ザイオンって、すごくシーラのコトが好きって感じだったもんなぁ。
なんかああいうの、いいなって思う。
「ふふふ」
「笑ってないで、助けてくれよルルド」
「でも、なんか楽しそうだし」
「まったく……。とりあえず、わかりやすく現物で用意してみた」
奥の金庫らしきものから、ザイオンがお金を運んでくる。
うん。
なんか、金色だなー。
金貨だっけ。
この世界のたぶん一番大きな通貨。
持ったことないけど。
布の上に、ザイオンは金貨を10枚並べる。
「えっと?」
金貨1枚で、どれくらいの価値だっけ。
確か昔、サイラスが宿の一年契約でとか言ってた気がする。
「これは?」
ザイオンは一旦それをおくと、再び金庫に戻る。
「えーーーっと?」
状況がまったく理解できないボク。
しかし隣に座るランタスは、まったく動じる様子はない。
「あとは、これだけだ」
ザイオンはそれ以外だと言って、金貨の下の通貨である銀貨と銅貨を持ってきた。
あわせて50枚ほどあるだろうか。
前回、サイラスたちが石化してしまった時に、その前まで分をもらったのが最後。
あの時は銀貨が5枚ほどだった気がするんだけど。
「二回分の配信料に、その前の危険手当が入っているそうだ」
「危険手当……そんなに危ない配信を行ったのか、ルルド」
「ボクじゃなくて。ボクのいたパーティーが、ですね」
苦笑いすると、ランタスは少し考えたあと、それ以上何も聞いては来なかった。
「にしても、これ……」
「ちゃんと二回数えたからな。ごまかしてなんてないぞ?」
「いえ、そっちじゃなくて。ずいぶん多いなって」
すっかりザイオンはみんなが言ってたコト真に受けちゃってるけど、誰も本気でザイオンがごまかすなんて思ってないのに。
むしろ、予想していた金額の倍以上ある気がする。
「危険な配信をしたっていうんだから、視聴率も良かっただろうし。手当がつけば、こんなもんだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、金額的には間違っていないと思う。上位配信者はかなりの稼ぎがあると聞いたことがあるしな」
二人がそう言うのだから、間違いはないのだろう。
だけど困ったな。
こんなに大金。
持ち歩くにしたって、なんにしたって。
お金持ちとか、人生初すぎる。
「えっと、これどうすれいいんですかね。あ、先に首輪代払います!」
「ああ。それはいい。街の者たちからのプレゼントだ。大したものではないがな」
「いえいえ。ダメです。アレ結構高かったですよね?」
魔法が込められている以上、決して安くなんてない。
普通の魔石だって、高いものは金貨ぐらいの値段がするって聞いたことあるし。
「あの店の値段は、ユメリの気分だからな。思ったより安くてビックリしたぐらいだ。よほど気に入られたんだな、ルルドは」
「そうなんですか?」
「ああ。だから、あれは構わない。街を救ってもらったお礼にしては安すぎるくらいだ」
そうかな。
配信料までもらっちゃってるのに、なんだか気が引けるのはボクだけだろうか。
でもリーシャに言ったら『くれるって言ってるんだから、ありがたくもらっちゃいなさい』とか言いそう。
「……うー。すみません、ありがとうございます」
ボクの言葉に、二人もなんだか嬉しそうだ。
どうやら、返答はコレで間違っていなかったみたい。
ものよりも、その気持ちがボクの心の中をぽかぽかさせていた。
99
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。
森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。
一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。
これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました
黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。
これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる