異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
38 / 49

038 みんなでお祭り騒ぎ

しおりを挟む
「このまま持ち歩くには結構な額だが、どうする?」
「あー、確かに。どうすればいいですかね?」

 ボクはランタスを見上げる。
 買い物とかするには、多少持っていなきゃダメだけど、さすがに金貨を持ち歩くのは怖すぎる。

「銀貨と銅貨を20枚ずつもあれば大丈夫だろう。あとは預けた方がいいと思うが」
「預ける? どこかに預けれるんですか?」
「ああ、冒険者カードがあればギルドにも預けられる」

 ギルドって、そんなこともしてくれるんだ。
 確かに冒険者ギルドなら、ほとんどの街に存在している。
 
 各地にあるから、一番便利かも。

「冒険者カードあります! 預けたいです!」
「ルルドはギルドに預けるのは初めてか?」
「はい」
「初回なら、名前とか金額をこの紙に記載してくれ」

 バッグから冒険者カードを取り出し、ザイオンが持ってきた紙と鉛筆を前にふと止まる。
 すっかり忘れていたけど、ボクこの世界の文字書けないんだった。

 なんとか読むことは出来るんだけど、一度も習ったことがないから。
 象形文字みたいで、書ける気もしないし。

「あ……あの」

 ボクが言いかけるよりも前に、ランタスがボクのカードを見ながら名前や番号を記載してくれた。

 書けないって、なんとなく気づいてたんだ。
 でも言わずにやってくれるところが、優しいとこ。

 ボクもいつか、ランタスのようにスマートに出来る人になりたいな。

 そして銀貨と銅貨を20枚ずつ抜いた金額も、そこに書いてくれる。

 ボクはザイオンに促されるまま、預けない分のお金をバッグにしまった。
 思ったより、ずっしりとした重みがある。

 あっちの世界は紙のお金もそうだけど、キャッシュレスだったから、なんか新鮮な気分。
 子どものころ、貯金箱の中に貯めていたお金を持ち出しているみたい。

「最後に、ココにサインで出来るか? サインは記号でも、なんでも本人が認識できるものでいい」

 ランタスに言われて、開いている欄を確認する。
 四角く、ハンコでも押すような空白。

 なんて書こうかな。
 荷物受け取る時とかに書くようなものだよね。

 ボクは少し考えたあと、カタカナで『ルルド』と書いた。
 サインだし、ボクだけが分かればいいよね。

 ボクが書いたサインをランタスは興味深く見つめている。
 獣人の言葉って思ったかな。

 ごめんね、獣人語の方がもっと分からないんだ。
 なんてことは言えないけど。

「綺麗なサインだな」
「ありがとうございます、これぐらいしか書けなくて」
「いや、十分だろう」
「じゃあ、ルルド。これで預かりは完了だ。引き出したい時は、ギルドで冒険者カードを出して受付に言えばいい」
「ありがとうございます、ザイオンさん」
「いや。こちらこそ、本当にいろいろすまなかった」

 金庫にお金を入れたあと、ボクの目の前まで来ると、ザイオンは深々と頭を下げた。
 
「あ、あの。そんな、いいんです。気にしないでください。特に何かを頑張ったわけでもないですし」

 ボクは慌てて立ち上がり、ザイオンの肩に手を置く。
 しかしそれでもザイオンは頭を下げたままだった。

「頑張る頑張らないじゃなく、ルルドによってこの街が救われたことには変わりない。だから本当にありがとう」
「……よかったです。ちゃんとみんな救うことが出来て」

 ボクの言葉に、ザイオンはようやく顔を上げた。
 疲れてはいるけれども、その顔はホッとしている。

 明日からちゃんと寝れるといいな。
 そして少しずつ活気を取り戻しているこの街が、早く元通りになりますように。

 心からそう思った。

「さて、そろそろ主役を返さないと、あいつらここまで流れ込みそうだな」

 ザイオンはため息をつく。

「それよりも、ガルドのヤツが全部食べてしまってないかが問題だ」

 二人の言葉に、ボクはさっきのギルド内の様子を思い出す。

「あー、さっきの」
「街を救った英雄と祝賀会がしたいんだとさ」
「英雄だなんて、ボクそんなんじゃないのに」
「いいんだ。あいつらは、ただ単にこじつけお祭り騒ぎがしたいだけだ」

 あー。ただでさえ疲れているだろうザイオンの目が……。
 
「そうだな。ルルドが言うなら、それもありだろう」
「仕方ない。片づけも収拾も、あとでシーラを呼べばいいさ。きっと怒ってくれるはずだ」
「ふふふ、それ」

 なんだか本当にお祭り騒ぎのようで、ボクはわくわくしてきた。
 
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

処理中です...