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040 お散歩という名の (リーシャver)
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トコトコトコと自分の足音が聞こえそうなくらい、地面につく足はコミカルに動く。
真っ白な足が土埃で汚れるのはまだ慣れない。
それでもこの体になって良かったこともある。
「あー、かわいい猫ちゃんがいるー?」
「どこどこー?」
街の中の子どもたちに見つかっちゃった。
さすがに捕まると、永遠に撫でまわされるのよね。
私は後ろ足に力を入れると、そのまま家の塀に飛び乗る。
子どもたちが『わー』という歓声を上げる中、今度は屋根に飛び移った。
「ふぅ。こういう時は便利よね。魔法なんて使わなくたって、こんな高いとこにまで登れるんだから」
屋根の上から街を見渡せば、初めに来た時のような悲壮感はもうない。
皆が明るく、会話しながら生活している姿がよく見える。
「色とりどりの花も綺麗ね」
一息ついたあと、私は目的地へと急いだ。
急に出来た一人の時間。
まぁ、そうなるように仕向けたのは私なんだけど。
どうしてももう一度会話がしたかったから。
私は店の前までたどり着くと、ゆっくり屋根から降りる。
誰も気になどすることはないと思いつつも、つい昔の癖であたりを警戒してから店に入った。
「来るとは思ってたんじゃが、一人かい?」
「ええ。一人よ」
店に入るとすぐに、店主が声をかけてきた。
まるで私がくるのが分かっていたみたい。
前に見た時にも思ったんだけど、この店主は人ではないと思う。
かといって、エルフのような耳もないし。
「ユメリは何族なの?」
「ワシか? ハーフなんじゃよ」
「ああ。通りで。人ではないと思ったけど」
「そういうお主……リーシャじゃったか? そなたはそんな姿で辛くないのか?」
やっぱり気づいてたんだ。
私の体のこと。
この前、あの魔石のことを言われた時にそうじゃないかって気づいてはいたんだけど。
「どうして私のコト気づいたの?」
「お主がワシのことに気づいたのと同じじゃ。普通のモノとは少し違う。魔力の歪みみたいなものがあるからじゃよ」
確かにそう。
私がユメリを人ではないと認識したのも、まさにそれだから。
「ということは、やっぱり私が猫なんかじゃないっていうのは分かるってことよね?」
「わざわざそれを確認するために来たのかい」
「そうよ。私にとっては、重要なことなの」
私にとって……ルルドと旅を続けるにはとても重要なこと。
「そうじゃのう。お主レベルくらいの魔法使いで、しかも勘が良い者でなければ気づかぬじゃろう」
「私レベル……」
私がこの姿になってから、二年くらいだろうか。
あれからいろんな魔法使いだって、きっと成長しているはず。
だけど……。
「それなら、あなたみたいな特異な者に遭遇しない限りはしばらく大丈夫そうね」
「じゃろうな」
お互い顔を見合わせ、ふっと吹き出す。
今は大丈夫。
だけどそれは決して永遠じゃない。
いつかはどうにかしなければいけない日がくる。
そうなった時、私は何を選ぶのか。
自分でもまだ答えはない。
「それほどまでにルルドが気に入っているのじゃな」
「そうね……。命の恩人ってのもあるし、ルルドは私の過去を聞こうとはしないから」
「言わないのか?」
「ん……いつかは言わなきゃいけない日が来るのは分かってるわ。でも……巻き込みたくないし」
「あやつなら、お主のこともちゃんと見てれると思うんじゃがのう」
「そうね、きっと。だから嫌なのよ。ルルドは底抜けにお人よしだから……」
どんなことでも放っておけないルルド。
その一番そばにいる私の本当のことを知ったら、きっとルルドは止まれなくなる。
せっかく自分のやりたいことを見つけて、動き出せたっていうのに。
そんなルルドの旅を邪魔したくない。
「ルルドにはルルドが望む道を進んで欲しいの。私なんかのために、遠回りなんてしてほしくない」
「まぁ、部外者のワシはなんとも言わぬが。当てのない旅なら、その遠回りにも意味があるだと思うのじゃがな」
「……」
「どちらにせよ、お主にも救いがあることを願うばかりじゃ。また朗報が入ればすぐ知らせる」
「うん。ありがとう」
朗報か。
私はユメリの顔を見ることが出来なかった。
今自分が、どんな顔をしているのか。
知られたくなかったから。
自分でもわがままだって思ってる。
本当のことをルルドに言わないのに、そのためにいつかルルドに迷惑をかけることも分かっているのに。
それでもルルドと旅をしたいって思ってしまう。
「卑怯よね……」
姉なんて言っておきながら、たぶん私が一番ルルドに助けてもらってる。
この小さな手も、体も、役になんてたいして立たない。
魔法は使えないこともないけど、一日一回が限度だ。
うじうじと考えながら、私はそれでもルルドがいる宿を目指す。
「はぁ」
「あー、リーシャー!」
いつもの声に私は声を上げる。
嬉しそうに大きく手を振るルルドが、走ってくる。
「どうしたの? そんなに大きな声出して」
「え? だってリーシャを見つけて嬉しかったから」
「へ?」
「やっぱり別行動は、なんか落ち着かなくて」
ルルドは鼻の頭をかきながら、照れくさそうな顔をする。
その顔を見ただけで、自分の中のモヤモヤした黒い感情は消えていた。
「もう、子どもみたいなコト言わないのよ」
「えー。だって、なんかさぁ。あ……」
「ん?」
「リーシャ、ミモザの花の匂いがする」
急にルルドが私に顔を近づける。
「ちょ、ちょっと。これでも私はレディなんですからね。そういうのダメよ!」
「えへへ。いい匂いだなって思って。ごめーん」
「まったくもう」
私がついていないと、ルルドはっていつも言っているけど。
本当はルルドがいないと私は……。
なんて、今は教えてあげない。
でも、いつかきっと……ね。
夕焼けにぽちが飛来してくるのが見える。
いつかはいつかなのだから、私は今だけを見た。
真っ白な足が土埃で汚れるのはまだ慣れない。
それでもこの体になって良かったこともある。
「あー、かわいい猫ちゃんがいるー?」
「どこどこー?」
街の中の子どもたちに見つかっちゃった。
さすがに捕まると、永遠に撫でまわされるのよね。
私は後ろ足に力を入れると、そのまま家の塀に飛び乗る。
子どもたちが『わー』という歓声を上げる中、今度は屋根に飛び移った。
「ふぅ。こういう時は便利よね。魔法なんて使わなくたって、こんな高いとこにまで登れるんだから」
屋根の上から街を見渡せば、初めに来た時のような悲壮感はもうない。
皆が明るく、会話しながら生活している姿がよく見える。
「色とりどりの花も綺麗ね」
一息ついたあと、私は目的地へと急いだ。
急に出来た一人の時間。
まぁ、そうなるように仕向けたのは私なんだけど。
どうしてももう一度会話がしたかったから。
私は店の前までたどり着くと、ゆっくり屋根から降りる。
誰も気になどすることはないと思いつつも、つい昔の癖であたりを警戒してから店に入った。
「来るとは思ってたんじゃが、一人かい?」
「ええ。一人よ」
店に入るとすぐに、店主が声をかけてきた。
まるで私がくるのが分かっていたみたい。
前に見た時にも思ったんだけど、この店主は人ではないと思う。
かといって、エルフのような耳もないし。
「ユメリは何族なの?」
「ワシか? ハーフなんじゃよ」
「ああ。通りで。人ではないと思ったけど」
「そういうお主……リーシャじゃったか? そなたはそんな姿で辛くないのか?」
やっぱり気づいてたんだ。
私の体のこと。
この前、あの魔石のことを言われた時にそうじゃないかって気づいてはいたんだけど。
「どうして私のコト気づいたの?」
「お主がワシのことに気づいたのと同じじゃ。普通のモノとは少し違う。魔力の歪みみたいなものがあるからじゃよ」
確かにそう。
私がユメリを人ではないと認識したのも、まさにそれだから。
「ということは、やっぱり私が猫なんかじゃないっていうのは分かるってことよね?」
「わざわざそれを確認するために来たのかい」
「そうよ。私にとっては、重要なことなの」
私にとって……ルルドと旅を続けるにはとても重要なこと。
「そうじゃのう。お主レベルくらいの魔法使いで、しかも勘が良い者でなければ気づかぬじゃろう」
「私レベル……」
私がこの姿になってから、二年くらいだろうか。
あれからいろんな魔法使いだって、きっと成長しているはず。
だけど……。
「それなら、あなたみたいな特異な者に遭遇しない限りはしばらく大丈夫そうね」
「じゃろうな」
お互い顔を見合わせ、ふっと吹き出す。
今は大丈夫。
だけどそれは決して永遠じゃない。
いつかはどうにかしなければいけない日がくる。
そうなった時、私は何を選ぶのか。
自分でもまだ答えはない。
「それほどまでにルルドが気に入っているのじゃな」
「そうね……。命の恩人ってのもあるし、ルルドは私の過去を聞こうとはしないから」
「言わないのか?」
「ん……いつかは言わなきゃいけない日が来るのは分かってるわ。でも……巻き込みたくないし」
「あやつなら、お主のこともちゃんと見てれると思うんじゃがのう」
「そうね、きっと。だから嫌なのよ。ルルドは底抜けにお人よしだから……」
どんなことでも放っておけないルルド。
その一番そばにいる私の本当のことを知ったら、きっとルルドは止まれなくなる。
せっかく自分のやりたいことを見つけて、動き出せたっていうのに。
そんなルルドの旅を邪魔したくない。
「ルルドにはルルドが望む道を進んで欲しいの。私なんかのために、遠回りなんてしてほしくない」
「まぁ、部外者のワシはなんとも言わぬが。当てのない旅なら、その遠回りにも意味があるだと思うのじゃがな」
「……」
「どちらにせよ、お主にも救いがあることを願うばかりじゃ。また朗報が入ればすぐ知らせる」
「うん。ありがとう」
朗報か。
私はユメリの顔を見ることが出来なかった。
今自分が、どんな顔をしているのか。
知られたくなかったから。
自分でもわがままだって思ってる。
本当のことをルルドに言わないのに、そのためにいつかルルドに迷惑をかけることも分かっているのに。
それでもルルドと旅をしたいって思ってしまう。
「卑怯よね……」
姉なんて言っておきながら、たぶん私が一番ルルドに助けてもらってる。
この小さな手も、体も、役になんてたいして立たない。
魔法は使えないこともないけど、一日一回が限度だ。
うじうじと考えながら、私はそれでもルルドがいる宿を目指す。
「はぁ」
「あー、リーシャー!」
いつもの声に私は声を上げる。
嬉しそうに大きく手を振るルルドが、走ってくる。
「どうしたの? そんなに大きな声出して」
「え? だってリーシャを見つけて嬉しかったから」
「へ?」
「やっぱり別行動は、なんか落ち着かなくて」
ルルドは鼻の頭をかきながら、照れくさそうな顔をする。
その顔を見ただけで、自分の中のモヤモヤした黒い感情は消えていた。
「もう、子どもみたいなコト言わないのよ」
「えー。だって、なんかさぁ。あ……」
「ん?」
「リーシャ、ミモザの花の匂いがする」
急にルルドが私に顔を近づける。
「ちょ、ちょっと。これでも私はレディなんですからね。そういうのダメよ!」
「えへへ。いい匂いだなって思って。ごめーん」
「まったくもう」
私がついていないと、ルルドはっていつも言っているけど。
本当はルルドがいないと私は……。
なんて、今は教えてあげない。
でも、いつかきっと……ね。
夕焼けにぽちが飛来してくるのが見える。
いつかはいつかなのだから、私は今だけを見た。
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