異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
41 / 49

041 それはすとーかー

しおりを挟む
 街を出てからしばらく無言だったリーシャも、お昼ごはんを食べる頃にはまたいつものリーシャに戻っていた。

 本当は聞いた方がいいのかな。
 そんな風にも思ったけど、聞いてもボクは本当にリーシャの力になれるのだろうか。

 抱えているものの大きさが、なんとなく伝わってくるからこそ、結局リーシャが言い出すまでは待とう。
 そう考えてしまった。

 だからせめてリーシャの気持ちが落ち着くように。
 せめてものじゃないけど、ボクもいつも通り努めることにした。

「ルルド! 落ちるわよ?」
「えー?」

 崖の端で、水晶を掲げたボクはリーシャの言葉に振り返る。
 お昼ご飯を作るあたりから、初の旅配信を始めたところだった。

「大丈夫だよー。ほら、景色、綺麗ですよね」

 崖下には、青々とした湖が見える。
 崖近くまで近づかないと、木々に邪魔されてのぞき込むことが出来ないその絶景は、ここに来なければ見えないものだろう。

 湖は、海ではないかと思うほど大きく、その対岸は見えない。
 どこからか降りる場所があるんだろうけど、この位置からでは無理かな。

「リーシャも見てみなよ! すごいよー。湖面がキラキラしてる。中の石かなぁ。なんか宝石が沈んでるんじゃないかってくらい綺麗だ」

 どんよりとした朝とは変わり、雲の隙間から日が降り注ぐ。
 その光に反射するように、湖が輝いていた。

「だから、危ないってば」
「大丈夫だっ……うわぁぁぁぁぁ‼」
「ルルド!」

 崖のギリギリに立っていたボクの足場が、急にぬるりと落ちていく。
 その瞬間、体勢は崩れ足から落ちていく感覚を覚えた。

 まずいと思っても、両手で持っている水晶を離すわけにもいかない。

 木にぶつかりながら滑り落ちていくものの、その先を考えると気が遠くなる。
 しかし次の瞬間、体が軽くなった。

「ぅえ」

 恐る恐る目を開けると、ボクのリュックをぽちがその足で捕まえている。
 そしてそのまま器用に、元居た場所まで上昇してくれた。

「ううう。ありがとう、ぽち」
「ぴよーん」

 小首をかしげボクを見るぽちは、あまり事態を分かってはいないようだった。
 だけど褒めてと言わんばかりに、ボクに顔を近づけてくる。

「うんうん、ごめん、ありがとう。本当に助かったよ」

 ぽちを撫でると、やっと生きた心地がしてくるのが分かる。

「もー! だから危ないって言ったじゃないの、ルルド!」

 今にも泣きだしそうなリーシャが、ボクに駆け寄ってきた。

「ごめん、リーシャの言う通りだったよ」

 木々ですり切れたいたるところが痛む。
 ああ、失敗しちゃった。

 まだ旅は始まったばかりなのに。
 こんなことでポーション使っていたら、次の街までもたなくなっちゃう。

 へたり込み、しょぼくれるボクの頬に、よじ登ってきたリーシャが触れた。

「きゃーーーー、アタシのルルド君がぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「え?」
「へ?」

 ひと際甲高く、不釣り合いなほど大きな声が森の中に響き渡った。

 その声の主は、木陰から飛び出してボクに近づいてくる。

 えっと、なになになに?

 ハテナしか浮かばないボクたちとは違い、白銀の長い髪に薄紫の瞳をした16歳くらいの少女はボクに手を当てる。

「あ、の?」
「ヒール」

 呪文を唱えるその声は先ほどとは違い、涼やかな声質ながらも、しっかりとしたものだった。

 なんかこの子、聖女様みたいだなぁ。
 肌も真っ白だし。
 すごく綺麗だ。

「ふぅ。これで大丈夫」

 少女は汗でも拭うように、額を腕で撫でた。

 驚きながら、ボクは自分の体をくまなく見る。
 確かに、先ほどまで感じていた痛みは、もうどこにもない。

「すごーい。ありがとう」
「いいのよ、傷が残ったら大変だわ」
「んで、あんた誰?」
 
 今まで聞いたどんな時よりも低く、そして明らかに敵対心を込めながらリーシャがボクと彼女の間に立った。

 リーシャのその的確な問いに、ボクも冷静さを取り戻す。

 そうだった。
 ボク、確かにさっき名前を呼ばれたんだ。

「この前から虫が付いてると思ってたけど……」

 ブツブツいいながら、彼女は親指の爪を噛む。

「えっと……あの、お名前とか聞いてもいいですか?」
「ルルド君~。アタシはアイリ。んと、僧侶なの」

 リーシャを完璧に無視というか。
 ボクの問いに、アイリと名乗った彼女はとてもご機嫌そうだった。

 顔のやや下で両手を組み、にこやかな顔で頬を赤らめている。

 うん。益々この状況って……。

「アイリさん、あの……」
「さん、だなんて。アイリって呼んで?」

 語尾にハートが付いていそうなほど、アイリはボクが声をかけるたびに幸せそうな顔をする。

「アイリ、えっと君はどこから来たの?」
「どこから……そうね。王都からよ」
「うん。えっと……」
「だから、あんな何なのって言ってるのよ」

 そういえばさっきから、リーシャは普段通りだ。
 いつもなら、知らない人がいる時はちゃんと猫のフリをするのに。

 ビックリするほど不機嫌だし。
 どうしたんだろう。

「なに? アタシ今、ルルド君と会話してるんだけど。邪魔しないでくれる?」
「二人とも、喧嘩しないで。アイリはどうしてココに?」

「ルルド君のコトがずぅーっと気になって。この前の配信から、不用心だったし。だから……来ちゃったの」
「ふぇ?」

 来ちゃった?
 来ちゃったってことは、王都からってことだよね。
 ココからだと、かなり距離があるんじゃなかったかな。

 馬車を使ったって、それこそ1日や2日では来れない距離のはず。

 それなのに配信を見て、来ちゃったって言うのは……。

「追っかけ?」
「ストーカーね」
「ファンなの!」

 ボクたち三人の声は、見事に違う言葉でかぶってしまった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

処理中です...