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第一章
9.12月
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十二月の肌に刺さる冷たい空気。薄い雲は太陽を遮り、吐く息は白い。
文化祭や体育祭などの目ぼしいイベントが終わり、学校内が期末テストへとシフトし始めた。ひと月もしない内に年を越すのだ、世間も年末ムードに入り始めている。
「なんだか優しい顔。久しぶりに見たかも」
彼の表情は優しそう、というより無表情だ。しかし、となりを歩く少女にはそれが優しそうに見えたらしい。曇天の凍えるような空の下。彼は少女の突然の言葉に首を傾げる。
「いつもと同じつもりなんだが……こちとら期末テストのことを考えてモヤモヤしてるくらいだぞ?」
「え、そうなの? いつもはもっと眉間に皺寄って極悪そうな顔してると思うんだけど」
モコモコの手袋で前髪を退け、眉を中央に押し込みながら少女は精一杯眉間に皺を作ってみせた。だが人畜無害そうな可愛らしい彼女の面では威圧感など皆無である。
「え……俺ってそんなに目つき悪い……?」
「悪いよ? だからすぐ悪い人に絡まれるんじゃない」
「自覚はないんだけどな」
「それで? 何か良いことでもあったの?」
少女は首に巻いたマフラーを緩め、白い息を吐きながらしつこく詰め寄ってきた。黒くて大きな瞳は興味津々で輝いている。
「いや別に、何も……しいて言うなら期末テストが終わったら冬休みだなーって思っていたくらいだ」
「冬休み! 年末ってワクワクするよね。テレビも特番いっぱいだしイベント事も沢山」
やけにテンションが高くハイになる少女。
「年末が楽しみなんて今まで考えたことなかったんだけど……なんでだろうな、今年は少し楽しみだな、って」
彼は少し小恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「私はこの時期が一年で一番好きなんだ。誕生日があるっていうのもあるけどね」
「そういえば、――の誕生日って俺知らないな」
「ふふふ、なんと、クリスマス・イブなのです」
少女は胸を張って鼻を高くしてみせた。
「クリスマス・イブが誕生日なのって、プレゼントがクリスマスプレゼントと同じになるやつだろ?」
「って、思うでしょう? でもね、施設だとしっかりクリスマスとは別に祝ってくれるの。他の子たちもイベント事が二回あるからラッキーって思ってるんじゃないかな」
少女は足取り軽く、小さくスキップしながら誇らしげにしてみせた。
「だから年末を最大限に楽しむためにも、期末テストがんばろうね」
少女の見せる笑顔に、彼は思わず目を反らしてしまった。彼の頬は少し赤くなっている。
「なら、数学教えてくれないか。――、理数系は学年一桁順位だったろ?」
彼の提案に、少女は一瞬面食らったように固まっていた。
だがすぐに、
「……えっと、これからウチで……勉強する?」
今までウキウキ気分でいた少女は顔を赤くしながら地面を見たまま彼の袖を引っ張った。
「……えっと、それは……」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。お互いに明後日の方向を向きながら歩き続けた。
「……バイト終わりでもいいなら」
最初に沈黙を破ったのは、彼の方だった。
紅くなって下を向いていた少女は顔を勢いよく上げてみせると、綺麗な目が大きく見開かれた。
「だ、大丈夫! 遅くなっても施設の人には話しておくから!」
今まで囁くように話していた少女からは想像できないほどの声量。
思わず、そんな少女に見惚れてしまう。
「バイトが終わるのは九時くらいだから、終わったら『学園』に行くわ」
「う、うん……お待ちしています」
ギコチナイ二人は、再びお互いそっぽを向いたまま歩き続けた。
文化祭や体育祭などの目ぼしいイベントが終わり、学校内が期末テストへとシフトし始めた。ひと月もしない内に年を越すのだ、世間も年末ムードに入り始めている。
「なんだか優しい顔。久しぶりに見たかも」
彼の表情は優しそう、というより無表情だ。しかし、となりを歩く少女にはそれが優しそうに見えたらしい。曇天の凍えるような空の下。彼は少女の突然の言葉に首を傾げる。
「いつもと同じつもりなんだが……こちとら期末テストのことを考えてモヤモヤしてるくらいだぞ?」
「え、そうなの? いつもはもっと眉間に皺寄って極悪そうな顔してると思うんだけど」
モコモコの手袋で前髪を退け、眉を中央に押し込みながら少女は精一杯眉間に皺を作ってみせた。だが人畜無害そうな可愛らしい彼女の面では威圧感など皆無である。
「え……俺ってそんなに目つき悪い……?」
「悪いよ? だからすぐ悪い人に絡まれるんじゃない」
「自覚はないんだけどな」
「それで? 何か良いことでもあったの?」
少女は首に巻いたマフラーを緩め、白い息を吐きながらしつこく詰め寄ってきた。黒くて大きな瞳は興味津々で輝いている。
「いや別に、何も……しいて言うなら期末テストが終わったら冬休みだなーって思っていたくらいだ」
「冬休み! 年末ってワクワクするよね。テレビも特番いっぱいだしイベント事も沢山」
やけにテンションが高くハイになる少女。
「年末が楽しみなんて今まで考えたことなかったんだけど……なんでだろうな、今年は少し楽しみだな、って」
彼は少し小恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「私はこの時期が一年で一番好きなんだ。誕生日があるっていうのもあるけどね」
「そういえば、――の誕生日って俺知らないな」
「ふふふ、なんと、クリスマス・イブなのです」
少女は胸を張って鼻を高くしてみせた。
「クリスマス・イブが誕生日なのって、プレゼントがクリスマスプレゼントと同じになるやつだろ?」
「って、思うでしょう? でもね、施設だとしっかりクリスマスとは別に祝ってくれるの。他の子たちもイベント事が二回あるからラッキーって思ってるんじゃないかな」
少女は足取り軽く、小さくスキップしながら誇らしげにしてみせた。
「だから年末を最大限に楽しむためにも、期末テストがんばろうね」
少女の見せる笑顔に、彼は思わず目を反らしてしまった。彼の頬は少し赤くなっている。
「なら、数学教えてくれないか。――、理数系は学年一桁順位だったろ?」
彼の提案に、少女は一瞬面食らったように固まっていた。
だがすぐに、
「……えっと、これからウチで……勉強する?」
今までウキウキ気分でいた少女は顔を赤くしながら地面を見たまま彼の袖を引っ張った。
「……えっと、それは……」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。お互いに明後日の方向を向きながら歩き続けた。
「……バイト終わりでもいいなら」
最初に沈黙を破ったのは、彼の方だった。
紅くなって下を向いていた少女は顔を勢いよく上げてみせると、綺麗な目が大きく見開かれた。
「だ、大丈夫! 遅くなっても施設の人には話しておくから!」
今まで囁くように話していた少女からは想像できないほどの声量。
思わず、そんな少女に見惚れてしまう。
「バイトが終わるのは九時くらいだから、終わったら『学園』に行くわ」
「う、うん……お待ちしています」
ギコチナイ二人は、再びお互いそっぽを向いたまま歩き続けた。
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