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終わりと出会い

しばしの休憩

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「私は部下に知らせる要件が出来たので、しばらく失礼する」

ヴァルクは、3人に礼をすると変わらず堂々とした歩き方だが足早に部屋を出ていく。いくら長い経験を積み鍛えられた衛兵隊長だとしても、魔物の蹂躙が起きる可能性が有ると知れば動揺はする。だが、悟られぬ様に表情や態度は冷静を演じているが、行動から動揺が感じ取られる。それ程までに魔物の蹂躙とは恐ろしいのだ。部屋には3人だけが取り残されたが、豪華な装飾に慣れていないラドは居心地が悪そうだ。

「ふぅ~恐ろしかった。衛兵隊長とは威圧感あり過ぎじゃないか?」

ラドは、額から流れている汗をぬぐいながら疲れた顔をしながら衛兵隊長へ苦手意識が溢れる。

「仕方ないわよ。私たちは賊である可能性が有ったし、それに魔物の蹂躙と聞いて冷静でいられる人の方が少ないわ」
「シオンの話を信じて貰えたってことで良いんだよな?」
「えぇ、それに私達だけで残されたってことは信用もして貰えたみたいね」
「それにしても、隊長さんの行動早かったな。今は夜中だろ?それにギルドマスターを呼び出すってどういうことだ?」
「当たり前よ。魔物の蹂躙の可能性が少しでも有るのならその可能性を街を守る立場としては是が非でも潰したいでしょうから。ギルドマスターを呼ぶのは私が本当に冒険者組合に所属しているのかや森への調査依頼を出すためね」
「森への調査は衛兵がやるんじゃないのか?街に関わることなんだろ?」

街の危機であるため、調査を街の守り人である衛兵が調査を行わず自由で縛られることのないため、街を守る責任がない冒険者が調査をするのかがラドは分からないとシオンに聞く

「衛兵は、街を守ることを前提として鍛えられているから森での調査や戦闘はあまり向かないわ。それだったら日々森に入り森の事を良く知っている冒険者に依頼を出して調査してもらった方が確実だからよ。あまり衛兵が街の外で活動したって聞かないでしょ?」
「なるほどな・・・」

シオンの説明を聞き、確かに街の中で衛兵たちはが動いてるのは知っているが街の外で衛兵が活躍したという事をあまり聞かないとラドは納得した。自分が住んでいたフォルトの街でも、外で活動するのはもっぱら冒険者だった。

「勿論、街の危機が訪れる可能性が有れば衛兵も街の外で活動するけど、今回は早急に調査をする必要があるから森の専門家である冒険者に依頼を出すのよ」
「でも、冒険者は街に愛着がある訳じゃないし依頼を受けるのか?魔物の蹂躙が起こると知れば逃げ出すんじゃないのか?」

ラドはフォルトの街では情勢が悪くなった途端に冒険者たちは他の街へ移動してしまったことを思い出し、縛られることのない彼らは街から去ってしまうのではないかと疑問を浮かべたが、シオンは首を振って否定をする。

「いいえ、冒険者は移動しないし出来ないわ」
「出来ない?」
「えぇ魔物の蹂躙が起こる可能性が有る街に居る冒険者は魔物の蹂躙に対処する義務があるのよ。これは冒険者になる時説明されるわ。冒険者は自由の象徴だけど、魔物の均衡を保つための役目を担っているから人によって起こされた戦争なら参加する義務はないわ。けど魔物によって起こされた問題は冒険者は解決する義務があるのよ」
「そうなのか・・・」

ラドは、冒険者が何事にも縛られることがないと思っていたが魔物との戦いが義務付けられれているとは知らなかった。だが、それは魔物の蹂躙が起こった場合逃げることが出来ないという事を意味する。つまりシオンはこの街から逃げることが出来ないのだ。そのことに気付きハッとシオンの顔を見るが、シオンは優しく微笑み頷く。

「そう、私はこの街から離れられないわ。もし魔物の蹂躙が起きたらラドを連れて逃げてね」
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