異世界行ったら勇者と魔王が従者になった僕は平和に暮らしたい

ぎんぺい

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一章 はじまり

第二話 骨を接ぐ者

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 ……そして次に無苦朗が目を開けるた時に近くに居たのがこの、それぞれが馬と牛の頭を持つ二人組だったというわけだ。

「しっかしなんで人間がこんなとこにいやがんだろうな?」
「知るかよ。どうせトラップにでも引っ掛かったんだろ。間抜けな野郎だぜ。
 丁度良い、コイツでちょいと暇潰しでもするか」

 このインパクトある二人の姿は、無苦朗の異世界なんて本当にあるのだろうかという疑問を一瞬で解決してくれた。
 とにかく今はこの二人に協力を頼もう。言葉の壁という問題もどうやら無さそうだ。
 そう無苦朗が決心し口を開こうとしたその時。

「えっ?」

 無苦朗はつい間の抜けた声を出してしまう。
 なんと馬男が持っていた無苦朗の頭を手から離したのだ。
 無苦朗の頭が自然の法則にしたがいどんどん下へ落ちていく。
 このままでは地面に激突する。無苦朗がそう思った次の瞬間、顔の真横に衝撃が走る。

「ナイッシュウッ!」
「おおー飛んだ飛んだ」

 無苦朗の頭が今度はきりもみしながら上へと昇っていく。
 無苦朗の思い違いでなければ、自分の頭はあの馬男に思いっきり蹴り飛ばされたのだ。
 持ち前の石頭のおかげが、衝撃のわりに不思議と痛みは無かった。しかし、二人組が小さく見えるほど天高くまで飛ばされた無苦朗の心中は穏やかではなかった。恐怖を感じたのか。違う。怒りを感じたのか。それも違う。
 無苦朗は今、ある光景に目を奪われていた。

「⁉」

 無苦朗の目に写ったのは、天高く広がる青い空――を阻むように存在する巨大な生物の骨だった。
 なぜ無苦朗はそれを生物の骨だと思ったか。なぜならその骨は一本だけではなく、何本もの骨がいくつも組み合わされて一体の生物の姿を形成していたからだ。
 言わば博物館などに飾られている骨格標本である。しかし問題はその大きさだった。

「なんてサイズだ……!」

 その骨の一本一本は無苦朗が知る世界最大の動物、シロナガスクジラさえも小さく思えてしまうほどの馬鹿馬鹿しい大きさだった。それが無数に組合さっているのだ。全長などどれ程あるのか想像すらつかなかった。
 そんな物が無苦朗がいた地上をまるで覆うように存在しているである。
 このことでさらに無苦朗にここが異世界であるというのを確信させた。
 感動的にも思えるその光景に目を奪われていた無苦朗だったが、突然、視界が反転する。
 クルンと顔が下になり地上が見える。
そうだった。と無苦朗は今の自分が置かれた状況を思いだした。額から汗がふき出してくる。
 空から見た地上は、これまた無苦朗が今まで実際にお目にかかったことが無いものだった。
 周囲に広がる森の中でそこだけぽっかりと、まるでくり貫かれたように異質であった。
 言うなれば森という海に浮かぶ瓦礫の島。
 似たものを見たことがあるとすれば、それは空襲か大地震の起こった後の写真か映像くらいのものだ。
 自分はあそこに居たのか、と認識すると同時に、このまま落下すれば、いくら石頭と言えど、自分の頭はさながらスイカのようにぱっくりと、いやヘタをしなくても、もっと酷い事になるだろうと無苦朗は思った。
 どちらにしても死んでしまうことに変わりはないが。
 どうにか出来ないとできるだけ冷静に考えてみる無苦朗だったが、現実は非情。まるで良い案は浮かばなかった。
 しかし諦めたくないと思うのもまた事実。流されるまま生き返ったからといって、簡単に死んでも良いやとは無苦朗は思えなかった。
 スッと無苦朗は目を閉じる。諦めたわけではない。
 無苦朗は最後の手段として古代より人間がとってきた行動に出たのだ。つまり――

 お願いです神様。どうか助けてください。

 ――所謂、神頼みである。
 ふざけてやっているのではない。大真面目だ。というよりこの状況から首だけの男が他に助かる道が有るのなら是非知りたかった。

《条件クリア。一部特典の解放を許可します》

 すると奇跡か幻聴か、無苦朗の頭に直接響く聞き覚えが有るような無いような抑揚のない声。
 その声でハッと無苦朗はなにかに気づいたように目を開けた。
 この声はあの老人の、否、神様が持っていたパネルから聞こえた声だ。

《クラス『死霊魔術師』ネクロマンサーを解放。スキル『骨装義体』及び、禁断スキル『魂魄甦生』の発動を開始》

 さらに声が響く。そして無苦朗は見た。あの巨大な骨格標本から何かがこちらに向かって飛んでくるのを。
 何だと思い無苦朗は目を凝らした。するとそれはある意味、当然と言えるものだった。
 骨だ。大小、形は様々だが、飛んでくる物体は確かに骨だった。
 その無数の骨が無苦朗めがけて飛んできては、首から下へどんどん集まってくる。
何が起こっているのか無苦朗の頭では追い付かない。
 そうこうしている間に地面がどんどん近づいていく。
 無苦朗がもうダメかッ、と咄嗟に顔を守るように腕を上げた。
 ん? 

 ドシーンと大きな音を立てて瓦礫や砂ぼこりが舞い上がる。その中心には哀れな無苦朗の姿が――とはならなかった。

「これは……?」

 無苦朗は生きていた。しかもそれだけではない。彼はいま自分自身で立ち上がっていた。
 今の無苦朗は先程までの生首だけの姿ではない。
 例えるなら骨の肉体。様々な骨がとてつもない密度で密集し、人間の――無苦朗の肉体を形成したのだ。

「いったい僕の体は――どうなってしまったんだ⁉」
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