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二章
第九話 見つめる者
しおりを挟む「はっ、はっ、はっ」
足を止めて息を整える。
人混みに紛れて、別の路地へと逃げてきた。今度こそ誰も居ないはずだ。
壁にもたれて地べたに座り込む。背中に痛みが走った。踏まれたときに痣でも出来たのだろう。
「何だったんだアイツは……」
しかし気になるのはあの男。最初は分からなかったが見たことある顔だった。
懐から布袋を取り出し、見つめる。
これをスってやった間抜け面の男だ。
スった物の持ち主の顔なんて、普段は覚えてない。覚える気もない。ただ、何故か今回は妙に印象に残ってた。
「こいつを取り返しに来たついでに、なぶられると思ったんだけどな」
スった方とスられた方、お互いが会えばそうなる。
だが、あの男は自分を助けた。訳が分からなかった。
「ま、今ごろはモルジ逹にのされてんだろうけど」
それは確実だろう。
フィスはともかく、モルジには自警団へ入るだけの力――魔法がある。そんじょそこらの奴が勝てる相手じゃない。
だからこそ、モルジが起き上がってくる直前に逃げた。あのタイミングが唯一のチャンスだった。
「しばらくあそこら辺に近づかくのは、やめておくか」
「良かった。無事だったんだね」
ビクンと心臓が跳ねた。
まさかこの声は、と思い顔を上げる。
そこに立っていたのは、あの間抜け面の男だった。
◆ ◆ ◆
「体の方は大丈夫かい? だいぶ苦しそうだったけれど」
無苦朗は少年が見つかりホッとした。
いつの間にか居なくなっていたので心配したのだ。
「な、な、なッ⁉」
少年が口をパクパクさせている。
どうしたんだろうか。やらり何処か怪我をしたのだろうか。
「あまり無理に動かないで。そうだ、病院に行って診てもらおう」
無苦朗が少年へ手を伸ばす。立ち上がるのを手伝おうとしたのだ。が、少年が手を払いのける。
「俺に触るなッ!」
そう言って少年は立ち上がり、駆け出すそぶりを見せた。しかし、「グゥ」という苦しそうな声を上げると、体がよろけて倒れそうになる。
危ない、と思った無苦朗は自分の腕を少年の体へ回した。
「おっと!」
少年をの体を後ろから抱くような形で支える。
間に合って良かったと、一安心する無苦朗。すると、少年の体が震えていることが分かった。
どうしたのだろうか。
無苦朗が少年の顔を上から覗きこむ。キッと鋭い目で睨み付けられた。
「この変態野郎ォッ!」
「えぇっ⁉ グッ!」
少年の頭が急接近してきて、無苦朗の顔に直撃した。
痛くはなかった。しかし驚きでつい後ずさってしまう。
「テメエ、やっぱりそういうつもりで追いかけてきたんだな! この変態野郎が!」
少年の謂れのない罵倒が飛んでくる。頭突きをした場所が痛むのか、目に涙を溜めながら。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕はキミに何かをしようだなんて考えてないよ!」
「惚けんじゃねえ! どうせこれを盗られた仕返しに来たんだろうが!」
そう言うと、少年が手に持った何かを突き付けるように出してくる。
それを見た無苦朗はやっぱりと思った。
あれは間違いない。
「そうかキミが僕たちの布袋を――」
「はんっ、何を白々し「拾ってくれたんだね」――は?」
少年が口をポカンと開ける。
なぜ少年から気配がしていたのか不思議だったが、これで合点がいった。そして謝らなければいけなかった。
「すまない。僕のせいで濡れ衣を着せられてしまったんだね」
おそらく、この少年が盗人と思われたのは、あの布袋のせいだろう。無苦朗はそう思ったのだ。
あの男逹はやりすぎだったのは変わらない。しかし。
「元はと言えば全て僕の責任だ。キミはただ善意でやっただけなのに。本当にすまない!」
無苦朗は頭を下げた。今できる精一杯の誠意を表すために。
「……」
少年は何も言わない。
それはそうだろう、あんな目にあった元凶とも言える男の言葉だ。いくら謝ったところで彼の傷は癒えない。
「……そうだ! 病院へ行こう。何処にあるのか教えてもらえれば連れていくよ!」
ピーンと閃いた無苦朗は、少年へ提案する。
病院かは置いといて、治療できる施設はあるだろうと思ったからだ。
「費用はちゃんと僕が払う。お金で解決するようで嫌だけど、それぐらいはさせてほしい」
「ば」
すると、黙っていた少年が口を開いた。気のせいか、頬がひきつっているように見える。
「? もしかして病院の場所、知らないのかい?」
「ば」
「ば?」
「バカかァーッ!」
「うわっ⁉」
少年が叫びながら、こちらへ向かって思いっきり布袋を投げてきた。
それをキャッチする無苦朗。少年が叫ぶ。
「それを盗んだのは俺だ! 勝手に妄想してんじゃねえ!」
なんだって、と無苦朗は驚いた。彼らの言ってたことは本当だったのだろうか。
そう考えている間に少年が走り出す。
「あっ! 待ってくれ!」
「うるせえ! てめえなんか死ね! もう二度と顔を見せんな! あと、それ返してやったんだから、ぜってえ追いかけてくんなよ! じゃあなッ!」
無苦朗は追いかけようとしたが、少年が牽制するように罵倒する。そして路地の奥へと消えていった。
無苦朗は追いかけなかった。少年に従ったわけではない。ショックを受けていたからだ。
「あんな子供が……盗みを……?」
呆然と無苦朗は呟く。少年の走っていった方を見つめたまま。
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