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神隠しが如何にして起こったか
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イマジナリーフレンド、それは児童期に見られる空想の仲間であり、やがて消失する現象である。
しかしそれが高校も卒業しようかという今尚、見え続けているとしたらどうだろうか。
『あと少しで嫁に貰うからな』
「……ううん…………」
しかもこの幻覚、俺の事を嫁にしようとしているのだ。
自分がどんな精神をしていたらイマジナリーフレンドに求婚されることになるのか。
俺は昔の思い出を脳内アーカイブから引きずりだし、原因の究明をする事にした。
最初に見えたのは小学生の頃だったと思う。
俺は想像力の豊かな子供で、日によって見えるイマジナリーフレンドがバラバラだった。
月曜日は真っ黒な猫で、火曜日は火の精霊で、水曜日は水の精霊みたいな具合で、見えるのはその時ハマっていたジャンルに左右されていた。でもその中で一人だけ時間も旬ジャンルも関係なく見えるやつがいた。
着物姿のそいつは顔を隠し、異様な程身長が高かった。
しかし小学生の俺はそれを格好良いと思い、敬意を込めてそいつの事を神様と呼んでいた。
中学に上がってからはイマジナリーフレンドを見ることは無くなっていた。
しかし、神様だけは変わらず気がつくと側に居た。俺はその事に疑問も持たず、ただ友達が少なくなってしまったから神様も寂しんじゃないかなんて的外れな考えを抱いていた。
『神様はさみしくないの?』
『俺ぁお前がいるからなぁ』
『ふーん……』
『おう、なんだ可愛い顔して、つまんでやる』
『ん~~~~!!』
何かおかしい事に気がついたのは高校に上がってからだった。我ながら気づくのが遅いとは思うが、それまでは特別気にもしていなかった。
『お前が高校を卒業したら嫁に貰うからな』
『はぇ?』
神様は俺が高校に上がったあたりからこんな発言をするようになった。
最初俺は言ってる意味がまるで分からなくて、嫁というのが新手のゲーム機かと思ったくらいだ。
『神様、俺は男だから嫁にはなれないんだよ』
『なぁに、神に嫁ぐのに性別なんざ関係ねぇさ』
『そうなの………?』
神様に言われると確かにそんな気がしたが、あくまで自分のイマジナリーフレンドなので、些か設定のムラはあるような気がした。自分が潜在的に嫁入りしたがっているのかと思ったが、別に女性になりたい願望は無かったので謎は深まるばかりだった。
青空に桜色が散っていく。俺は卒業証書片手に帰路についていた。
悲しいかな誰からも誘われる事が無かった為一人での帰宅なのだが、親すら来ないのはどういう事なのか。
「卒業おめでとう」
神様がいつもより上機嫌に言う。普段は往来でこうして話しかけて来る事は無い為、俺は面食らってしまう。
「ありがとう神様」
神様が俺の体を掴む。はて、と思い見上げると、隠れていて普段あまり見えない相貌に笑みを乗せている。
神様の造形が整っていると気づいたのはいつだったか、気づけば神様と呼んでいたがこの美貌を見て神様と呼ぶのを決めたような気もする。しかし記憶が朧げでいまいちその瞬間の事を思い出せない。
「うわぁあああ!!!!!!!!」
唐突に背後から男性の叫び声が聞こえてくる。
何事かと思い振り返ると、男性がこちらを指さして腰を抜かしていた。
違う、この人はこっちじゃなくて、神様を見ている。
「なんで?」
だって神様は俺のイマジナリーフレンドの筈だ。見える筈無いのに。
「ここでは邪魔が入るな、ほら、こっちへおいで」
俺は導かれるまま神様の方に寄る。
そして。
次の瞬間そこには誰の姿も無かった。
男は己の気でも狂ったかと暫くその場で先程目にした怪物を探したが、結局何も見つかる事はなく、その場を後にした。
気がつくとそこは廃れた神社だった。
「おう、起きたか」
神様はなんて事ないようにそう言うと俺を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。
「うん……」
俺は、この神社に来たことがあった。ここで、神様に会ったのだ。
「お前が言ったんだ、大人になったら神様のお嫁さんになるって、なぁ、もう良いだろう?」
普段とは違い切羽詰まった様な声色で俺に言う神様は、先程から酷く顔が近い。
今にも食われそうだ。俺はなんと返答したものか迷ってしまい、黙りこくった。
「……俺の事が嫌いか?」
「そんなことない、俺は神様の事好きだよ」
「そうか、そうか!!く、ふふ、ずうっと一緒にいような」
そう言った神様の顔は、幼い頃に見た笑顔と同じだった。
しかしそれが高校も卒業しようかという今尚、見え続けているとしたらどうだろうか。
『あと少しで嫁に貰うからな』
「……ううん…………」
しかもこの幻覚、俺の事を嫁にしようとしているのだ。
自分がどんな精神をしていたらイマジナリーフレンドに求婚されることになるのか。
俺は昔の思い出を脳内アーカイブから引きずりだし、原因の究明をする事にした。
最初に見えたのは小学生の頃だったと思う。
俺は想像力の豊かな子供で、日によって見えるイマジナリーフレンドがバラバラだった。
月曜日は真っ黒な猫で、火曜日は火の精霊で、水曜日は水の精霊みたいな具合で、見えるのはその時ハマっていたジャンルに左右されていた。でもその中で一人だけ時間も旬ジャンルも関係なく見えるやつがいた。
着物姿のそいつは顔を隠し、異様な程身長が高かった。
しかし小学生の俺はそれを格好良いと思い、敬意を込めてそいつの事を神様と呼んでいた。
中学に上がってからはイマジナリーフレンドを見ることは無くなっていた。
しかし、神様だけは変わらず気がつくと側に居た。俺はその事に疑問も持たず、ただ友達が少なくなってしまったから神様も寂しんじゃないかなんて的外れな考えを抱いていた。
『神様はさみしくないの?』
『俺ぁお前がいるからなぁ』
『ふーん……』
『おう、なんだ可愛い顔して、つまんでやる』
『ん~~~~!!』
何かおかしい事に気がついたのは高校に上がってからだった。我ながら気づくのが遅いとは思うが、それまでは特別気にもしていなかった。
『お前が高校を卒業したら嫁に貰うからな』
『はぇ?』
神様は俺が高校に上がったあたりからこんな発言をするようになった。
最初俺は言ってる意味がまるで分からなくて、嫁というのが新手のゲーム機かと思ったくらいだ。
『神様、俺は男だから嫁にはなれないんだよ』
『なぁに、神に嫁ぐのに性別なんざ関係ねぇさ』
『そうなの………?』
神様に言われると確かにそんな気がしたが、あくまで自分のイマジナリーフレンドなので、些か設定のムラはあるような気がした。自分が潜在的に嫁入りしたがっているのかと思ったが、別に女性になりたい願望は無かったので謎は深まるばかりだった。
青空に桜色が散っていく。俺は卒業証書片手に帰路についていた。
悲しいかな誰からも誘われる事が無かった為一人での帰宅なのだが、親すら来ないのはどういう事なのか。
「卒業おめでとう」
神様がいつもより上機嫌に言う。普段は往来でこうして話しかけて来る事は無い為、俺は面食らってしまう。
「ありがとう神様」
神様が俺の体を掴む。はて、と思い見上げると、隠れていて普段あまり見えない相貌に笑みを乗せている。
神様の造形が整っていると気づいたのはいつだったか、気づけば神様と呼んでいたがこの美貌を見て神様と呼ぶのを決めたような気もする。しかし記憶が朧げでいまいちその瞬間の事を思い出せない。
「うわぁあああ!!!!!!!!」
唐突に背後から男性の叫び声が聞こえてくる。
何事かと思い振り返ると、男性がこちらを指さして腰を抜かしていた。
違う、この人はこっちじゃなくて、神様を見ている。
「なんで?」
だって神様は俺のイマジナリーフレンドの筈だ。見える筈無いのに。
「ここでは邪魔が入るな、ほら、こっちへおいで」
俺は導かれるまま神様の方に寄る。
そして。
次の瞬間そこには誰の姿も無かった。
男は己の気でも狂ったかと暫くその場で先程目にした怪物を探したが、結局何も見つかる事はなく、その場を後にした。
気がつくとそこは廃れた神社だった。
「おう、起きたか」
神様はなんて事ないようにそう言うと俺を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。
「うん……」
俺は、この神社に来たことがあった。ここで、神様に会ったのだ。
「お前が言ったんだ、大人になったら神様のお嫁さんになるって、なぁ、もう良いだろう?」
普段とは違い切羽詰まった様な声色で俺に言う神様は、先程から酷く顔が近い。
今にも食われそうだ。俺はなんと返答したものか迷ってしまい、黙りこくった。
「……俺の事が嫌いか?」
「そんなことない、俺は神様の事好きだよ」
「そうか、そうか!!く、ふふ、ずうっと一緒にいような」
そう言った神様の顔は、幼い頃に見た笑顔と同じだった。
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