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第1章 バルトロメオ
第10話
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気持ちを落ち着かせるため胸に十字を切ってから、ユァンはなだらかなアーチを描く背の高い扉を見上げた。
簡素で優美、そして素朴。
そんなロマネスク様式の修道院の中、どうしてだろう、この扉だけはやけに重たい印象を抱かせる。
「ユァンです、お呼びでしょうか?」
恐る恐るノックすると、すぐに中から声が返ってきた。
「ユァンか、入りなさい」
揺らぎのある、落ち着いた声のトーン。
シプリアーノ司教の声だ。
ユァンがドアノブに触れる前に、扉が中から開かれる。
ギイッと軋みながら開く重たい音。
その音が止まったところで、額に皺のある司教の顔が見えた。
「こちらへ」
扉を開けてくれた司教に続き、ユァンは中へと足を進める。
院長の執務室は応接室を兼ねた、広々とした空間になっている。
修道院は質素倹約をむねとしているが、この部屋は客をもてなすのにも使われるため、他とは少し雰囲気が違っていた。
足下は板張りでなく、毛足の長いペルシャ絨毯。
革張りの大きなソファにはいつの時代のものなのか、手編みのレースが被せてある。
奥にはこれまた年代物の、マホガニーのデスク。
よく磨かれたそれは、後ろのレースカーテンからの光を強く跳ね返していた。
そして屋根裏部屋に置きっ放しだったシーツのような、この部屋の匂い。
この匂いは前から苦手だ。
悪い匂いではないのに、どうしてか胸を圧迫する。
(それで、僕はどうして呼ばれたんだろう?)
前を行く司教の表情を、そっと肩越しに探ろうとした時――。
この部屋に似つかわしくないものが目に飛び込んできて、ユァンは思わず息を呑んだ。
「……ユァン?」
シプリアーノ司教が振り返り、肩越しだった視界が開ける。
部屋の奥、外からの光をふんだんに取り込むカーテンを背に、背の高い人が立っていた。
逆光で顔がよく見えない。
見えないからこそ分かった。
厚みのある大きな体、特徴的な長い髪。光にかたどられたシルエットは、昨夜ユァンを助けたあの人だった。
(夢じゃなかったんだ……)
驚きに胸が震える。
ペティエ神父の頭に巻かれた包帯を見ても、ユァンはまだ、この男との遭遇を現実のものとして信じ切れずにいた。
「ああ、彼は――」
ユァンの視線に気づいてか、司教が続ける。
「法王庁から来たブラザー・バルトロメオだ」
簡素で優美、そして素朴。
そんなロマネスク様式の修道院の中、どうしてだろう、この扉だけはやけに重たい印象を抱かせる。
「ユァンです、お呼びでしょうか?」
恐る恐るノックすると、すぐに中から声が返ってきた。
「ユァンか、入りなさい」
揺らぎのある、落ち着いた声のトーン。
シプリアーノ司教の声だ。
ユァンがドアノブに触れる前に、扉が中から開かれる。
ギイッと軋みながら開く重たい音。
その音が止まったところで、額に皺のある司教の顔が見えた。
「こちらへ」
扉を開けてくれた司教に続き、ユァンは中へと足を進める。
院長の執務室は応接室を兼ねた、広々とした空間になっている。
修道院は質素倹約をむねとしているが、この部屋は客をもてなすのにも使われるため、他とは少し雰囲気が違っていた。
足下は板張りでなく、毛足の長いペルシャ絨毯。
革張りの大きなソファにはいつの時代のものなのか、手編みのレースが被せてある。
奥にはこれまた年代物の、マホガニーのデスク。
よく磨かれたそれは、後ろのレースカーテンからの光を強く跳ね返していた。
そして屋根裏部屋に置きっ放しだったシーツのような、この部屋の匂い。
この匂いは前から苦手だ。
悪い匂いではないのに、どうしてか胸を圧迫する。
(それで、僕はどうして呼ばれたんだろう?)
前を行く司教の表情を、そっと肩越しに探ろうとした時――。
この部屋に似つかわしくないものが目に飛び込んできて、ユァンは思わず息を呑んだ。
「……ユァン?」
シプリアーノ司教が振り返り、肩越しだった視界が開ける。
部屋の奥、外からの光をふんだんに取り込むカーテンを背に、背の高い人が立っていた。
逆光で顔がよく見えない。
見えないからこそ分かった。
厚みのある大きな体、特徴的な長い髪。光にかたどられたシルエットは、昨夜ユァンを助けたあの人だった。
(夢じゃなかったんだ……)
驚きに胸が震える。
ペティエ神父の頭に巻かれた包帯を見ても、ユァンはまだ、この男との遭遇を現実のものとして信じ切れずにいた。
「ああ、彼は――」
ユァンの視線に気づいてか、司教が続ける。
「法王庁から来たブラザー・バルトロメオだ」
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