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第3章 獅子と牝山羊
第6話
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「ユァン、真面目にお祈りか。相変わらずだな」
ためらいなく部屋に入ってきたのは、以前同室だったルカだった。
礼拝にはきちんと出るのに、部屋での祈りはだいたいサボる。それがルカだ。
そばかすを散らしたふっくらした顔は、以前と変わらず健康そうだった。
「どうしたの? ルカが来るなんて珍しい」
ルカはバルトロメオにこの部屋を譲って以来、ここへは立ち寄っていなかった。
理由はまあ分かりやすくて、バルトロメオのことが苦手だからだ。
元々の原因は捜査目的で因縁をつけられたことだったが、人に構いたがるバルトロメオと、人に煩わされたくないルカとでは性格の相性が悪すぎた。
「寮長に言われて、アイツの荷物を取りに来たんだよ」
ルカはさっそく、バルトロメオのベッドの周りにある荷物を検分し始めた。
「えっ、荷物を取りにって、どうして?」
ユァンには話が読めない。
「聞いてないのか? 修道院長が激怒して、宿舎の部屋割りを変えろって、寮長に言ってきたんだと」
「それ、僕のせい?」
ユァンとしては心当たりがありすぎた。
シプリアーノ司教が怒っていたなら、きっと山羊小屋でキスしていた件だ。
「お前何したんだ?」
「あ~、それは聞いてないんだ……」
ルカに見つめられ、ユァンは気まずい思いで目を逸らした。
それにしても、バルトロメオと引き離されるなんて想定外の事態だ。
「ねえ、バルトはどこの部屋に移動するの? なんで自分で荷物を取りに来ないの?」
内心動揺しながらもルカに聞く。
「そんなこと俺が知るかよ。俺は寮長に言われて荷物を取りに来ただけだ」
ルカは面倒くさそうにするものの、すぐに部屋を出ようとはしなかった。
バルトロメオの衣類を洗濯用のバスケットに放り込み、ため息をつきながらユァンを見る。
「ユァンお前……そんなにアイツのことが好きなのか」
「え、それは……」
どう答えればいいのか、言葉に詰まった。
ルカはバルトロメオのベッドにどかっと腰を下ろし、呆れ顔をしてみせる。
「ホントお前は正直だなー。……でもま、分かるよ。アイツならユァンを別の世界へ連れ出せる、そんな感じはするもんな。特に根拠はないけどさ」
「どういうこと? 僕はここを出たいなんてこと、少しも……」
「それ……本気で言ってんのか?」
ルカの鼻にしわが寄った。
「お前に帰る場所がないことは知ってる。けどこんなとこ……出られるなら出るに越したことないだろ! 自由もない、金もない。あるのはミラミット型の権力構造と、それから……人助けには腰が重い神さまだけだ」
「ルカ……」
ルカがそんなふうに思っていたなんて、ユァンは思いもしなかった。
ためらいなく部屋に入ってきたのは、以前同室だったルカだった。
礼拝にはきちんと出るのに、部屋での祈りはだいたいサボる。それがルカだ。
そばかすを散らしたふっくらした顔は、以前と変わらず健康そうだった。
「どうしたの? ルカが来るなんて珍しい」
ルカはバルトロメオにこの部屋を譲って以来、ここへは立ち寄っていなかった。
理由はまあ分かりやすくて、バルトロメオのことが苦手だからだ。
元々の原因は捜査目的で因縁をつけられたことだったが、人に構いたがるバルトロメオと、人に煩わされたくないルカとでは性格の相性が悪すぎた。
「寮長に言われて、アイツの荷物を取りに来たんだよ」
ルカはさっそく、バルトロメオのベッドの周りにある荷物を検分し始めた。
「えっ、荷物を取りにって、どうして?」
ユァンには話が読めない。
「聞いてないのか? 修道院長が激怒して、宿舎の部屋割りを変えろって、寮長に言ってきたんだと」
「それ、僕のせい?」
ユァンとしては心当たりがありすぎた。
シプリアーノ司教が怒っていたなら、きっと山羊小屋でキスしていた件だ。
「お前何したんだ?」
「あ~、それは聞いてないんだ……」
ルカに見つめられ、ユァンは気まずい思いで目を逸らした。
それにしても、バルトロメオと引き離されるなんて想定外の事態だ。
「ねえ、バルトはどこの部屋に移動するの? なんで自分で荷物を取りに来ないの?」
内心動揺しながらもルカに聞く。
「そんなこと俺が知るかよ。俺は寮長に言われて荷物を取りに来ただけだ」
ルカは面倒くさそうにするものの、すぐに部屋を出ようとはしなかった。
バルトロメオの衣類を洗濯用のバスケットに放り込み、ため息をつきながらユァンを見る。
「ユァンお前……そんなにアイツのことが好きなのか」
「え、それは……」
どう答えればいいのか、言葉に詰まった。
ルカはバルトロメオのベッドにどかっと腰を下ろし、呆れ顔をしてみせる。
「ホントお前は正直だなー。……でもま、分かるよ。アイツならユァンを別の世界へ連れ出せる、そんな感じはするもんな。特に根拠はないけどさ」
「どういうこと? 僕はここを出たいなんてこと、少しも……」
「それ……本気で言ってんのか?」
ルカの鼻にしわが寄った。
「お前に帰る場所がないことは知ってる。けどこんなとこ……出られるなら出るに越したことないだろ! 自由もない、金もない。あるのはミラミット型の権力構造と、それから……人助けには腰が重い神さまだけだ」
「ルカ……」
ルカがそんなふうに思っていたなんて、ユァンは思いもしなかった。
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