獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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36,肉

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「あっ。類さん!」

 その日の仕事を終え、掃除用のワゴンを片付けようとしていると、廊下で誰かに話しかけられる。

「え……?」

 類は緊張しながら声の主を振り返った。
 茶色の角を持つ、鹿型獣人の青年だ。確か工場で働いている一人だったと思う。

「社内公募の件なんですが……」

 彼がずいずいっと距離を詰めてくる。
 類は思わずモップの柄を握りしめた。

「社内公募の書類に不備でも?」

 それか枚数が足りなかったのか。工場の中までは入れないから、類は彼らの昼休憩に合わせ、休憩室でそれを配ったのだった。

「そうじゃなくて」

 彼は首を横に振る。

「書いて持ってきました」
「え……?」
「新作アイスのアイデア」
「……ええっ、もう?」

 見ると確かに彼の手には、類の配った応募用紙が握られていた。
 しかもびっしり文字が書き込まれている。

「前から作りたいアイスがあって、それで、昼休みにこれをまとめたんです。もしかしてぼくが一番乗り?」

 彼は誇らしげに応募用紙を差しだす。

「社内公募、類さんの発案なんでしょう? ありがとうございます。類さんが来てくれて、この会社もおもしろくなりそうです」
「いやっ、そんな! ぼくはただの掃除担当ですよ!?」

 会社をおもしろくだなんて、類もまさかそんな期待をされているとは思わなかった。

「でも社長のお孫さんでしょう?」

 キラキラした目で言われる。

「一応そうだけど……、だいぶ出来損ないで……」
「ぼくも工場長には怒られっぱなしなんで、おんなじです! だから頑張ってください!」

 何が同じなのかわからないけれど、彼は親近感たっぷりの笑顔で類の手を握り、そして去っていった。

(今朝社内に告知して、もう反応があるなんて……)

 アイデアの書き込まれた用紙を手に、類の胸にはじわじわと喜びがこみ上げる。

(社内公募なんて単なる思いつきだったけど、やってよかったな)

 そんなふうに思った。



「よかったですね」

 掃除用具を片付け、荷物を取りに社長室へ行くと、先にいた帝からそう言われる。

「さっき、見てましたよ」

 彼は郵便物の整理をしに来たようだった。

「さっきの人のこと? 鹿型獣人の……」

 見られていたと思うと気恥ずかしい。類は頭の後ろを掻く。

「ええ。さっそく社内公募の応募があったようですね」
「はい。おかげさまで……」
「アナタが自分で配りに行ったからですよ」

 ペーパーナイフで郵便物を開けながら、帝の声と視線は優しかった。
 今朝は突き放されたと思ったけれど、あれはきっと違ったんだと類は思う。

「帝さんは、こうなることがわかってたんですか?」
「さあどうでしょうね?」

 彼は肩をすくめた。

「でも類さんに、人の心を動かす何かがあるのはわかりました。単に周囲が放っておけないんでしょうが……。そこもアナタのいいところです」

 ほめられているのか、けなされているのか。
 おそらく帝は、単に事実を言っているだけなんだろう。そう思ったが……。

「よく頑張りましたね」

 彼の言葉はそう続いた。

「帝さん……」

 今日までの苦労が報われたみたいで、類は素直に嬉しくなる。

「何ニヤニヤしているんですか」

 帝にあきれられた。

「ぼくだって、ほめられたら嬉しいです……。それに帝さん、ご褒美くれるって言ってたし」
「ご褒美……。確かにそう言いましたね。では何にしましょう? 痛いご褒美と恥ずかしいご褒美……」
「――え?」
「どっちにします?」

 まっすぐ近寄ってきた帝から、シャツ越しに胸の先をつままれる。

「あんっ」

 甘いしびれが突き抜けた。
 類は彼に非難の目を向ける。

「もう、そういうのじゃなくて、ぼくはホントに期待してて……」

 体をよじって逃げようとすると、彼の両腕と壁の隙間に閉じ込められた。

「へえ? それにしてはいい声が出てるじゃないですか」

 今度は胸の周りを、指先でくるくるとなでられる。

「やっ……」

 ちゃんと触ってもらえないのはむず痒い。

「これじゃ、お仕置きだかご褒美だかわかんないです……!」
「そうですねえ……」

 胸の周りをくるくるとなでながら、帝も何やら考える素振りを見せた。
 そして胸をなでていた手をピタリと止める。

「では美味しいものでも食べに行きますか」
「ホントに!?」

 類は思わず声をあげた。だって彼から、こんなことを言われたのは初めてだ。

「帝さんの奢りなんてめずらしい」
「私だってたまにはご馳走しますよ。今まで機会がなかっただけで」

 彼が笑って類の下唇に親指を乗せた。

「さて、もの欲しそうなこの穴、何で満たして満足させましょうか」
「そういうイヤらしい言い方しないでいいから……。普通に食べたいもの聞いてよ……」

 類はあきれる。

「とりあえず肉ですかね? 類さんは、普段あまりしっかり食べていないようなので」
「それは、うん……」

 帝はよく類を見ていた。

(そっか、肉か)

 肉なら焼き肉か、ステーキか……。類もそういうものは人並みに食べる。
 思わず想像し、口の中に唾液が溜まるのを感じていると……。

(……え!?)

 突然合わさってきた唇に、唾液を吸い出された。

「――んっ、帝さん……?」
「そんな可愛い顔して煽らないでください」

 器用な舌が歯列をなぞる。

「私はこれでも、アナタを甘やかしたくてたまらないんですから……」

(“甘やかしたくて”? 全然スパルタなのに!?)

 仕事に厳しいと思っていた、帝の本音はこれなのか。キスされながら、類はそのことに戸惑ってしまう。

「んっ!」

 歯列の内側まで押し入ってきた舌に、口内を蹂躙された。
 類のひざから力が抜ける。

「普通に、話してただけなのに……なんで……?」
「無邪気に笑うアナタを見て、私が何も思わないとでも?」

 類を抱き留めた帝の体は熱かった。

「肉より先に、ガマンできずに私がアナタを食べてしまいそうです……」

(そんな……)

 類は強い目まいを感じる。
 耳元で聞く声が、今までにないくらい甘かった。

「類さん……」

 帝の右手が、また類の胸元を刺激し始めた。もういい加減、この流れはマズい。類だって、うっかりその気になってしまいそうだ。

「肉行こ、肉! ぼくちょっと、気になってるお店があるんです!」

 妖艶にうごめく手を逃れ、類は通勤用のバッグを持ち上げた。
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