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第2章 疱瘡の神
10,ご近所トラブル?
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翌日。体調の回復した詩は光降りそそぐ昼間の布田天神にいた。
ちなみに店は定休日。3日も臨時休業していて気が引けるが、今日しっかり休んで仕事は明日からだ。
「疱瘡の神さまのお社はどこですか?」
社務所で聞くと、巫女さんが場所を教えてくれた。
行ってみるとほんの小さな、可愛らしいサイズの社が3つ並んでいる。
3つのうち向かって右が疱瘡神社、真ん中が祓戸神社、左のものが御嶽神社だそうだ。
「そうか、ここ……」
詩も布田天神の境内に、こんな小さな社があるなんて知らなかったが……。
「本当にお隣さんなんだ」
祓戸の神と疱瘡の神が隣同士に祀られていることに驚いてしまった。
(あのふたり、仲が悪そうだったけどそういうこと……)
この距離感ならご近所トラブルもあり得る話だ。
それはともかく。詩は今日、疱瘡神社に手を合わせるためにやってきた。
いつも家の神棚に向かってするように、二礼二拍手一礼。
(疱瘡の神さま、どうか疫病をお鎮めください)
見方によっては疱瘡の神は、人類と和解し鎮まってくれた神なのだから。
荒ぶる病の神々と、人類との共存に期待して目を閉じた――。
*
それから家に戻り、久し振りに掃除をしようと店の方へ行く。
すると祓戸の神がそこにいた。
「詩、いつもの」
ふらっとカウンター席に座った彼に、「おい、お茶」のノリで要求される。
しかしブルーマウンテンの瓶は空だった。
「あれっ。ごめん、いつもの切らしてるみたい。ちょっとは残ってたと思ったのに……」
不可解だった。
「……ああ、それは……」
祓戸が何か言いかけて口を閉じる。
実はソンミンが祓戸に飲ませるために勝手に使ったのだが……。
「いや、ほかのでいいよ」
事情のわからない詩は首を傾げた。
「え、前はあんなにブルーマウンテンにこだわってたのに?」
詩は不思議がるが、祓戸としては瓶が空になってしまった責任は自分にあるわけで、強いことは言えない。
「なんでもいいよ。詩が淹れてくれたらなんだって美味いから」
そんなふいにごまかすと、詩が頬を染めた。
「えへ、うれしい」
今度は祓戸が不思議そうな顔をする番だった。
「……? なんで赤くなってる?」
「何をって、祓戸が……」
「……ああ、そうか! 俺にほめられてうれしいのか」
祓戸が不意を突かれたような顔をして、詩を見つめた。
カウンター越しに見つめ合う、ふたりを取り巻く空気が甘ずっぱい。
それから数秒……。
「なあ……、ふたりきりなんだし、コーヒーより昨日の続きでもするか?」
祓戸が切り出した。
「昨日の……?」
昨日のベッドでの激しい触れ合いがよみがえる。
「キスで感じてる詩、すげーかわいかった」
甘い声でそんなふうに言われたら、照れるしかなかった。
でも昨日の続きをもしするなら、ちゃんと気持ちを確かめたい。
「ねえ、祓戸は僕のこと、どう思ってるの?」
聞くとカウンターの上で指先が重なる。
「そんなの言わなくてもわかるだろ。何より俺はお前のことを……――」
祓戸が言いかけたその時だった。
ひんやりとした気配を感じ、ふたりは同時に横を向く。
「うおわっ、なんでお前がいるんだよ!?」
ふたりの世界に浸っていて気づかなかったが、祓戸の隣に疱瘡の神が座っていた。
「酒くれ」
「ここは飲み屋じゃねーよ!」
祓戸が言い返す。
「キスで感じてる詩、俺も見てみたいな」
「ごほごほっ! ちょっと……」
そこから聞いていたのか。詩は何もないのにむせてしまった。
「俺の氏子でやらしー想像すんなよ!」
「やらしーこと考えてるのはそっちだろ」
疱瘡の神は祓戸に言い返してから詩を見る。
「なあ詩、神と交わると“神産み”つって、わりと簡単に子どもできるから覚悟しとけよ」
「おまっ!!? 詩の前で何言い出すっ!? それR180くらいだからな! R指定守れよ」
(神さまの世界にもR指定ってあるんだ……)
詩は困惑しながらカウンターの上の道具に目を落とした。
(とりあえず注文はコーヒーと、お酒?)
「えーっと……うちは喫茶店として営業許可を取ってるんで、アルコール出せないんですよ。コーヒーでもいいですか?」
疱瘡の神に言って、ふたり分のコーヒーを淹れ始める。
それにしても定休日だっていうのに、店がずいぶんとにぎやかだ。
(これからまた騒がしくなるんだろうなー……)
そんな予感に詩はひとり、笑みを浮かべた。
ちなみに店は定休日。3日も臨時休業していて気が引けるが、今日しっかり休んで仕事は明日からだ。
「疱瘡の神さまのお社はどこですか?」
社務所で聞くと、巫女さんが場所を教えてくれた。
行ってみるとほんの小さな、可愛らしいサイズの社が3つ並んでいる。
3つのうち向かって右が疱瘡神社、真ん中が祓戸神社、左のものが御嶽神社だそうだ。
「そうか、ここ……」
詩も布田天神の境内に、こんな小さな社があるなんて知らなかったが……。
「本当にお隣さんなんだ」
祓戸の神と疱瘡の神が隣同士に祀られていることに驚いてしまった。
(あのふたり、仲が悪そうだったけどそういうこと……)
この距離感ならご近所トラブルもあり得る話だ。
それはともかく。詩は今日、疱瘡神社に手を合わせるためにやってきた。
いつも家の神棚に向かってするように、二礼二拍手一礼。
(疱瘡の神さま、どうか疫病をお鎮めください)
見方によっては疱瘡の神は、人類と和解し鎮まってくれた神なのだから。
荒ぶる病の神々と、人類との共存に期待して目を閉じた――。
*
それから家に戻り、久し振りに掃除をしようと店の方へ行く。
すると祓戸の神がそこにいた。
「詩、いつもの」
ふらっとカウンター席に座った彼に、「おい、お茶」のノリで要求される。
しかしブルーマウンテンの瓶は空だった。
「あれっ。ごめん、いつもの切らしてるみたい。ちょっとは残ってたと思ったのに……」
不可解だった。
「……ああ、それは……」
祓戸が何か言いかけて口を閉じる。
実はソンミンが祓戸に飲ませるために勝手に使ったのだが……。
「いや、ほかのでいいよ」
事情のわからない詩は首を傾げた。
「え、前はあんなにブルーマウンテンにこだわってたのに?」
詩は不思議がるが、祓戸としては瓶が空になってしまった責任は自分にあるわけで、強いことは言えない。
「なんでもいいよ。詩が淹れてくれたらなんだって美味いから」
そんなふいにごまかすと、詩が頬を染めた。
「えへ、うれしい」
今度は祓戸が不思議そうな顔をする番だった。
「……? なんで赤くなってる?」
「何をって、祓戸が……」
「……ああ、そうか! 俺にほめられてうれしいのか」
祓戸が不意を突かれたような顔をして、詩を見つめた。
カウンター越しに見つめ合う、ふたりを取り巻く空気が甘ずっぱい。
それから数秒……。
「なあ……、ふたりきりなんだし、コーヒーより昨日の続きでもするか?」
祓戸が切り出した。
「昨日の……?」
昨日のベッドでの激しい触れ合いがよみがえる。
「キスで感じてる詩、すげーかわいかった」
甘い声でそんなふうに言われたら、照れるしかなかった。
でも昨日の続きをもしするなら、ちゃんと気持ちを確かめたい。
「ねえ、祓戸は僕のこと、どう思ってるの?」
聞くとカウンターの上で指先が重なる。
「そんなの言わなくてもわかるだろ。何より俺はお前のことを……――」
祓戸が言いかけたその時だった。
ひんやりとした気配を感じ、ふたりは同時に横を向く。
「うおわっ、なんでお前がいるんだよ!?」
ふたりの世界に浸っていて気づかなかったが、祓戸の隣に疱瘡の神が座っていた。
「酒くれ」
「ここは飲み屋じゃねーよ!」
祓戸が言い返す。
「キスで感じてる詩、俺も見てみたいな」
「ごほごほっ! ちょっと……」
そこから聞いていたのか。詩は何もないのにむせてしまった。
「俺の氏子でやらしー想像すんなよ!」
「やらしーこと考えてるのはそっちだろ」
疱瘡の神は祓戸に言い返してから詩を見る。
「なあ詩、神と交わると“神産み”つって、わりと簡単に子どもできるから覚悟しとけよ」
「おまっ!!? 詩の前で何言い出すっ!? それR180くらいだからな! R指定守れよ」
(神さまの世界にもR指定ってあるんだ……)
詩は困惑しながらカウンターの上の道具に目を落とした。
(とりあえず注文はコーヒーと、お酒?)
「えーっと……うちは喫茶店として営業許可を取ってるんで、アルコール出せないんですよ。コーヒーでもいいですか?」
疱瘡の神に言って、ふたり分のコーヒーを淹れ始める。
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そんな予感に詩はひとり、笑みを浮かべた。
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