珈琲ガレット調布店 不器用な神さまたちの戯れ

谷村にじゅうえん

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第4章 疱瘡の乱

1,夜這いと浮気

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 翌朝――。
 食材を買いに出た詩は、ビルの屋上に立つ少名毘古那すくなびこなの神を見かけた。

(あれ、あんなところに……)

 明るい色の髪が朝日に透けてなびく様子は、遠くからでも目立って見える。
 すっと背筋を伸ばし、遠くを見つめる横顔……。
 詩は何か鬼気迫るものを感じた。

(何かあったのかな?)

 聞きたいけれど、ビルの上まではさすがに声が届かない。
 あそこまで上っていくこともできないし……。
 詩は気になりながらも通り過ぎた。

 *

 その日の午後、ちょうど祓戸はらえどが来ていたところへ少名毘古那がやってきた。

「昨日、どうだったんだよ?」

 ふらっと来てカフェモカを頼んだ少名毘古那に、祓戸が問いかける。

(昨日?)

 棚のカップに手を伸ばしながら聞いた詩は、昨日の大国主おおくにぬしの言葉を思い出した。

 ――今夜忍んでいく。

(あのことか)

 それと同時に、疱瘡ほうそうの神の言葉も思い出す。

 ――今夜、夢の中へ忍んでいく。

 一瞬、棚に伸ばした手が止まった。
 そこを目ざとく祓戸に見つかってしまう。

「詩、どうしてお前が動揺するんだよ」
「ええっと……」

 彼は以前、詩の“心の色”がわかると言っていた。
 どういう仕組みか知らないけれど、気持ちの変化が読み取れるということなんだろう。

「なんでもないよ」

 詩はカップを取り、エスプレッソマシンの前へ移動する。

「オニーサンも昨日は浮気してたってことなんだ?」

 少名毘古那が見透かしたように言って笑った。

「それは妬けちゃうけど、昨日に限ってはお互い様だから許してあげる」
「なんだそれ! 話の前提から間違ってないか?」

 眉間にしわを寄せる祓戸。

「っていうか誰と!?」

 皿を洗っていたソンミンまで飛んできて口を挟んだ。

「あれ? その反応だと、浮気相手は祓戸でも、そっちのファンクラブ会員の子でもない?」

 少名毘古那が首を傾げる。

「その前に、詩はお前のモンじゃねえんだから浮気じゃねーだろ」
「てんちょー! 誰とっ……誰と何があったんですか!?」
「だから、誰とも何もないよ」
「詩お前、案外ウソつくの下手なんだな……」

 笑う少名毘古那に涙目になっているソンミン。祓戸は大きなため息をついた。

「いや、本当になんにもなくて」

 できたてのカフェモカを、詩は少名毘古那の前に運んでいく。
  ちなみに彼は昨日もお代を払ってくれていて、カフェモカ1杯におつりは要らないと1万円札を置いていったものだから、ソンミンが泣いて喜んでいた。

「じゃあなんで動揺してる?」

 祓戸がじっと見つめてくる。これはもう誤魔化しきれないだろう。
 詩は観念して言ってしまうことにした。

「実は……。疱瘡さんが昨日、僕の夢の中に忍んでくるって言っていて……」
「なんだとっ? 疱瘡のやつが……!?」

 祓戸がカウンターを叩いて立ち上がる。

「そういやあいつ、なんにもできないくせに悪夢を見せる力だけはあったよな……」

 少名毘古那が顔をしかめて言った。

「え、てんちょーの夢の中に入るって、なんかそれ……めちゃくちゃズルくないですか!?」

 ソンミンはどんな想像をしているのか。
 詩は続けて打ち明ける。

「でも……、来なかったんだよね。疱瘡さん」
「え、来なかった?」

 3人が顔を見合わせた。

「うん、だから逆に心配になっちゃって」

 夢の中で、前みたいに無体を働かれたくはないけれど、彼も思うところがあったから夢の中に来ると言ったんだろう。
 それが気になる。
 そして来られなかった理由も。

「僕は疱瘡さんのことがよくわからなくて……。でも、悪い神さまじゃないと思うし、あの人をもっと知りたいと思ってる」
「いや……あれは普通にロクでもねえ神だぞ?」

 そう言う祓戸の隣で、少名毘古那もしきりにうなずいた。
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