後悔日記

戦国 卵白

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5月12日

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5月12日 天気 曇り
僕は後悔した。
昨日、智也を一人で帰らせるべきではなかった。
あんな暗くて視界の悪い中に僕のダークグレーの傘なんて貸すんじゃなかった。
昨日の夜。智也は、車にはねられた。幸いにも命に別状はないらしいが、右手右足が折れてしまい、コンクールに出すための写真を撮りに行けない。
本人は大丈夫だと言っていたが、今までどんなコンクールにも作品を出していた智也にとって、本当に悔しいことだろう。
もし、僕が送っていくと言ったら?僕が違う色の傘を渡していたら?
そんな思いが僕の中を渦巻いている。
僕が、 智也を救えた んじゃないか


僕は気づけば走り出していた。

こんな日記に書いてあることなんてたわごとに過ぎないかも知れない

ただのいたずらかもしれない

でもっっ…!!

助けられるかもしれない友人を見捨てられるほど、僕は薄情者じゃない!!

「智也が、危ない!」

智也の家は、遠いが道はそれほど入り組んでいない。
頼む、近くにいてくれと願いながら、必死に智也の背中を探す。

いたっ!!

「智也!!!」
ゆっくりと智也は振り向き、困惑の表情を浮かべる。
「お前傘も差さずになーにしてんの?」
「あっ」
改めて、自分を見ると服は寝る前のものだし、全身びしょびしょでところどころ土がついている。
全くどれだけ急いでたんだと自分を責める。でも…智也は無事だった。全身から緊張が抜ける。
そもそも現実になるかもわからない日記を本気にした自分がばからしく思えてきた。
「心配で来てくれたのか?そんな必死で!あぁ、俺はいい友を持ったもんだ!」
と、いつものノリでふざけている。

――今、何か音が!?

「ヤバい!!」
かなりのスピードでこっちに車が突っ込んでくる。
僕は、すぐさま智也の手をつかんだ。
「ちょっ!!」
全力で引っ張り、後ろに倒れこむ。
何とか危機一髪で車をよけることに成功し、再び安堵の息をもらす。
車は軌道を修正して、豪速で走り始める。
「ちょ、まてやーー!!」
智也は立ち上がり、先ほどの車を罵倒したが止まる気配もなしに走り去ってしまった。
「っち!なんだよあの車!だけど…ありがとな斗真!」
智也は頬をかきながらそう言った。


その後は、心配で智也を家まで送ったが結局何も起こらず、自分も帰宅するとどっと疲れてしまい風呂に入り終わるとすぐに寝てしまった。



5月12日
「よっ!斗真!!」
智也が僕の背中をバシッと叩く。
「おはよう、智也」
いつものように学校に行き、いつものように授業を受ける。毎日退屈でつまらないと思っていた日常がこんなにも素晴らしいものなんだと今日ばかりは思った。

そして、放課後
今日は智也と一緒にコンクールに出品する写真を撮りに校外に来ている。
昨日の雨はもうすっかりやみ、涼しい風が吹いている。空には雲一つない。視界の左側には高速道路と一般自動車道との合流地点。今も無数の車が流れている。そして右側には無限に広がる田んぼ。都市化は進むけれどその中にもなくしてはいけないものがあるというメッセージを込めた作品にするつもりだ。
智也は右側にだけ目を向けている。鳥が飛んでくるのを待っているらしい。
僕は、形づくられているものをとらえるのに対し、智也は一瞬の奇跡をとらえたがるのだ。
それのせいで何度も提出期限ぎりぎりになったのだが…。
「なぁ斗真、昨日のことなんだけど。」
智也がカメラを構えたままおもむろにつぶやき始めた。
「お前、俺が車にひかれるってもしかして知ってた?」
一瞬、時が止まったかと思った。智也は昔から勘が鋭いのだ。だから今まで隠し事なんてしたことなかったけど、あの日記のことだけは、隠していたほうがいい気がする。
「そんなの知ってたわけないだろ。知ってたら寝巻のまま傘も差さずに雨の中走ったりしないだろ。」
「確かにそうだな、いやーびっくりしたよ振り返ったら、髪ぺっちゃんこですげー荒い息してる斗真がいたかんなー」
その後、僕らはたわいない話をして時間を過ごしながら写真を撮った。僕は夕日での一枚を選び、智也は納得いかないらしく明日もまたここに張り込むと言っていた。最終下校時間の一時間ほど前に切り上げ、学校にカメラを置いてから、智也と二人で一緒に帰った。

家に帰り、僕はあの現象が起こってないか確認するために日記を開く。
そこには、ちゃんと白いままのページがあり少し安心した。当然ながら5月12日の分の日記はすでに書いてあるままだ。でも…
「今日は日記に書いてある日とは全然違う日だ!」


5月12日 天気 快晴
今日もいつもと変わらない日だった。
けれど、いつもと変わらないのもそれほど悪くないと今日ばかりは思った。
コンクールに出品する写真も智也と一緒に撮りに行き、なかなかいいものが撮れた。
智也は相変わらず満足できないようで、明日もあの場所に張り込むらしい。

明日は、違うスポットを回ってみようと思う。
みっちゃんにコンクール出品用の写真撮ったかを聞いて、一応オタクトリオにも出品するか聞かないとだな。

きっと変われた5月12日に後悔はなかった。


僕は、日記にそう書き 眠りについた。
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