何度倒れても救けるから

相楽まふゆ 

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3.16歳

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八宵の雰囲気が変わったのは俺たちが高1のとき、俺が初体験をしたのを知ってからだったと思う。
中3のあの事件以来、八宵がラットを起こしたことは、俺の知る限りはない。
でも妙に雄っぽいオーラが出てきたのだ。
いや、もともとα特有の猛々しさはあったが、大人の色気?のようなものを纏い始めた気がする。
相変わらず愛想もないのに色気なんてと不思議に考えていたある日。
友人たちと学校帰りにファストフード店に寄っていたら八宵がショートカットの女子高生と二人で入店してきた。
制服を見ると他校の子のようだ。
中学の時の同級生かな?
その時はその程度にしか考えなかったが、後で友人から「お前の弟、制服でラブホ入っていったぞ」という情報がスマホに送られて来て心底驚いた。
同級生じゃなくて彼女だったのか。
普通に考えれば彼女とそういう行為をするのは理解できるが、あの八宵なので想像がつかない。
あの堅物にも彼女ができたのかとしんみりするのと同時に、性欲なんて持っていなさそうだった弟が制服でホテルに!?と驚いたのだ。

それからというもの、八宵が女とホテルに行っている姿の目撃情報は増え、時には大学生っぽい年上の女性とホテル街に消えていったという噂まで聞こえてくるようになる。
相手はコロコロ変わっているようだった。
「お前の弟、遊び人って言われてるぜ」
「そうそう。で、相手がみんな黒髪のショートで長身らしいよ。女子が騒いでた」
「葛城、お前なんか聞いてるの?」
友人に言われるも俺は全然知らない。
「いやー・・・でも家族の性事情って生々しくて辛いね」
そう答えるしか無い。
一同「確かに」と肯定してくれた。

そんな噂が立ち始めてから数ヶ月、家で顔を合わせても特に言及することなく過ごしていた。
母さんがパート先の棚卸し作業で帰りが遅くなると言っていたので、俺も友人と遊んで18時過ぎに帰宅する。
玄関に入ると八宵の大きなスニーカーと、女子のローファーが並べて置いてあった。
八宵のやつ、彼女を連れ込んだのか!?
そう考えると、なんとなく静かに階段を上がり、なんとなく静かに自室に入らざるを得ない。
案の定、隣の部屋からはベッドの軋む音と女の子の高い声が漏れてきた。
音に反応しないようにヘッドフォンを付けて音楽を流しながら「まあ年頃だし」とは思いつつ、家でヤるなんてスゲぇなと感心もした。
眼鏡を外すとベッドに寝転び天井を見上げる。
部屋の壁を隔てた同じ位置に八宵もベッドを配置していた。
アイツはどんなセックスするのかな・・・
ぼんやり思っていたらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
隣室から響く嬌声に目が覚める。
ヘッドフォンから流れていたはずの音楽は終わっており、ギシギシという音が耳に入ってきた。
時間は20時過ぎ。
あれからもう結構経ってるけど、まだヤってんの?
興味が湧いてきて、変態ちっくだと思いつつ壁に耳を押し当てた。
「あん、もぅ無理っ、あっあっ、あー!」
わざとらしく感じるほどの甘い啼き声にドキドキして股間が熱くなってきた。
ズボンのファスナーを下げ自分の物を取り出すと、悲鳴に合わせて扱く。
八宵が感じているであろう快感と重ね合わせると一層興奮した。
あっという間に昇り詰め、頭がはっきりする。
手に吐き出した自分の精液を眺め弟の性行為に息を荒くした自分に嫌悪した。

八宵は行為が終わると彼女にシャワーを浴びさせ、見送りは玄関までで帰していた。
家まで送っていかないなんて完全にヤリ目じゃん。
女子はそれでいいのか?
そう思いながら俺は眼鏡をかけ直し、階段の上からこっそり様子を見ていた。
相手は黒髪ショートのボーイッシュな子で、ギャル高で有名な制服を着ていた。
上半身裸にスエットを履いた八宵が階段を上がってくる。
冷めた目をした俺に気づくと驚きに目を見開き、次に罰が悪そうに顔を背けた。
「よう色男。学校で色々噂になってるぞ。家まで連れ込んで、お母さんが途中で帰ってきたらどうするつもりだったんだよ。今の子なんてどこで知り合うの?」
「・・・ナンパされた」
「ナンパ!? 初対面で家までフツー連れ込むか!? お前ってそんな軽いやつだったっけ?最近どうしたんだよ。水泳のほうもサボってるみたいだし成績も落ちてるんだって?」
俺は今まで溜め込んでいた疑問をぶつけた。
「・・・ナオには関係ない。Ωの誘いには乗っていないし避妊もしてる。勉強は、学期末には取り戻す」
そう言って自室に逃げ込む八宵を追う。
部屋の中は行為の臭いが充満していた。
(なんだこれ、αのフェロモン?)
八宵があの子に欲情した臭いだと思うと、なんだか気持ちが悪くなった。
「う・・・」
思わず口を覆ってしゃがみ込む。
「!? ナオ?どうした?」
慌てた八宵が俺を胸に抱き込む。
素肌に触れるのはいつぶりだろう。
厚い胸に閉じ込められると守ってもらえるような安心感があった。
「ん、大丈夫。ちょっと目眩がしただけ・・・」
寄りかかりながら立ち上がるとホッとしたようだ。
「相変わらず良い身体してるな。ちゃんと水泳は通えよ。お前才能あるんだから」
無意識に筋肉を手でなぞる。
俺も水泳を続けていればこんなふうになっていたんだろうか。
水泳で鍛えた身体は腹筋が引き締まり、程よい筋肉がついていて女でなくても見惚れる体つきだ。
「っ・・・!」
八宵が息を呑んだのに気づき視線を上げると目が合った。
じっと見つめてくる。
俺は親よりも八宵の気持ちを分かってやれると自負していたが、この眼差しにどんな想いが込められているかは読み取ることができなかった。
親指で俺の唇の端に触れ、ゴクリと喉を鳴らしている。
妖しい雰囲気に瞳を絡ませていると、ガチャリと玄関の開く音とスーパーの袋がドンと置かれる音がした。
2人でビクっと身体を震わせる。
俺は八宵の胸を押し返し、急いで階下に向かった。
帰ってきた母さんに声をかけ、スーパーの袋をキッチンまで持っていく。
「なに、珍しい。お腹空いてるの?」
「そ。お菓子とかない?」
母さんと他愛ない会話をして、さっきの変な雰囲気を払拭しようとしたのだった。
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