何度倒れても救けるから

相楽まふゆ 

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5.17歳 ⅲ

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 そのあと向かったのは駅前にある百貨店。
 百貨店もクリスマス一色で、混雑している店内や華やかな飾り付けを見ると興奮してしまう。
 そのせいだろうか、服屋で飾られていた某メーカーのロゴが入ったエンジ色のマフラーを見て、「八宵に似合いそうだな」と思ってしまった。
 そんな八宵はスニーカーを見たいと真っ先に靴屋に向かう。
 色々な種類のものがずらっと並んでいて俺も目を輝かせてしまった。
 物欲は無くお洒落にも疎いが、スニーカーには興味があった。
 俺達のような年代の男子で校則に触れること無く唯一他人と差別化を図れるのが足元だったからだ。
 店内をウロウロして、気になったものを手に取ってみる。
 有名ブランドのマークが入った深めのスニーカーは履き心地が良さそうだ。
 色も白地にグレーとブラックのモノクロカラーなので学校に履いて行っても問題ないだろう。
 でも、15000円か。
 カッコいいけど、高い。
 そっと元の位置に戻そうとしたところに八宵が来て、
「それが気になる?」
 履いてみれば?と促してきた。
 どうせ買えないしいいよ、と言おうとしたのに店の人に俺のサイズを伝える。
 断れなくて持ってきてもらったものを履くと、「いいじゃん。ナオに似合ってる」
 店員ばりに煽てる。
「サイズは?歩きにくくないか?」
「ああ、ちょうどいい…」
 そう言った俺の足元を見つめた八宵は店員さんに「これ買います」と勝手に決めてしまったのだ。
「ちょ、八宵!俺…」
「大丈夫。俺からのクリスマスプレゼント」
 呆然とする俺に「履いて帰る?」と訊いてくる。
 勿体なくてブンブンと顔を振ると「箱に詰めてください」とレジに行ってしまった。
 俺は何がなんだか分からないまま、スニーカーの入った箱を持って八宵の隣に立ち、会計が済むのを見守った。
「良いのが見つかって良かったな」
 会計を終えた八宵は満足気な顔だ。
「おい、どういうことだ。買い物がしたいって言ったのは?」
「なんかナオとこういうふうにブラブラしてみたかったんだ。最近2人で出歩くこともなかったしな。それでナオが欲しいものとか食べたいものとか俺があげたいと思っただけ。ちょうどクリスマスだし」
「それにしたって、こんな高いもん…!」
「小遣いとかお年玉貯めてあったぶんで買ったから気にしないで。履いてくれたら嬉しいから」

 なんだこいつ、なんだコイツ!!
 こんな甘い言葉を吐く奴だったか?
 こんな…
 恋人に貢ぐようなことを俺にしてどうするつもりだよ。
 そう考えると、この半日がデートのように思えてくる。
 自分の想像で顔を真っ赤にし、箱の入った袋を八宵に押し付け
「ここで待ってろ」
 言い捨てた俺は走った。
 走って先ほど通り過ぎた服屋まで戻ると飾ってあったマフラーを指し、これと同じものを買いたいと息荒く店員さんに告げた。
 値段は6000円。
 どうにか手持ちで間に合いそうだ。
 自分用にこんな高いマフラーを買ったことはないが、スニーカーの礼なら安いものだ。
「すぐ使いたいから」と値札を取ってもらう。
 所在なげに立っている八宵のもとへ10分もせずに戻ると「お返しだ」とマフラーを首に巻いてやった。
 黒の学ランにエンジ色が映える。
 思った通り、八宵に似合う色だった。
 少し驚いた顔をした弟がマフラーに顔を埋め「サンキュ」と言ってくれる。
 その様子を見て、プレゼントをする楽しみが少し分かった気がした。


 クリスマスが終わってからの5日間、俺は補習のため登校をした。
 明日は最終日でまとめのテストがある。
 これに受からないと進級は厳しくなってくるので家でも真面目に試験勉強をしていた。
 0時を回ったころ、自室の部屋のドアをノックするだけして返事も待たずに八宵が入ってきた。
 手にはお湯を注いだカップラーメンを2つ持っている。
「どう?順調?」
「夜食」と言ってカップラーメンを机に置いてくれた。
 八宵は俺のベッドに腰掛け、自分のぶんのラーメンを啜る。
「嫌みか。物理がどうしても分かんない。理解できない。お前よくできるな」
 プリントを見せると「これがこうで・・・」と教えてくれるが俺にはさっぱりだ。
 八宵は部活は休みだが冬期講習に参加しており、朝だけ一緒に通学していた。
 俺は補習の教科だけなので2時間くらいしか授業を受けていなかったが、講習組はみっちり5時間やっている。
 さすが特進科だ。
「そうだ やよい。明日一緒に昼飯食べない?実は補習受けてるメンバーで最後にパーッとピザをデリバろうぜって話しになったんだ。何枚か注文する予定だから人数居たほうがいいかなって。お前の友達も来るならそのぶん頼むけど」
「学校で出前とるのか?すごいな」
「校門で受け取る予定。べつによくねぇ?」
「お前って、時々突拍子もないこと考えるよね。うちのクラスはみんな弁当持ってきてるから、俺だけ合流するよ」
「分かった。じゃあお前も出前待ち係な。校門のところに12時待ち合わせ」
「それは分かったけど、試験頑張りなよ?」
 ラーメンを食べ終わった八宵は「しんぱい」という言葉を顔に貼り付けて部屋を出て行った。


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