何度倒れても救けるから

相楽まふゆ 

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8.17歳 ⅴ

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 年が明け、新学期になった。
 八宵が買ってくれた新しいスニーカーを履いたところ、母さんに
「あんたそんなの持ってた?いつ買ったの」と訝しがられてしまった。
 それはそうだろう。
 バイトもしていない俺がこんな高そうなものを買えるわけがない。
「俺が買ったんだ。クリスマスプレゼント。ナオからはこのマフラーをもらった」
 俺が買ってやったマフラーを首に巻いた八宵が説明してくれる。
「あんたたち、兄弟でプレゼントしあいっこなんて淋しいわね~。彼女いないの?」
 至極もっともなことを母さんに言われてしまった。

 八宵の部活の朝練がないので一緒に登校する。
 学校まで自転車でゆっくり行って40分。
 この日は大学受験の話しをしながら登校していた。
 金銭的に浪人は厳しいが、だからと言って国公立に合格できる頭脳は俺には無い。
「お前くらいは公立の大学に行ってやれよ。お前なら大丈夫だろうし」
 俺は一人暮らししてみたいな・・・

 校門手前の信号待ちで、ちょうど白河さんが髪の長い女子と一緒に歩いているところに出くわした。
「あれ⁉ 葛城くんおはよ~。今年もよろしく!」
 明るく俺たちに挨拶してくれる。
 あのピザの昼飯後、どうなったか俺は聞いていないが普通の態度だ。
 一緒にいる子も特進科かな?
 白河さんと同じくスラリと身長が高いが柔らかそうな雰囲気の可愛い子で、泣きぼくろがセクシーさも感じさせる。
 目が合ってちょっと緊張した。
 八宵はチラッと2人を見て「よろしく」と言っただけで信号が青に変わると自転車を走らせてしまった。
 俺も2人を気にしつつ八宵の後を追う。
「やよい、白河さんの隣に居た子も同じクラス?」
「・・・ああ」
「ってことはα?」
「さあな」
 素っ気なく答えた八宵は学校に着くとさっさと駐輪所に自転車を置き校舎へ入ってしまった。
 グイグイ来たと思ったら急に距離をとったり。
 あいつの気持ちがさっぱり分からない。



 新学期が始まり八宵の部活が再開すると登下校が完全に別になり、そうするとまた顔を合わせる時間も少なくなった。
 そんなある日、母さんから「八宵がお弁当忘れてったから、あんた持っていってあげて」と2人分の弁当を渡された。
 特進科はαが多く苦手な雰囲気なのであまり行きたくないんだけど・・・
 そう思いながら弁当箱が入った巾着を手に八宵のクラスを覗く。
「葛城いる?」
 入口のそばに居た女子に声をかけると、先日見かけたあの子だった。
 彼女は「葛城くん?」と教室内を見渡してくれるが、八宵は居ないようだった。
「何かあった?」
「あー、あいつ弁当家に忘れてったから届けに来たんだけど。居ないなら、また来るわ」
「あ、じゃあ私が渡しておいてあげるよ」
 申し出に一瞬躊躇ったが「まぁいいか」とお願いすることにした。
 弁当箱を受け取った彼女は俺の顔をじっと見つめ、
「葛城くんの双子のお兄さん、だよね? 泣きぼくろ私もお揃い」
 自分の目元を指さし笑んだ彼女に俺はときめいてしまった。
 黒縁眼鏡に隠れたホクロを指摘する子なんて初めてだったから。

 それから何日かして、俺のいる普通科教室に彼女が白河さんと2人でやってきた。
 しかも俺を指名していると言う。
 クラスメートに注目されながら会うと人気のない階段裏に連れて行かれる。
 八宵の情報を教えろとか言われるのだろうと構えていると
「あのね、この子が葛城くん・・・えっと葛城七音くんのこと気になるんだって」
 白河さんがニヤニヤしながら言ってくる。
「この前うちの教室に来た時にカッコ良いって思ったの。彼女とかいないなら私どうかなって思って」
 顔を赤くしながら告白する彼女を可愛いと思ったが、卑屈な俺は信じられない。
「俺?八宵じゃなくて?俺βだけど本気?」
 彼女、久住さんは八宵はタイプで無く、俺のような眼鏡男子が好きと言うことだった。
 眼鏡男子なら特進科にも居るんじゃないの?と思い、「すぐに返事はできない」と取り敢えずスマホの連絡先だけ交換をしてその場は別れた。
 教室に戻ると友人の片桐が
「ねねね、なんだった?告白?」
 と面白そうに訊いてくる。
「あー分かんない。八宵のクラスの子だし、からかわれてるのかも。若しくは罰ゲームとか」
「素直になれよ~。弟の影に隠れがちだけど、お前も結構イケてるよ」
 他校に彼女が居る友人は背中を叩いて励ましてくれた。
 
 家に帰り、夜 予習をしていると久住さんからメッセージが届いた。
 明日から朝一緒に登校しないかと言う。
 可愛いタイプだけど積極的だな。
 でもそうか、同じ学校で付き合うと登下校一緒にするのか。
 面倒だなと思いつつ、「久しぶりに女子とそういうことになるのも楽しいかも」と考え「OK」と返事をした。
 彼女は電車通学なので、少し遠回りになるが俺が駅まで自転車で迎えに行き、駅から学校までの15分ほどを一緒に過ごすことにした。
 次第に下校も一緒にするようになり、ファストフード店やファミリーレストランに寄ったり学校の図書館で勉強をして帰ることもあった。
 罰ゲームのネタにされていると思っていた彼女との逢瀬は意外にも楽しく、恋愛感情を抱くようになっていた。
 1番良かったのは、八宵と性行為をする悪夢を見なくなり、健全に彼女と致す夢に変わったことだった。
 そんな風に過ごして3週間ほど。
 土曜にデートをすることになった。
 高校生でお金もないので電車で少し行った所にある寺社を巡り梅の花見をしたりした。
 最初は八宵の情報欲しさに俺と付き合ってるのかも・・・と疑っていたが、久住さんは八宵の「や」の字も出すことはない。
 逆に俺の方が学校での八宵のことを訊くことが多く、「兄弟なのに知らないの?」と言われてしまう始末だった。
 デートの終盤にはゲームセンターに行き、テッパンだがクレーンゲームで捕った人形を彼女にあげた。
「ありがと」と喜ぶ姿を見て「可愛い。好き」と思ってしまう男の単純さよ。
 帰り際、駅の近くでついに彼女とキスをした。
 久しぶりの柔らかい感触にガッつきそうになったがどうにか堪えた。

 その日は家に帰っても興奮してなかなか寝付けず、枕を抱きしめるとベッドの上で身悶えていた。
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