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私は荷物ではないのだが
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「ベニート様」
救世主と思って振り返ると、ベニート様だった。
「どうしたのです?可愛らしい顔を曇らせて」
いつものように近い距離で私の頬をサラッと撫でる。
「エルダに触るな」
アルド殿が無理矢理、間に入って来た。
「おや?魔術師団の副団長殿。何故こちらに?」
「エルダを口説くため」
「それは、それは。彼女はそう簡単には落とせませんよ」
「そんなの、関係ない」
「ですが、ここは騎士たちの訓練場。熟練の騎士たちであれば、気にもせずに訓練も続けられるでしょうが、まだ若い騎士たちもいるのです。気が散ってもし彼らが怪我でもしたら、どう責任を取るおつもりですか?」
流石、次期宰相殿。ド正論をかました。
「……わかった。今は戻る」
少し不貞腐れた様子だったが、素直に戻って行ってくれた。
「ありがとうございます、ベニート様」
お礼を言うと、もう一歩近づかれた。だから近いって。
「貴女はどうして私の敵を作るのですか?」
「敵、ですか?」
「そうですよ。王太子殿下だけでもお腹が一杯だというのに。アルセニオやアルド殿まで」
王太子殿下はわかる。良きライバルという所だろう。でも他は?イマイチ繋がりが見えない。思わず首を傾げてしまったのは仕方のない事だろう。
「そんな可愛らしく首を傾げて……本当に困った人ですね」
再び私の頬を撫でる。そのままその手を私の肩に置いた。そしてグイっと自分の方へ引き込む。
「あまり無自覚でいると、私も本気を出しますよ」
耳元で囁くように告げられる。首の後ろがゾクリとした。しかし、本気の意味がわからない。何に本気を出すのか教えて欲しいのだが。
「ふふ、今はまだ許してあげますよ」
わからないが許しを得た私は、そのまま事務所の方へ向かって行ったベニート様を見送った。
今日は学園は休日。ヴィヴィアーナ殿下の護衛も午後からなので、少しゆっくりと屋敷を出た。
「兄様、喜ぶだろうな」
普段はシュッとしてスキがなく、冷たそうに見える兄なのだが、実は屋敷で一番甘いものが好きだったりする。
そして、私は幼い頃から、そんな兄の為にお菓子を作っていた。こう見えてお菓子作りだけは出来るのだ。今日はクッキーを作ってきた。プレーンなものと、ココア風味のもの。あとはジャムを挟んだものだ。
しかし、王太子殿下の執務室へ行ってみると、扉の前の近衛騎士に会議中で留守だと言われてしまった。
『仕方がない。少し時間を潰してから来るか』
そのまま元来た道を引き返す。
開け放たれた窓から爽やかな風が吹いた。
「気持ちがいいな」
風と共に運ばれてきた花の香りを大きく吸い込む。二羽の小鳥が甘い匂いに誘われたのか飛んできた。
「ふふふ、運がいいな。少し分けてやろう」
袋から1枚出したクッキーを小さく割る。すると、柵に止まっていた二羽の小鳥は迷うことなく私の手に止まった。啄んで食べ始め、最後は大きめの欠片を咥えて飛んで行った。
「ふふ、可愛い」
小鳥を見送っていると、またもや腹回りに腕が巻かれた。
「可愛いのはおまえだ」
そのまま片腕で私は持ち上げられてしまった。慌てて見上げると王太子殿下だった。
「ヴァレンティーノ殿下!?」
「エッツィオがいなければ、このまま食ってしまうのに」
いやいや、私は食べ物ではない。
「殿下、あまりおふざけが過ぎますと叩き切りますよ」
私からは見えないが、きっと今の兄は恐ろしいほど美しい顔で笑ったのだろう。
「本当に、そういう時のおまえは恐ろしいよ」
「お褒め頂き、恐縮です」
「褒めたと思う所が怖いぞ」
「ふふ、そうでしょうか?」
王太子殿下は私を抱えたまま、兄との会話を楽しんでいる。兄もこの状況の私を助ける気は一切ないらしい。
「いや、あのちょっ、離してください」
「離さん。このまま拉致られろ」
片手で荷物のように抱えられたまま、執務室まで連れて行かれてしまった。
救世主と思って振り返ると、ベニート様だった。
「どうしたのです?可愛らしい顔を曇らせて」
いつものように近い距離で私の頬をサラッと撫でる。
「エルダに触るな」
アルド殿が無理矢理、間に入って来た。
「おや?魔術師団の副団長殿。何故こちらに?」
「エルダを口説くため」
「それは、それは。彼女はそう簡単には落とせませんよ」
「そんなの、関係ない」
「ですが、ここは騎士たちの訓練場。熟練の騎士たちであれば、気にもせずに訓練も続けられるでしょうが、まだ若い騎士たちもいるのです。気が散ってもし彼らが怪我でもしたら、どう責任を取るおつもりですか?」
流石、次期宰相殿。ド正論をかました。
「……わかった。今は戻る」
少し不貞腐れた様子だったが、素直に戻って行ってくれた。
「ありがとうございます、ベニート様」
お礼を言うと、もう一歩近づかれた。だから近いって。
「貴女はどうして私の敵を作るのですか?」
「敵、ですか?」
「そうですよ。王太子殿下だけでもお腹が一杯だというのに。アルセニオやアルド殿まで」
王太子殿下はわかる。良きライバルという所だろう。でも他は?イマイチ繋がりが見えない。思わず首を傾げてしまったのは仕方のない事だろう。
「そんな可愛らしく首を傾げて……本当に困った人ですね」
再び私の頬を撫でる。そのままその手を私の肩に置いた。そしてグイっと自分の方へ引き込む。
「あまり無自覚でいると、私も本気を出しますよ」
耳元で囁くように告げられる。首の後ろがゾクリとした。しかし、本気の意味がわからない。何に本気を出すのか教えて欲しいのだが。
「ふふ、今はまだ許してあげますよ」
わからないが許しを得た私は、そのまま事務所の方へ向かって行ったベニート様を見送った。
今日は学園は休日。ヴィヴィアーナ殿下の護衛も午後からなので、少しゆっくりと屋敷を出た。
「兄様、喜ぶだろうな」
普段はシュッとしてスキがなく、冷たそうに見える兄なのだが、実は屋敷で一番甘いものが好きだったりする。
そして、私は幼い頃から、そんな兄の為にお菓子を作っていた。こう見えてお菓子作りだけは出来るのだ。今日はクッキーを作ってきた。プレーンなものと、ココア風味のもの。あとはジャムを挟んだものだ。
しかし、王太子殿下の執務室へ行ってみると、扉の前の近衛騎士に会議中で留守だと言われてしまった。
『仕方がない。少し時間を潰してから来るか』
そのまま元来た道を引き返す。
開け放たれた窓から爽やかな風が吹いた。
「気持ちがいいな」
風と共に運ばれてきた花の香りを大きく吸い込む。二羽の小鳥が甘い匂いに誘われたのか飛んできた。
「ふふふ、運がいいな。少し分けてやろう」
袋から1枚出したクッキーを小さく割る。すると、柵に止まっていた二羽の小鳥は迷うことなく私の手に止まった。啄んで食べ始め、最後は大きめの欠片を咥えて飛んで行った。
「ふふ、可愛い」
小鳥を見送っていると、またもや腹回りに腕が巻かれた。
「可愛いのはおまえだ」
そのまま片腕で私は持ち上げられてしまった。慌てて見上げると王太子殿下だった。
「ヴァレンティーノ殿下!?」
「エッツィオがいなければ、このまま食ってしまうのに」
いやいや、私は食べ物ではない。
「殿下、あまりおふざけが過ぎますと叩き切りますよ」
私からは見えないが、きっと今の兄は恐ろしいほど美しい顔で笑ったのだろう。
「本当に、そういう時のおまえは恐ろしいよ」
「お褒め頂き、恐縮です」
「褒めたと思う所が怖いぞ」
「ふふ、そうでしょうか?」
王太子殿下は私を抱えたまま、兄との会話を楽しんでいる。兄もこの状況の私を助ける気は一切ないらしい。
「いや、あのちょっ、離してください」
「離さん。このまま拉致られろ」
片手で荷物のように抱えられたまま、執務室まで連れて行かれてしまった。
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