笑い方を忘れた令嬢

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日記2

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 5月2日
「お父様とお母様の元に行きたい……」
屋根裏部屋から天窓を見る。たくさんの星々がこちらを覗いていた。でもどの星もキラキラしているだけで、私を助けてはくれない。

コンコン。小さく扉をノックする音が聞こえた。入って来たのは侍女だった。
「薬を塗りに参りました」
それだけ言うと、私の服を脱がせ背中や肩、腿についた傷に薬を塗り込んでいく。

「お嬢様……」
いつもは無言の侍女が話しかけて来た。
「何?」
「ボノミーア侯爵家に助けを求めては如何です?流石に、お嬢様に対する仕打ちが酷過ぎるでしょう」

初めて心配された事に驚いた。
「ありがとう。でもあの伯父様に助けを求めるのならば、死を選ぶわ」
そう言った私の瞳に、本気を感じた侍女はそれきり何も言わなくなった。

あの伯父様に助けを求めるのは、一番やってはいけない事のように感じる。
「国王陛下も助けには来て下さらない……」
一人に戻って呟いた言葉は、誰にも聞かれる事なく星々に吸い取られて行った。


 7月19日
「どうしてあんたにばかり求婚の手紙が来るのよ!」
「!」
「あんたなんて、とっととパパの所へ逃げて行けばいいのよ!!」
「くっ」

今年16歳になったお義姉様の、デビュタントだった社交シーズンが終わった。どういう訳か、彼女に求婚する人物は現れなかった。その代わり、お義姉様やお義母様を介して、まだ成人になっていない私に求婚する手紙がチラチラとあったらしい。

とうとう一人も求婚者が現れないまま、シーズンが終わりを迎えてしまい、怒りの矛先が全て私に降りかかっていた。

「はっ!どうせだったら、この傷だらけの身体を求婚して来た男たちに見せてやったらどう?きっと皆逃げ出すわ。それとも、嬉々として傷を更に増やすかしら?」
無言を貫き、なんとか鞭打ちが終わるのを待った。

私はあとどれだけこの苦境を耐えればいいのだろう。屋根裏部屋にはいつの間にか外鍵が付けられていた。家の中でも監視の目がずっと私を追っている。


 12月22日
最近、鞭で打たれないと思ったら、伯父様がやって来た。
「ますますナターラに似て来たね。真っ青なその瞳の色は気に食わないが、それ以外はナターラに生き写しだ。真っ直ぐな銀の髪、スッと通った鼻筋、可愛らしいバラのような唇。スタイルの良い所も似ている。美しいよ」
恍惚とした表情で私を見る伯父様。指先から広がる粟立ちを必死で堪えた。

「あと1年……あと1年だよ、マリアンナ……楽しみだね」
そう言った伯父様は、大粒のアクアマリンが並んだ、豪奢なネックレスを私の首に着けた。

私は1年後。一体どうなるのだろう。怖いのに、逃げたいのに、その術が私にはない。監獄のような屋敷、いつでも監視の目があるこの屋敷からどうやったら逃げられるのだろう。


 12月23日
「なんであんたの方が立派なネックレスを貰ってるのよ!?」
伯父様から貰ったネックレスを見つけたお義姉様が、激怒して私をまた鞭で打った。今までは傷が残らないように、色々な場所を打っていたけれど、今回は違っていた。

同じ場所を何度も打ち続け、とうとう私の背中に赤黒い染みが出来た。

「こら、ヴェリア。やり過ぎよ。傷が残ったら旦那様に怒られてしまうわ」
お義母様がお義姉様を窘めるが、お義姉様の機嫌は直らない。

「あんたなんて死んでしまえばいいのよ!パパが欲しがっているから生かしてやっているだけなのに。死ねばいい!」
「くっ!」
感情のまま打たれる鞭の痛みに意識が飛びかけた。

私だって、死ねるものなら死んでしまいたい。お父様とお母様の元へ逝ってしまいたい。

誰も、誰も助けに来てくれない。私自身も、どう逃げたらいいのかわからない。誰か……助けて。
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