笑い方を忘れた令嬢

Blue

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歌声

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 いよいよ舞踏会当日を迎えた。
「お嬢様、お礼を述べたらすぐにお戻りくださいね」
「そうですよ。今日は気合を入れて準備をしなくてはいけないのですからね」
サマンサとベリシアに釘を刺されながら、アリアンナは竜舎へと走って行った。

事務所に入るとジルヴァーノがコーヒーを淹れている所だった。
「どうしました?こんなに朝早く。走ってきたのですか?」
「おはようございます、ジルヴァーノ様。昨夜、これが完成したのでロワに見てもらいたくて」

胸元に下がっていたネックレスを手に持ち、ゆらゆらと揺らす。
「ネックレスにしたのですね……よくお似合いです」
「ふふ、ありがとうございます。ロワに見せに行ってもいいですか?」
「ええ、勿論」

竜舎に入ると、ほとんどの竜たちは眠っていた。アリアンナは寝ている竜を起こさないように静かに足を進める。銀の竜は、入って来た時からわかっていたようで、首を伸ばしてアリアンナを見ていた。

「おはよう、ロワ。ジルヴァーノ様から受け取ったわ。とても美しい宝石をありがとう。ほら、見て。昨夜、出来上がったのよ。早くロワに見せたくて来ちゃった」
ジッと話を聞いていた銀の竜は、胸元のブルーダイヤモンドを見て嬉しそうにアリアンナに頬ずりした。

「私ね、本当に嬉しいの。今夜の舞踏会にはこのネックレスを着けるつもりよ。ふふふ、なんだかロワに見守ってもらうみたいね」
アリアンナが笑うと銀の竜は、首を高く持ち上げてキュルルルと高い声で鳴いた。すると、いつの間にか起きていた周りの竜たちも合唱のように鳴き出す。

事務所に居たジルヴァーノが、慌てて竜舎にやって来る。
「なんだこれは?こんな高音で鳴くなんて……初めて聞いた」

しかし、アリアンナの驚きはジルヴァーノの比ではなかった。背中の傷跡がほのかに温かみを帯びたのだ。
「何?どういう事?」
服の上から傷跡に触れてみる。微かな凹凸を感じるという事は、傷跡はちゃんとある。しかしどういう事なのか、引きつれた様な感覚がなくなっている。

竜たちが鳴き終わると、温かみは消えた。それでもやはり、傷跡特有の引きつれた感覚はやって来ない。
「ロワたちが治してくれたの?」
銀の竜に問うも、銀の竜は黙ったまま再びアリアンナに頬ずりをした。

そばに来たジルヴァーノが、アリアンナに声を掛ける。
「何だったんでしょうね?あれは」
「わかりません。でもまるで、歌を歌っているようでした」
「……そうですね」
再び眠り出す竜たちに別れを告げ、事務所に戻るとジルヴァーノが腕を組んで考え込む仕草を見せる。

「あの、ですね。実は……」
そんなジルヴァーノに戸惑いつつ話しかけるアリアンナ。でもそれ以上の言葉が中々出て来ない。ジルヴァーノに傷の事を言うか迷っているのだ。多分傷の事は知っているとは思うのだが、自分から切り出すのは非常に勇気がいる。

ジルヴァーノはそんなアリアンナに気付き、黙って待っていた。

「ジルヴァーノ様は……私の背中、の傷の事……ご存じですか?」
覚悟を決めて聞くと「はい」と静かに肯定の返事が戻って来た。
「そうですか……実は、ですね。先程の竜たちが鳴いている時にですね、傷跡が温かくなったのです。そして、攣れていた感覚が消えたのです」

「本当ですか?」
「はい……あ、決して傷が消えたというわけではないですが……」
少しだけ悲しくなって俯いてしまう。男性には受け入れられない話かもしれないと思った途端、どうにも悲しくなってしまったのだ。

俯いたアリアンナの頭に、ジルヴァーノの手が置かれた。そのまま優しく撫でるジルヴァーノ。
「傷跡など気にする必要はありません。アリアンナ様が立派に戦い抜いた証、騎士で言うなら勲章です。私は見る事は叶いませんがもし仮に、見る事になった時は……私はアリアンナ様の傷に口づけを落とすでしょう」

ジルヴァーノの言葉に、弾けるように顔を上げたアリアンナ。彼とバッチリ目が合ってしまう。銀の瞳が優しく輝いていた。輝きに魅入られるように見つめ返した途端、熱でも出たかのようにアリアンナの顔が朱に染まった。
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