26 / 71
歌声
しおりを挟む
いよいよ舞踏会当日を迎えた。
「お嬢様、お礼を述べたらすぐにお戻りくださいね」
「そうですよ。今日は気合を入れて準備をしなくてはいけないのですからね」
サマンサとベリシアに釘を刺されながら、アリアンナは竜舎へと走って行った。
事務所に入るとジルヴァーノがコーヒーを淹れている所だった。
「どうしました?こんなに朝早く。走ってきたのですか?」
「おはようございます、ジルヴァーノ様。昨夜、これが完成したのでロワに見てもらいたくて」
胸元に下がっていたネックレスを手に持ち、ゆらゆらと揺らす。
「ネックレスにしたのですね……よくお似合いです」
「ふふ、ありがとうございます。ロワに見せに行ってもいいですか?」
「ええ、勿論」
竜舎に入ると、ほとんどの竜たちは眠っていた。アリアンナは寝ている竜を起こさないように静かに足を進める。銀の竜は、入って来た時からわかっていたようで、首を伸ばしてアリアンナを見ていた。
「おはよう、ロワ。ジルヴァーノ様から受け取ったわ。とても美しい宝石をありがとう。ほら、見て。昨夜、出来上がったのよ。早くロワに見せたくて来ちゃった」
ジッと話を聞いていた銀の竜は、胸元のブルーダイヤモンドを見て嬉しそうにアリアンナに頬ずりした。
「私ね、本当に嬉しいの。今夜の舞踏会にはこのネックレスを着けるつもりよ。ふふふ、なんだかロワに見守ってもらうみたいね」
アリアンナが笑うと銀の竜は、首を高く持ち上げてキュルルルと高い声で鳴いた。すると、いつの間にか起きていた周りの竜たちも合唱のように鳴き出す。
事務所に居たジルヴァーノが、慌てて竜舎にやって来る。
「なんだこれは?こんな高音で鳴くなんて……初めて聞いた」
しかし、アリアンナの驚きはジルヴァーノの比ではなかった。背中の傷跡がほのかに温かみを帯びたのだ。
「何?どういう事?」
服の上から傷跡に触れてみる。微かな凹凸を感じるという事は、傷跡はちゃんとある。しかしどういう事なのか、引きつれた様な感覚がなくなっている。
竜たちが鳴き終わると、温かみは消えた。それでもやはり、傷跡特有の引きつれた感覚はやって来ない。
「ロワたちが治してくれたの?」
銀の竜に問うも、銀の竜は黙ったまま再びアリアンナに頬ずりをした。
そばに来たジルヴァーノが、アリアンナに声を掛ける。
「何だったんでしょうね?あれは」
「わかりません。でもまるで、歌を歌っているようでした」
「……そうですね」
再び眠り出す竜たちに別れを告げ、事務所に戻るとジルヴァーノが腕を組んで考え込む仕草を見せる。
「あの、ですね。実は……」
そんなジルヴァーノに戸惑いつつ話しかけるアリアンナ。でもそれ以上の言葉が中々出て来ない。ジルヴァーノに傷の事を言うか迷っているのだ。多分傷の事は知っているとは思うのだが、自分から切り出すのは非常に勇気がいる。
ジルヴァーノはそんなアリアンナに気付き、黙って待っていた。
「ジルヴァーノ様は……私の背中、の傷の事……ご存じですか?」
覚悟を決めて聞くと「はい」と静かに肯定の返事が戻って来た。
「そうですか……実は、ですね。先程の竜たちが鳴いている時にですね、傷跡が温かくなったのです。そして、攣れていた感覚が消えたのです」
「本当ですか?」
「はい……あ、決して傷が消えたというわけではないですが……」
少しだけ悲しくなって俯いてしまう。男性には受け入れられない話かもしれないと思った途端、どうにも悲しくなってしまったのだ。
俯いたアリアンナの頭に、ジルヴァーノの手が置かれた。そのまま優しく撫でるジルヴァーノ。
「傷跡など気にする必要はありません。アリアンナ様が立派に戦い抜いた証、騎士で言うなら勲章です。私は見る事は叶いませんがもし仮に、見る事になった時は……私はアリアンナ様の傷に口づけを落とすでしょう」
ジルヴァーノの言葉に、弾けるように顔を上げたアリアンナ。彼とバッチリ目が合ってしまう。銀の瞳が優しく輝いていた。輝きに魅入られるように見つめ返した途端、熱でも出たかのようにアリアンナの顔が朱に染まった。
「お嬢様、お礼を述べたらすぐにお戻りくださいね」
「そうですよ。今日は気合を入れて準備をしなくてはいけないのですからね」
サマンサとベリシアに釘を刺されながら、アリアンナは竜舎へと走って行った。
事務所に入るとジルヴァーノがコーヒーを淹れている所だった。
「どうしました?こんなに朝早く。走ってきたのですか?」
「おはようございます、ジルヴァーノ様。昨夜、これが完成したのでロワに見てもらいたくて」
胸元に下がっていたネックレスを手に持ち、ゆらゆらと揺らす。
「ネックレスにしたのですね……よくお似合いです」
「ふふ、ありがとうございます。ロワに見せに行ってもいいですか?」
「ええ、勿論」
竜舎に入ると、ほとんどの竜たちは眠っていた。アリアンナは寝ている竜を起こさないように静かに足を進める。銀の竜は、入って来た時からわかっていたようで、首を伸ばしてアリアンナを見ていた。
「おはよう、ロワ。ジルヴァーノ様から受け取ったわ。とても美しい宝石をありがとう。ほら、見て。昨夜、出来上がったのよ。早くロワに見せたくて来ちゃった」
ジッと話を聞いていた銀の竜は、胸元のブルーダイヤモンドを見て嬉しそうにアリアンナに頬ずりした。
「私ね、本当に嬉しいの。今夜の舞踏会にはこのネックレスを着けるつもりよ。ふふふ、なんだかロワに見守ってもらうみたいね」
アリアンナが笑うと銀の竜は、首を高く持ち上げてキュルルルと高い声で鳴いた。すると、いつの間にか起きていた周りの竜たちも合唱のように鳴き出す。
事務所に居たジルヴァーノが、慌てて竜舎にやって来る。
「なんだこれは?こんな高音で鳴くなんて……初めて聞いた」
しかし、アリアンナの驚きはジルヴァーノの比ではなかった。背中の傷跡がほのかに温かみを帯びたのだ。
「何?どういう事?」
服の上から傷跡に触れてみる。微かな凹凸を感じるという事は、傷跡はちゃんとある。しかしどういう事なのか、引きつれた様な感覚がなくなっている。
竜たちが鳴き終わると、温かみは消えた。それでもやはり、傷跡特有の引きつれた感覚はやって来ない。
「ロワたちが治してくれたの?」
銀の竜に問うも、銀の竜は黙ったまま再びアリアンナに頬ずりをした。
そばに来たジルヴァーノが、アリアンナに声を掛ける。
「何だったんでしょうね?あれは」
「わかりません。でもまるで、歌を歌っているようでした」
「……そうですね」
再び眠り出す竜たちに別れを告げ、事務所に戻るとジルヴァーノが腕を組んで考え込む仕草を見せる。
「あの、ですね。実は……」
そんなジルヴァーノに戸惑いつつ話しかけるアリアンナ。でもそれ以上の言葉が中々出て来ない。ジルヴァーノに傷の事を言うか迷っているのだ。多分傷の事は知っているとは思うのだが、自分から切り出すのは非常に勇気がいる。
ジルヴァーノはそんなアリアンナに気付き、黙って待っていた。
「ジルヴァーノ様は……私の背中、の傷の事……ご存じですか?」
覚悟を決めて聞くと「はい」と静かに肯定の返事が戻って来た。
「そうですか……実は、ですね。先程の竜たちが鳴いている時にですね、傷跡が温かくなったのです。そして、攣れていた感覚が消えたのです」
「本当ですか?」
「はい……あ、決して傷が消えたというわけではないですが……」
少しだけ悲しくなって俯いてしまう。男性には受け入れられない話かもしれないと思った途端、どうにも悲しくなってしまったのだ。
俯いたアリアンナの頭に、ジルヴァーノの手が置かれた。そのまま優しく撫でるジルヴァーノ。
「傷跡など気にする必要はありません。アリアンナ様が立派に戦い抜いた証、騎士で言うなら勲章です。私は見る事は叶いませんがもし仮に、見る事になった時は……私はアリアンナ様の傷に口づけを落とすでしょう」
ジルヴァーノの言葉に、弾けるように顔を上げたアリアンナ。彼とバッチリ目が合ってしまう。銀の瞳が優しく輝いていた。輝きに魅入られるように見つめ返した途端、熱でも出たかのようにアリアンナの顔が朱に染まった。
56
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました
音芽 心
恋愛
伯爵令嬢アイリスは、幼い頃から妹のメアリーと比較され、家族の愛を知らずに生きてきた。唯一幸せだった時間は、婚約者のカルヴィンと過ごしている間だけ。
だがある日、カルヴィンから唐突に婚約破棄を言い渡される。どうやらカルヴィンは、アイリスの知らない間にメアリーと恋仲になっていたらしい。
何もかもが嫌になり、家を抜け出して酒屋でヤケ酒をしていた時、ある男に声を掛けられる。酔っ払っていたアイリスは、その男が誰かもわからぬまま酒を飲み交わしたのだった。
その翌日、目を覚ましたアイリスは見知らぬベッドにいた。おそるおそる隣を見ると、そこにはなんと「黒薔薇公爵」と呼ばれ恐れられている男が寝ていて……!?
***
皆さんの♡や📣、そしてお気に入り登録、大変励みになっております!
楽しく執筆活動ができているのは皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる