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祝福
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初めて聞く話にアリアンナの青い瞳が大きく見開いた。
「竜って存在そのものも神秘的だけれど、子を成すのも神秘的なのね」
「そうだね。まあ、極稀に、神経質な個体が卵を産むために、わざわざ群れから離れるという事もあるらしいけれどね」
アリアンナが感心していると、銀の竜がアリアンナの手を鼻先で持ち上げた。
「ん?なあに?」
銀の竜は、アリアンナの手と卵を交互に見る。
「もしかすると……ロワはアリアンナ様に卵に触れて欲しいのではないでしょうか?」
ジルヴァーノが言うとまるでそうだと言うように、銀の竜の瞳がゆっくり閉じられた。
「私が?触ってもいいの?」
銀の竜は、再び瞳をゆっくり閉じる。
「そっか。じゃあ、無事に元気な子竜が生まれるようにお祈りするね」
ドキドキしながら、アリアンナはそっと卵に触れた。普通の卵よりも硬質な手触り。けれどほのかな熱が伝わって来る。掌の熱に愛しさを感じながら目を瞑る。
「どうか、無事に生まれますように」
アリアンナが祈りの言葉を口にした時だった。淡く光っていた卵の光が急に強くなる。瞬間、眩いほどの光を発した卵は、すぐに淡い光に戻った。
「なんだったんだ?今のは」
驚いて目を見開いた王太子が卵を凝視する。
「……アンナの祈りが通じたのでしょうか?」
ドマニが言うとジルヴァーノがボソリと呟くように言った。
「姫神子の祝福?」
ジルヴァーノの声がしっかりと聞こえたアリアンナは、驚いた表情になる。
「祝福?私が?」
「確かに。その可能性はあるな」
王太子も納得したようだ。
そんな戸惑っている四人を見て、銀の竜は楽しそうにクルルと鳴いていた。
あれからアリアンナはほぼ毎日、卵の様子を見に行っていた。新入りの三頭もすっかり竜騎士の一員という顔をしている。まだ、成獣の一回り以上小さい体格ではあるが、一緒になって卵を守っているのを見ると、微笑ましい気持ちになる。
「そろそろ騎士を見つけようと思っているんです」
つい先日、ジルヴァーノがそう言っていたのを思い出す。まずは、騎士団の中から希望者を募るらしい。その中から竜と相性が良い者がいればすぐにでも竜騎士として訓練を受けるのだそうだ。
いない場合は近衛騎士の中で同じように希望者を募るそうだ。それでもいなければゆっくり決めていく事になるとの事だった。相性の良い人間を見つけるだけでも大変なのに、加えて体力・機動力、そして剣の能力も兼ね備えていなければならないのだ。竜騎士というのは竜に乗るだけでは勤まらない。そう簡単には見つからないだろうという事だった。
「焦る必要はないわよね」
卵の周りを囲っている三頭に声を掛ける。一頭が返事をするかのようにクウと鳴いた。そして気が付けば、いつものように竜たちに囲まれる。
「やはりいらしていたのですね」
事務所からジルヴァーノがやって来た。
「はい。若い三頭の子たちが一生懸命に卵を守っている姿が可愛くて」
「はは、相変わらずですね、アリアンナ様は」
「何がですか?」
「竜を可愛いと言う事がです」
クククと笑うジルヴァーノ。
「そんなに珍しいかしら?」
アリアンナにはそう見えるのだから仕方がない。
「珍しいですが、いいと思いますよ。竜たちも嬉しそうですし、私も嬉しいです」
「ジルヴァーノ様もですか?」
思ってもみなかった返答に、思わず聞き返してしまった。
「はい。私もついでに褒められているような気がして」
そう言って笑うジルヴァーノを見て、見惚れてしまったアリアンナ。呆けた表情で彼の事を見つめた彼女の口が開いた。
「……ジルヴァーノ様は……とても素敵、だと思いますよ」
無意識だった。本当に無意識にアリアンナが呟いた。
「え?」
「……!」
ジルヴァーノの聞き返す声で、我に返ったアリアンナは自分が何を言ったのか理解した途端、一気に顔に熱が宿った。青く宝石のような瞳は零れてしまうのでは、と思う程大きく見開いている。
「ははは、ありがとうございます。なんだか照れ臭いですが嬉しいです」
急に褒められたジルヴァーノも、耳を赤く染めていた。
「い、いいえ……どういたし、まして」
そう言ったものの、アリアンナは恥ずかしくて仕方がない。もう顔どころか全てが熱い。顔だけでもと、隠すように俯いたアリアンナの手を握ったジルヴァーノ。
「アリアンナ様も可愛いです。いや、可愛いの一言で終わるようなものではありません。普段のあなたも竜たちと戯れている時のあなたも、私とこうして話している時のあなたも……全てが愛しいと……そう思います」
「ジルヴァーノ様……」
りんごのように赤くなった顔を上げ名を呼んだアリアンナに、優しい微笑みを向けながら首を振るジルヴァーノ。
「ジルと、そう呼んで頂けませんか?」
「……では、私も。アンナと……ジル」
そう言ったアリアンナの顔が、ますます赤くなる。ジルヴァーノがそんな彼女を抱きしめようと腕を伸ばした。
ところがだ。「クウ」と鳴いた銀の竜が、二人の間に鼻先を割り込ませてきた。
「またか……」
ジルヴァーノのがっかりした声に、アリアンナは笑うのだった。
「竜って存在そのものも神秘的だけれど、子を成すのも神秘的なのね」
「そうだね。まあ、極稀に、神経質な個体が卵を産むために、わざわざ群れから離れるという事もあるらしいけれどね」
アリアンナが感心していると、銀の竜がアリアンナの手を鼻先で持ち上げた。
「ん?なあに?」
銀の竜は、アリアンナの手と卵を交互に見る。
「もしかすると……ロワはアリアンナ様に卵に触れて欲しいのではないでしょうか?」
ジルヴァーノが言うとまるでそうだと言うように、銀の竜の瞳がゆっくり閉じられた。
「私が?触ってもいいの?」
銀の竜は、再び瞳をゆっくり閉じる。
「そっか。じゃあ、無事に元気な子竜が生まれるようにお祈りするね」
ドキドキしながら、アリアンナはそっと卵に触れた。普通の卵よりも硬質な手触り。けれどほのかな熱が伝わって来る。掌の熱に愛しさを感じながら目を瞑る。
「どうか、無事に生まれますように」
アリアンナが祈りの言葉を口にした時だった。淡く光っていた卵の光が急に強くなる。瞬間、眩いほどの光を発した卵は、すぐに淡い光に戻った。
「なんだったんだ?今のは」
驚いて目を見開いた王太子が卵を凝視する。
「……アンナの祈りが通じたのでしょうか?」
ドマニが言うとジルヴァーノがボソリと呟くように言った。
「姫神子の祝福?」
ジルヴァーノの声がしっかりと聞こえたアリアンナは、驚いた表情になる。
「祝福?私が?」
「確かに。その可能性はあるな」
王太子も納得したようだ。
そんな戸惑っている四人を見て、銀の竜は楽しそうにクルルと鳴いていた。
あれからアリアンナはほぼ毎日、卵の様子を見に行っていた。新入りの三頭もすっかり竜騎士の一員という顔をしている。まだ、成獣の一回り以上小さい体格ではあるが、一緒になって卵を守っているのを見ると、微笑ましい気持ちになる。
「そろそろ騎士を見つけようと思っているんです」
つい先日、ジルヴァーノがそう言っていたのを思い出す。まずは、騎士団の中から希望者を募るらしい。その中から竜と相性が良い者がいればすぐにでも竜騎士として訓練を受けるのだそうだ。
いない場合は近衛騎士の中で同じように希望者を募るそうだ。それでもいなければゆっくり決めていく事になるとの事だった。相性の良い人間を見つけるだけでも大変なのに、加えて体力・機動力、そして剣の能力も兼ね備えていなければならないのだ。竜騎士というのは竜に乗るだけでは勤まらない。そう簡単には見つからないだろうという事だった。
「焦る必要はないわよね」
卵の周りを囲っている三頭に声を掛ける。一頭が返事をするかのようにクウと鳴いた。そして気が付けば、いつものように竜たちに囲まれる。
「やはりいらしていたのですね」
事務所からジルヴァーノがやって来た。
「はい。若い三頭の子たちが一生懸命に卵を守っている姿が可愛くて」
「はは、相変わらずですね、アリアンナ様は」
「何がですか?」
「竜を可愛いと言う事がです」
クククと笑うジルヴァーノ。
「そんなに珍しいかしら?」
アリアンナにはそう見えるのだから仕方がない。
「珍しいですが、いいと思いますよ。竜たちも嬉しそうですし、私も嬉しいです」
「ジルヴァーノ様もですか?」
思ってもみなかった返答に、思わず聞き返してしまった。
「はい。私もついでに褒められているような気がして」
そう言って笑うジルヴァーノを見て、見惚れてしまったアリアンナ。呆けた表情で彼の事を見つめた彼女の口が開いた。
「……ジルヴァーノ様は……とても素敵、だと思いますよ」
無意識だった。本当に無意識にアリアンナが呟いた。
「え?」
「……!」
ジルヴァーノの聞き返す声で、我に返ったアリアンナは自分が何を言ったのか理解した途端、一気に顔に熱が宿った。青く宝石のような瞳は零れてしまうのでは、と思う程大きく見開いている。
「ははは、ありがとうございます。なんだか照れ臭いですが嬉しいです」
急に褒められたジルヴァーノも、耳を赤く染めていた。
「い、いいえ……どういたし、まして」
そう言ったものの、アリアンナは恥ずかしくて仕方がない。もう顔どころか全てが熱い。顔だけでもと、隠すように俯いたアリアンナの手を握ったジルヴァーノ。
「アリアンナ様も可愛いです。いや、可愛いの一言で終わるようなものではありません。普段のあなたも竜たちと戯れている時のあなたも、私とこうして話している時のあなたも……全てが愛しいと……そう思います」
「ジルヴァーノ様……」
りんごのように赤くなった顔を上げ名を呼んだアリアンナに、優しい微笑みを向けながら首を振るジルヴァーノ。
「ジルと、そう呼んで頂けませんか?」
「……では、私も。アンナと……ジル」
そう言ったアリアンナの顔が、ますます赤くなる。ジルヴァーノがそんな彼女を抱きしめようと腕を伸ばした。
ところがだ。「クウ」と鳴いた銀の竜が、二人の間に鼻先を割り込ませてきた。
「またか……」
ジルヴァーノのがっかりした声に、アリアンナは笑うのだった。
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