57 / 71
王子の求婚
しおりを挟む
「アリアンナ嬢は、婚約者はおられるのですか?」
「いいえ、おりませんが……」
「心を寄せている方は?」
「……おります」
思わず本当の事を言ってしまう。黙って聞いていた王妃とユラが「まあ」と楽しそうな声を上げた。
「その方に想いは告げたのですか?身分的に釣り合う方ですか?」
グイグイ来る感じに少し眉が下がるが、フィガロ王子の言葉は止まらない。
「やはり王女ともなると、それなりに身分がある者でなければ、周りが納得しないでしょう?」
「それはないと思いますが」
そう答えたアリアンナが王妃の顔を見ると、笑みを浮かべながら小さく頷いた。ここにはいないが、国王だって王太子だってそんな事は気にしないと言ってくれるだろう。どうもフィガロ王子とは感覚的に合わないと感じたアリアンナは、これ以上会話を続けたくないと思ってしまう。だが、王子の方はますます調子付く。
「私はどうです?同じ歳だし、竜が好きな者同士、話が合うと思いませんか?」
独りよがりな王子の発言にアリアンナが困惑し始めると、見兼ねた王妃とユラが助け船を出した。
「フィガロ殿下は、アリアンナを見初めて下さったのかしら?」
王妃が問うと、王子は大きく頷いた。
「ええ、とても美しい上に、学力も兼ね備えている。とても素晴らしい。それに、宝石のような瞳の青。彼女であれば、王子である私とお似合いではないでしょうか?」
話しながらもアリアンナをじっと見つめるフィガロ王子の視線に、なんだか寒気がして思わず目を伏せる。
「まあ、大変!うちの息子もうかうかしていられないわ。もっと発破をかけてやるべきかしら?」
ユラがわざとらしく驚いて見せると、王妃も便乗した。
「ふふ、ユラったら。殿下、アリアンナにはライバルが大勢おりますよ。それに……親バカと言われるでしょうが、アリアンナを他国に嫁がせるつもりはありませんの。国王と王太子である息子が目に入れても痛くない程溺愛しておりますので。ふふ、それに……仮に他国へ嫁がせるなんて事をしたら、竜たちが暴れ出してしまいそうですもの」
遠回しだがはっきりと拒絶の意思を示した王妃に、フィガロ王子の顔が引きつった。
「竜が……ですか?」
「ええ、どんなに遠い異国だろうが、きっと取り返しに行くでしょうね」
「はは、流石に竜には勝てそうもありませんね。しかし……そんなに竜と仲が良いとは驚きです」
王子が肩を落としたように見えた。申し訳ないとは思いながらも、これで少し静かになるだろうと思ったアリアンナだが、どうやらその考えは甘かったようだった。
「そう言えば、若い竜が数頭入ったそうですね」
「え?」
若い竜たちの事は、王城内でしか知られてはいないはずなのだ。何処から漏れたのかはすぐにわかった。
「ピア嬢から聞きたのですね?」
すると、「ええ」と素直に答える。そんなフィガロ王子の返答に、王妃とユラも溜息を吐いた。
『いくら長年の友好国だからと言って、軍事の内容でもある話を他国の王族に言うなんて』
アリアンナはピアをチラリと見たが、本人には自覚はないようだ。溜息をついたアリアンナは、下手に嘘を吐く訳にもいかず話し出した。
「ええ、おります。銀の竜を始め、竜たちに守られておりますわ」
その瞬間、王子がニヤリとした。
「その竜たちはもう乗り手が決まっているのですか?」
「……いいえ」
「では、私でも選ばれれば、乗る事が出来るかもしれないと言う事ですよね」
突拍子もない王子の発言に、アリアンナだけでなく王妃もユラも驚きを隠せない。
「あの……殿下はそもそもこの国も方ではありませんから、試す事自体出来ないと思いますが?」
そう言ったアリアンナに、王子はまたもやぐいっと顔を寄せて来た。
「私は第三王子ですし、竜に乗る事が出来るのならこちらに移住する事も厭いません。常々、竜に乗りたいと思っていたんです」
そう言いながらテーブルに置かれていたアリアンナの手に、自身の手を重ねた。
「そして出来れば、あなたを妻として娶りたい」
ねっとりとした視線と、重ねられている手の熱にゾクリと背筋が寒くなる。そんなアリアンナの様子に気付く事なく王子は続けた。
「あなたを見た瞬間、美しさに心を奪われてしまいました。ですからどうか、私の妻に。そしてあなたから竜騎士団長に、私も竜に乗る事を試せるように掛け合ってみて下さいませんか?」
とんでもない求婚に、アリアンナの口がパカリと開いた。
『竜に乗りたいから、この国に留まりたいから私に求婚したという事?虻蜂取らずという言葉を知らないのかしら?』
しかし、お陰で冷静になれた。
「それは無理です」
「どうして!?」
断られると思っていなかったようで、激昂したフィガロ王子がアリアンナの肩をガっと掴んだ。一瞬、痛みに顔を歪ませたが、キッパリと言った。
「あくまでもこの国の竜騎士になる方を決めるのに、メアラーガ王国の王子殿下であらせられるフィガロ殿下が試す事は出来ません。それと、私は殿下の妻になるつもりもありません」
きっぱりと断るアリアンナに、フィガロ王子は衝撃を受けた。
『この私の求婚を、いとも簡単に断るとは……』
苛立つのと同時に、本気でアリアンナを欲しいと思った。最難関の問題に立ち向かうような気分になったのだ。
「アリアンナ嬢、私は真剣です。どうか私と」
興奮のあまり、アリアンナの肩を掴んでいた手に力が入ってしまう。
「!」
指が肩に食い込む。あまりの力に肩に痛みが走った時だった。
「いいえ、おりませんが……」
「心を寄せている方は?」
「……おります」
思わず本当の事を言ってしまう。黙って聞いていた王妃とユラが「まあ」と楽しそうな声を上げた。
「その方に想いは告げたのですか?身分的に釣り合う方ですか?」
グイグイ来る感じに少し眉が下がるが、フィガロ王子の言葉は止まらない。
「やはり王女ともなると、それなりに身分がある者でなければ、周りが納得しないでしょう?」
「それはないと思いますが」
そう答えたアリアンナが王妃の顔を見ると、笑みを浮かべながら小さく頷いた。ここにはいないが、国王だって王太子だってそんな事は気にしないと言ってくれるだろう。どうもフィガロ王子とは感覚的に合わないと感じたアリアンナは、これ以上会話を続けたくないと思ってしまう。だが、王子の方はますます調子付く。
「私はどうです?同じ歳だし、竜が好きな者同士、話が合うと思いませんか?」
独りよがりな王子の発言にアリアンナが困惑し始めると、見兼ねた王妃とユラが助け船を出した。
「フィガロ殿下は、アリアンナを見初めて下さったのかしら?」
王妃が問うと、王子は大きく頷いた。
「ええ、とても美しい上に、学力も兼ね備えている。とても素晴らしい。それに、宝石のような瞳の青。彼女であれば、王子である私とお似合いではないでしょうか?」
話しながらもアリアンナをじっと見つめるフィガロ王子の視線に、なんだか寒気がして思わず目を伏せる。
「まあ、大変!うちの息子もうかうかしていられないわ。もっと発破をかけてやるべきかしら?」
ユラがわざとらしく驚いて見せると、王妃も便乗した。
「ふふ、ユラったら。殿下、アリアンナにはライバルが大勢おりますよ。それに……親バカと言われるでしょうが、アリアンナを他国に嫁がせるつもりはありませんの。国王と王太子である息子が目に入れても痛くない程溺愛しておりますので。ふふ、それに……仮に他国へ嫁がせるなんて事をしたら、竜たちが暴れ出してしまいそうですもの」
遠回しだがはっきりと拒絶の意思を示した王妃に、フィガロ王子の顔が引きつった。
「竜が……ですか?」
「ええ、どんなに遠い異国だろうが、きっと取り返しに行くでしょうね」
「はは、流石に竜には勝てそうもありませんね。しかし……そんなに竜と仲が良いとは驚きです」
王子が肩を落としたように見えた。申し訳ないとは思いながらも、これで少し静かになるだろうと思ったアリアンナだが、どうやらその考えは甘かったようだった。
「そう言えば、若い竜が数頭入ったそうですね」
「え?」
若い竜たちの事は、王城内でしか知られてはいないはずなのだ。何処から漏れたのかはすぐにわかった。
「ピア嬢から聞きたのですね?」
すると、「ええ」と素直に答える。そんなフィガロ王子の返答に、王妃とユラも溜息を吐いた。
『いくら長年の友好国だからと言って、軍事の内容でもある話を他国の王族に言うなんて』
アリアンナはピアをチラリと見たが、本人には自覚はないようだ。溜息をついたアリアンナは、下手に嘘を吐く訳にもいかず話し出した。
「ええ、おります。銀の竜を始め、竜たちに守られておりますわ」
その瞬間、王子がニヤリとした。
「その竜たちはもう乗り手が決まっているのですか?」
「……いいえ」
「では、私でも選ばれれば、乗る事が出来るかもしれないと言う事ですよね」
突拍子もない王子の発言に、アリアンナだけでなく王妃もユラも驚きを隠せない。
「あの……殿下はそもそもこの国も方ではありませんから、試す事自体出来ないと思いますが?」
そう言ったアリアンナに、王子はまたもやぐいっと顔を寄せて来た。
「私は第三王子ですし、竜に乗る事が出来るのならこちらに移住する事も厭いません。常々、竜に乗りたいと思っていたんです」
そう言いながらテーブルに置かれていたアリアンナの手に、自身の手を重ねた。
「そして出来れば、あなたを妻として娶りたい」
ねっとりとした視線と、重ねられている手の熱にゾクリと背筋が寒くなる。そんなアリアンナの様子に気付く事なく王子は続けた。
「あなたを見た瞬間、美しさに心を奪われてしまいました。ですからどうか、私の妻に。そしてあなたから竜騎士団長に、私も竜に乗る事を試せるように掛け合ってみて下さいませんか?」
とんでもない求婚に、アリアンナの口がパカリと開いた。
『竜に乗りたいから、この国に留まりたいから私に求婚したという事?虻蜂取らずという言葉を知らないのかしら?』
しかし、お陰で冷静になれた。
「それは無理です」
「どうして!?」
断られると思っていなかったようで、激昂したフィガロ王子がアリアンナの肩をガっと掴んだ。一瞬、痛みに顔を歪ませたが、キッパリと言った。
「あくまでもこの国の竜騎士になる方を決めるのに、メアラーガ王国の王子殿下であらせられるフィガロ殿下が試す事は出来ません。それと、私は殿下の妻になるつもりもありません」
きっぱりと断るアリアンナに、フィガロ王子は衝撃を受けた。
『この私の求婚を、いとも簡単に断るとは……』
苛立つのと同時に、本気でアリアンナを欲しいと思った。最難関の問題に立ち向かうような気分になったのだ。
「アリアンナ嬢、私は真剣です。どうか私と」
興奮のあまり、アリアンナの肩を掴んでいた手に力が入ってしまう。
「!」
指が肩に食い込む。あまりの力に肩に痛みが走った時だった。
33
あなたにおすすめの小説
【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。
大森 樹
恋愛
「君だけを愛している」
「サム、もちろん私も愛しているわ」
伯爵令嬢のリリー・スティアートは八年前からずっと恋焦がれていた騎士サムの甘い言葉を聞いていた。そう……『私でない女性』に対して言っているのを。
告白もしていないのに振られた私は、ショックで泣いていると喧嘩ばかりしている大嫌いな幼馴染の魔法使いアイザックに見つかってしまう。
泣いていることを揶揄われると思いきや、なんだか急に優しくなって気持ち悪い。
リリーとアイザックの関係はどう変わっていくのか?そしてなにやら、リリーは誰かに狙われているようで……一体それは誰なのか?なぜ狙われなければならないのか。
どんな形であれハッピーエンド+完結保証します。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)
モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。
そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!?
「わん!」(なんでよ!)
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる