笑い方を忘れた令嬢

Blue

文字の大きさ
58 / 71

試す

しおりを挟む
 フィガロ王子の背後から殺気にも似た圧を感じた。王子が視線を向けると、まるで瞳の中に剣を宿しているような、鋭く銀の瞳を光らせた紺色の騎士服の男性が大股でこちらに向かってやって来た。
「フィガロ殿下。今すぐ、私の娘から手をどけて下さい。でなければ、彼に力づくで剥がしてもらいますよ」
そう言った王妃の表情はあくまでもにこやかだ。だが、こちらも言い知れぬ圧を感じる。二人の威圧に耐えきれなくなったフィガロ王子は「申し訳ない」と小さく呟いてアリアンナの肩から手をどけた。

「アンナ、大丈夫?」
王妃がアリアンナの肩を見ると、うっすらと赤く跡になっている。
「ああ、赤くなってしまったじゃない」
眉が下がる王妃に、アリアンナは笑みを浮かべて答えた。
「これくらいすぐに消えるわ。大丈夫だからあまり事を大きくしないで」

「アンナ」
アリアンナのすぐ横にやって来たジルヴァーノが跪く。
「ジル、いらしたのですね」
「はい……申し訳ありません。私がもう少し早く来ていれば……」
赤くなった肩を見ながら、眉間に皺を寄せるジルヴァーノにアリアンナは笑いかけた。
「ふふ、ほんの少し赤くなっただけです。ジルは大袈裟です」
「しかし……アンナの美しい肩が」
先程から注目を浴びているアリアンナ。ジルヴァーノとのやり取りも勿論、ここにいる全ての人が見ていた。

「ジルヴァーノ……いつの間にアリアンナ様を愛称でお呼びするように?」
ニヤニヤした顔になるユラ。王妃も先程の威圧が嘘のようにニコニコしている。
「家族以外でアンナと呼ぶことを許したのは、ジルヴァーノが初めてね」
途端に、周囲が色めき立つ。
「え?そういう事ですの?」
「え?あちらのピア嬢でしたかしら?あの方が婚約者では?」
「それはあくまでも噂だと聞きましたけれど」
「では、やはり?」

 そんな中、ジルヴァーノはフィガロ王子の前に立ち騎士の礼をとった。
「フィガロ殿下」
「なんです?」
こちらは思う通りに事が進まず、すっかり不機嫌になっている。ジルヴァーノの顔を見るどころか、あさっての方向に顔を向けたまま返事をする。しかし、ジルヴァーノは気にせず話し出した。
「先程、話が少し聞こえてきまして。私は竜騎士団の団長を務めております、ジルヴァーノ・ロクシードと申します」
彼が名乗った途端、フィガロ王子がグルンと彼をの顔を見た。
「貴殿が団長だったのですか?ならば話は早い。私も竜に乗る事を了承してくれませんか?」
『なんて事だ。こんな所にチャンスが転がっていたのか。やはり私は王になる運を持っている』
思わずにんまりしてしまう王子。そんな王子の表情を、ジルヴァーノが見逃すはずはない。しかし、彼はそのまま話を続けた。

「殿下は竜がお好きなのですか?」
「ええ、ずっと乗ってみたいと思っていたのです」
『王になる為に必要なんですよ』
頭の中ではそう答えながら尚もニヤリとする王子に、ジルヴァーノの銀の瞳が怪しく光る。
「わかりました。ですが、王族であっても、他国の方を気軽に竜舎にお連れする訳にはまいりません。ですので、銀の竜をここに呼ぶ事にしましょう。銀の竜が殿下を認めるのであれば、竜騎士候補として竜に乗る事を許可いたしましょう」
ジルヴァーノの言葉に、フィガロ王子の目が爛々とした。
「本当ですか!?」
「ええ、勿論です。ただし、認められなかった場合は即刻諦めて頂きます。よろしいですね」
「わかりました」
『よし、乗り手にさえなってしまえば、そのままメアラーガに連れ帰ってしまえばいい』
王冠が自分の頭の上で輝いている姿を想像して、フィガロ王子はニヤニヤする一方だった。ジルヴァーノが今度はユラの方に向き直る。
「では。母上、今からロワをここに呼びます。ご婦人方を屋敷の中へ案内して頂けますか?」
息子の願いを聞いたユラが、ニッコリと微笑んだ。
「ええ、わかったわ。皆様、そう言う事ですので続きは中で。よろしかったら庭が良く見える部屋で竜を眺めながら、お茶の続きをするなんて如何です?」

意外にも参加者全員が興奮気味に頷いた。
「私、一度竜を見てみたかったんですの。空を飛ぶ姿は何度か拝見した事があるのですけれど、近くで見た事はなかったので」
「私もです。銀の竜はとても美しいと聞いたことがありますの。楽しみですわ」
「では、皆様。中の方へどうぞ」
ユラの案内で、ぞろぞろと皆が中へ入って行く。
「ピア。君もだ」
ちゃっかりフィガロ王子と並んでいたピアに、ジルヴァーノが低い声音で言った。ピアはムッとした顔で一瞬アリアンナを睨んだが、口を尖らせながら渋々屋敷へと入って行った。

皆が屋敷に入ると、ジルヴァーノはフィガロ王子に向き直った。
「では、さっそく呼びましょう」
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました

音芽 心
恋愛
伯爵令嬢アイリスは、幼い頃から妹のメアリーと比較され、家族の愛を知らずに生きてきた。唯一幸せだった時間は、婚約者のカルヴィンと過ごしている間だけ。 だがある日、カルヴィンから唐突に婚約破棄を言い渡される。どうやらカルヴィンは、アイリスの知らない間にメアリーと恋仲になっていたらしい。 何もかもが嫌になり、家を抜け出して酒屋でヤケ酒をしていた時、ある男に声を掛けられる。酔っ払っていたアイリスは、その男が誰かもわからぬまま酒を飲み交わしたのだった。 その翌日、目を覚ましたアイリスは見知らぬベッドにいた。おそるおそる隣を見ると、そこにはなんと「黒薔薇公爵」と呼ばれ恐れられている男が寝ていて……!? *** 皆さんの♡や📣、そしてお気に入り登録、大変励みになっております! 楽しく執筆活動ができているのは皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

処理中です...