笑い方を忘れた令嬢

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 フィガロ王子の背後から殺気にも似た圧を感じた。王子が視線を向けると、まるで瞳の中に剣を宿しているような、鋭く銀の瞳を光らせた紺色の騎士服の男性が大股でこちらに向かってやって来た。
「フィガロ殿下。今すぐ、私の娘から手をどけて下さい。でなければ、彼に力づくで剥がしてもらいますよ」
そう言った王妃の表情はあくまでもにこやかだ。だが、こちらも言い知れぬ圧を感じる。二人の威圧に耐えきれなくなったフィガロ王子は「申し訳ない」と小さく呟いてアリアンナの肩から手をどけた。

「アンナ、大丈夫?」
王妃がアリアンナの肩を見ると、うっすらと赤く跡になっている。
「ああ、赤くなってしまったじゃない」
眉が下がる王妃に、アリアンナは笑みを浮かべて答えた。
「これくらいすぐに消えるわ。大丈夫だからあまり事を大きくしないで」

「アンナ」
アリアンナのすぐ横にやって来たジルヴァーノが跪く。
「ジル、いらしたのですね」
「はい……申し訳ありません。私がもう少し早く来ていれば……」
赤くなった肩を見ながら、眉間に皺を寄せるジルヴァーノにアリアンナは笑いかけた。
「ふふ、ほんの少し赤くなっただけです。ジルは大袈裟です」
「しかし……アンナの美しい肩が」
先程から注目を浴びているアリアンナ。ジルヴァーノとのやり取りも勿論、ここにいる全ての人が見ていた。

「ジルヴァーノ……いつの間にアリアンナ様を愛称でお呼びするように?」
ニヤニヤした顔になるユラ。王妃も先程の威圧が嘘のようにニコニコしている。
「家族以外でアンナと呼ぶことを許したのは、ジルヴァーノが初めてね」
途端に、周囲が色めき立つ。
「え?そういう事ですの?」
「え?あちらのピア嬢でしたかしら?あの方が婚約者では?」
「それはあくまでも噂だと聞きましたけれど」
「では、やはり?」

 そんな中、ジルヴァーノはフィガロ王子の前に立ち騎士の礼をとった。
「フィガロ殿下」
「なんです?」
こちらは思う通りに事が進まず、すっかり不機嫌になっている。ジルヴァーノの顔を見るどころか、あさっての方向に顔を向けたまま返事をする。しかし、ジルヴァーノは気にせず話し出した。
「先程、話が少し聞こえてきまして。私は竜騎士団の団長を務めております、ジルヴァーノ・ロクシードと申します」
彼が名乗った途端、フィガロ王子がグルンと彼をの顔を見た。
「貴殿が団長だったのですか?ならば話は早い。私も竜に乗る事を了承してくれませんか?」
『なんて事だ。こんな所にチャンスが転がっていたのか。やはり私は王になる運を持っている』
思わずにんまりしてしまう王子。そんな王子の表情を、ジルヴァーノが見逃すはずはない。しかし、彼はそのまま話を続けた。

「殿下は竜がお好きなのですか?」
「ええ、ずっと乗ってみたいと思っていたのです」
『王になる為に必要なんですよ』
頭の中ではそう答えながら尚もニヤリとする王子に、ジルヴァーノの銀の瞳が怪しく光る。
「わかりました。ですが、王族であっても、他国の方を気軽に竜舎にお連れする訳にはまいりません。ですので、銀の竜をここに呼ぶ事にしましょう。銀の竜が殿下を認めるのであれば、竜騎士候補として竜に乗る事を許可いたしましょう」
ジルヴァーノの言葉に、フィガロ王子の目が爛々とした。
「本当ですか!?」
「ええ、勿論です。ただし、認められなかった場合は即刻諦めて頂きます。よろしいですね」
「わかりました」
『よし、乗り手にさえなってしまえば、そのままメアラーガに連れ帰ってしまえばいい』
王冠が自分の頭の上で輝いている姿を想像して、フィガロ王子はニヤニヤする一方だった。ジルヴァーノが今度はユラの方に向き直る。
「では。母上、今からロワをここに呼びます。ご婦人方を屋敷の中へ案内して頂けますか?」
息子の願いを聞いたユラが、ニッコリと微笑んだ。
「ええ、わかったわ。皆様、そう言う事ですので続きは中で。よろしかったら庭が良く見える部屋で竜を眺めながら、お茶の続きをするなんて如何です?」

意外にも参加者全員が興奮気味に頷いた。
「私、一度竜を見てみたかったんですの。空を飛ぶ姿は何度か拝見した事があるのですけれど、近くで見た事はなかったので」
「私もです。銀の竜はとても美しいと聞いたことがありますの。楽しみですわ」
「では、皆様。中の方へどうぞ」
ユラの案内で、ぞろぞろと皆が中へ入って行く。
「ピア。君もだ」
ちゃっかりフィガロ王子と並んでいたピアに、ジルヴァーノが低い声音で言った。ピアはムッとした顔で一瞬アリアンナを睨んだが、口を尖らせながら渋々屋敷へと入って行った。

皆が屋敷に入ると、ジルヴァーノはフィガロ王子に向き直った。
「では、さっそく呼びましょう」
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