超能力者の狩られる世界で

葉月

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一章

6話 オタクを敵に回してはいけない

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「そんな……私のお宝が……いや……いや……」

 そう言うと、敵の女は車に駆け込む。だが、車はあの戦闘の中で壊れたらしい。正確には壊した、だけど。銃弾はあちこちに当たり、人や金属バットなどとぶつかって凹んでいる。何かしらの大事な部品が壊れているのだろう。

 諦めたかと思いきや、今度は後部座席に乗り込み、何かを探していた。武器でもあるのだろうか。

「やめろ……ぐあっ」

 敵の女に触れた途端、何かしらの攻撃で手を痛めたようだ。他の人もそうだ。誰もあの人に触れない。

「ここは危険だから外に出よう」

 外の方が危険な気がするが、沙月さんに言われるがまま車外に出る。敵の女は何かが入った段ボールを抱えて立っていた。

「Defeat my enemy! Thunderbolt!」

 突然、敵の女は流暢な英語を叫んだ。その瞬間、耳元で何度も轟音がした。雷だった。幸い、誰にも当たっていないが雷はまだ落ちている。空は晴天で、超能力によるものだとよく分かる。

「逃げるぞ!」

 この隙を狙って敵は車を捨て、走って逃げようとする。そうはさせるか、と私もつい自分の正義感からか走り出してしまう。雷の中を駆け抜けるが、全く当たらない。

 ふと、敵の女の段ボールから何かが落ちたのが見えた。中には相当入っているようで、走る時に中の荷物が跳ねて落ちたのだろう。ゲームのおかげで動体視力が良い私は落ちた物がが何かも見逃さなかった。

「てめえ、待ちやがれええええ!」

 ギュン、と一気に自分が走る速度が速くなったのを感じた。あっという間に追いつき、敵の女を捕まえて後ろに引っ張り、その隙に段ボールを回収して転ばせる。我ながら神がかった行動だ。

「きゃああああああ!」

 転んだと同時にそう叫ぶ女。他の敵は我が身大事なのか誰も見向きもせず逃げた。私もそいつらまで追う気はない。目的はこいつだ。逃げないように横たわった女の上に乗り、胸倉を掴む。

「てめえふざけるな、この泥棒が!」

「何が泥棒よ! これは私の物よ!」

「お前の物じゃねえわ! オタク舐めんな! これほとんど私の物じゃねえか!」

 そう。段ボールの中身はフィギュアだったのだ。私がゲーセンで頑張って取った物。買うよりも安く手に入れるために技術を上げ、何年もかけてここまで集めて頑張った。セバスさんは一部と言っていたけど、かなり盗られていた。そりゃそうか。数が多すぎて分からなくなるか。

「その証拠がどこにあるのよ!」

「ああ、あるさ! 全キャラの名前を答えてみろ! 私は自分の物だから全て答えられるぞ! お前の物……いや、お前の宝と言うくらいなら名前くらい分かるだろ。さあ、この子の名前を答えてみやがれ!」

 そう言って、段ボールから適当にフィギュアを取り出す。女の子のフィギュアだった。私のフィギュアなので答えられるわけがない。この世界に同じ物は二つとない。

「え、ええと…」

すっと早く言え!」

「ひいっ!」

 熱が入ってついつい地元の方言が出てしまう。女は恐怖で暴れているが、私の全体重をかけているためか動くことはない。見た目的には20代だろうが、年下に怯えて情けないと私が思ってしまうほどの怯えようだ。自業自得なので同情はしないけど。

「と、盗られる方が悪いのよ!」

「盗る方が悪いわ! バカなの!? 立派な犯罪ですけど!」

「女が女の人形ばかり集めて、気持ち悪い! 男の部屋かと思ったじゃない! 男でも女でもあんな人形集めて気持ち悪い!」

「私の心に傷をつけて弱らせようとでも思ったか? 悪いけどそれは全オタクへの宣戦布告にしか聞こえねえわ! というかお前さっきお宝とか言ってたじゃねえか! あれか? 換金したらお金がたくさん手に入るという意味でのお宝か?」

「ええ、そうよ! 高く売れるのよ!」

「尚更敵だわ! 女が女の子のフィギュア集めて悪いか? 可愛いんだよ! 可愛いは正義なんだよ! 私の中ではかっこいいも正義だけどね! 人の趣味バカにすんじゃねえ! お前も好きなことの1つや2つはあるだろ。それをバカにされた気持ちを考えやがれ!」

 叫び過ぎたせいか疲れて少し息切れをする。頭に血が上り過ぎた。少し冷静にならないと。だがこいつは絶対に許さん。

「……凄っ」

 沙月さんが横でそんなことを呟いた。流石にここまで言い争ったのは人生で初めてだ。女の方は観念したのか項垂れて涙目になっている。

「とりあえず、お疲れ様。怪我ない?」

「全くの無傷でございます」

「ふふっ、なんで急に敬語なのさ。あ、終わったー?」

「全員捕らえたよ。沙月ちゃんも人使いが荒いんだから……本日2度目で疲れたよ」

 アルフさんたちは敵を追っていたらしい。他の仲間が敵を連れて戻ってきていた。人数を数えると敵の数はちゃんと合計20人いる。

「こうでもしないと被害拡大でもっとややこしいことになっていたよ」

「紅の月のやつらはクリスマス気分なのかねえ。どこも大騒ぎで大変だったよ」

「死者はいないから良しとしよう。物はとんでもなく壊れたけどね」

「今日だけで被害総額、数億はいってるだろうねー」

 アニメの描写から被害総額を出してみたというのがあるが、現実世界でもそれだけの金額になるとは……超能力って怖い。この車も廃車だろうから、大きさ的にも6台で1000万円くらいはいっていそうだ。

「はい、これが仕事だよ」

「え?」

「群青隊の仕事だよ。今回は一例だけど、こんなこともするね。他にも捕獲部隊と紅の月の争いを止めに入ったりーー」

「ってことは、命懸けなのでは……?」

「そうだね。こんな問題に首をつっこんだら命懸けになるよ。まあでも戦闘に強制的に参加させたりはしないから、嫌ならやらなくていいからね。私がいるからそう簡単には死なないだろうけど。他にも安全な仕事はあるし」

 流石に命懸けの仕事は遠慮しておきたい。というか今日も命懸けだったと思うのだが、かなり私やばかったのでは?

「命懸けって言っても、今まで群青隊の皆は誰も死んでないからねー。沙月ちゃんのお陰だよ」

「えっと……大声で言えないですけど、超能力ですか?」

「そうだよ。未来視って言うやつ。まあ、この辺はカメラとか人はいないだろうけどね」

 一応、小声で会話をする。確かに周辺の人気はないが、誰が聞いているかは分からないからね。

「何で……どうしてなのよ……!」

 車に乗せられていくあの敵の女は泣いていた。知るか、自業自得だと心の中で思う。

「あの人に相当な恨みがあるようだけど、どうする?」

「徹底的に懲らしめてください。できれば私自ら殴りたいです。後味悪そうですし犯罪なんでしませんけど」

「把握したよ」

 そしてここに来たときに乗ったリムジンにまた乗る。今度はアルフさんも乗ってくる。敵の車が廃車と思われるほどの損傷なのに、こちらが無傷なのが不思議だ。どうやら帰るようだ。

「ところで、あの人たちはどうなるんですか?」

「敵の拠点を聞き出したり、仲間に入る交渉をしたり……今のところ支部は見つかっても本拠地は見つからないし、居場所だけっていうやつは戦闘に参加しないから加わった仲間も全くいないねー」

 アルフさんはやれやれと言った様子で話す。様子から察するに成果はあまりないようだ。

「その後はまあ、仕事させてるよ。生活は刑務所に近いかな? まあでも、捕獲部隊に渡すよりはましだよ。何されるか分からないし。空間操作で別の空間にいるからこっちに影響を及ぼすことはないしね。うちにいる専門家による更生とかも試してるけど、成果はあまりなし」

「今のところ成果があるのは被害を抑える活動だね。沙月ちゃんのおけげで発生場所と時間、被害者は誰か分かるし」

「いくつかの可能性の未来があったりするし、変わる未来もあるから絶対ではないけどね」

 それでも未来視は間違いなく助かる。被害を抑えるだけでも十分な功績だろう。

「未来視の話はまた今度詳しくしようか。光にも色々聞きたいことはあるし」

「ぜひ聞かせてくださいね」

「もっちろん! あ、そうだ。一応、盗んだ物は取り返したけど足りない物とかある?」

「まだ盗まれたものの全てが何か把握していないんで何とも言えないんですけど……」

「よし。じゃあ急いで戻ろう!」

「承知しました」

 リムジンは少しスピードを上げて街中を走り始め、何事もなく帰路についた。
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