超能力者の狩られる世界で

葉月

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一章

5話 一難去ったのにまた一難に飛び込む

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「こっち来て」

 そう沙月さんに言われて来たのはいかにも研究所らしい部屋。ここで検査をするのだろう。

「沙月ちゃんは科学の天才だからねえ」

 あの時私を助けてくれた男性が私の後ろから顔を出してそう話す。……助けてくれたでいいのだろうか。だから初めて会った時から白衣を着ているのだろうか。……いや、いくら科学者でも外出時までは着ないと思うのだが。

「あ、俺の名前はアルフ・エヴァンズ、23歳。アルフって呼んで。よろしく!」

「よろしくお願いします、アルフさん」

「さん付けか……」

 何故か落胆したようにアルフさんは言う。流石に7歳も年上の人を呼び捨てにはできないです。

「科学の天才でも代わりに他は全然ダメだけどな。5段階評価で国語1、数学2……」

「渚、何故知ってる!?」

 少し聞いただけでも、その成績。いかに酷いか想像できる。

「セバスさんから聞いた。物理ができて何故数学ができないんだ。……まあ、国語力不足だろうけどな」

 数学は文章問題になると国語力が必要になるからだろう。でも物理も必要な気がするのだが……それは好きなことと嫌いなことの差だろうか。

「セバス……セバスチャンで呼ぶよ!?」

「私は構いません。セバスチャンが正しい名前ですから。愛称でもどちらでも構いません」

「ぐぬぬぬ……」

 全く仕返しになっていない、とつっこみたくなるのを堪える。

 沙月さんってバカと天才のちょうどど真ん中っていう感じがする。それって普通じゃね? とも言われそうだが、そうではない。だが、そんな気がするのだ。

「と、とりあえず検査をしよう、うん。採血するね。どっちでもいいから腕出して。あ、私採血できる資格持ってるから安心してね」

「検査というのは遺伝子検査か何かですか?」

 そう言いながら左腕を出す。沙月さんの手つきの良さからすると本当に資格を持っているようだ。

 採血できる資格となると看護師とか医師とか臨床検査技師……だっけ? とにかくまあその辺りが思いつく。だが、どれも年齢制限は無かったとしても18歳では取れないと思うのだけれど……この世界特有の資格だろうか。

「凄いね、正解だよ。理由は分からないけど、超能力者は超能力を持った途端遺伝子に特有の変化が起きるの。ただ、例外はあるけどね」

「例外ですか?」

「例外は私だよ。私も超能力を持ってるんだけど、何度この検査をやっても引っかからない。国が認めてる他の会社の検査も全く引っかからない。私以外にこの現象が起きてる人っていないんだよね。当然、原因は不明」

 意外なことに沙月さんも超能力を持っていた。天才なのは能力のおかげだったりするのだろうか。

「天才と超能力は関係ありそうでないんだよね。むしろ遺伝じゃない? 沙月ちゃんのお父さんも科学の天才だったことで有名だし」

 アルフさんがそう言う。沙月さんのお父さんも天才だったのか。ここで1つ引っかかった。

「だった?」

「お父さんは私が小さい頃に紅の月に殺されたよ。お金が盗まれたからそれ目当てだろうね」

「あ……それはすみません」

「いいよいいよ。実感無いし。お父さんの顔なんて全く覚えてないし、お母さんも私を産んで亡くなったっていうし。ネットを見れば写真はあるけど、家族の残ってる写真は親戚も含めて家ごと燃やされて全部なくなったし」

 思ったより壮絶だった。有名な財閥の人間ということは命もお金も狙われてしまうということだ。……りょ…………て…………った……け。……あれ、さっきのノイズみたいなのは何だったのだろうか。まあいいか。

「ありがとうね。結果は数時間で出るから」

 いつの間にか採血は終わったようで、腕には小さな絆創膏が貼られていた

「数時間ですか?少なくとも1週間くらいはかかるかと思ってました」

「1週間ってかなり遅い方だよ。それくらいあればかなり細かいことが分かるよ。特に能力者かどうか調べることにはどこも力入れてるから安くて早いし」

 やはりこの世界は私が元いた世界よりかなり進歩しているらしい。西暦は同じだけど、基準がズレているせいで実際に経過している年月がズレてたりするのだろうか。

「思ったけど、採血慣れてる?」

「はい。言うほど病弱ではないですが、体が弱くてよく採血してます。大抵の原因が持病ですけど」

「なるほど。その歳で偉いなあ……」

「お前は採血を嫌いすぎだ」

 後ろでセバスさんがうんうんと頷く。様子からして今まで沙月さんの採血に相当苦労しているようだ。……本当に財閥の社長?

「さて、光の歓迎会も含めてクリスマスの準備しようか! 光、何かやりたいこととかある?」

 あまりにもドタバタしすぎていて忘れていたが、そう言えば今日はクリスマスだ。って、この世界にもクリスマスの文化があるのか。

「あのー……可能でしたら群青隊のお仕事の様子を見学しよう。と思ってまして……準備忙しいですし、難しいですよね」

「あ、ちょうど良かった。よし、じゃあ群青隊のお仕事見学しますか! 車には私とセバスと光。セバス、運転手は……分かってるね?」

「承知致しました」

 さっきの話だけでは私だったら全く承知できないのですが。何故分かるんだろう。沙月さんが幼い頃から一緒だったりするのかな。

「えっ、沙月ちゃんまだ仕事あるの?」

「面倒なことに、あるんですわー。まー、適当に選んでおいて」

「予定変わるのに雑すぎて俺涙出ちゃう……」

 アルフさんのそんな言葉を無視して沙月さんはノリノリだ。……なんかアルフさんがかわいそうに思えてきた。上司がしっかりしていないと部下は大変なんだなと学習した。

「よし。行こう、光」

 沙月さんに連れられて入ってきた時と同じ扉を開ける。すると目の前にはあの時のリムジンがなく、全く別の場所に出ていた。どこだここ。マンション?

「目が点になってるねえ。これも空間操作の力だよ。ここからの方がいいかなと思って」

「超能力って便利……」

「はは、まあね。この世界じゃ邪魔者扱いだけどね。変な話だよ」

 そう笑いながら言う沙月さんの顔は暗かった。そりゃそうだよな。能力者であることだけで生きにくいのだから。

「でも矛盾があるんだよね。人を殺すから余計に恐れられてるのにどうしてテロとかして印象を悪化させてるんだろう。そこが分からない」

 言われてみればそうだ。何のためにテロをやっているか分からない。逆に能力者に対する対応を強化して現状を悪化させるだけだ。

「紅の月はやり方を間違えているような気がします。多分、目的は私たちと近いとは思うんですけど」

「あまり詳しいことは分かってないけど、とにかくどっちもやってることはダメだね。こんな活動もコソコソしないとできないのが悲しいけど」

 そんなことを話していたら駐車場に着いたらしい。あの時と同じようなリムジンに乗り、車が動き出す。

「あの、どこへ行くんですか?」

「んー? その辺」

「その辺って……」

 その辺ってどこですか。ドライブか何かですか……?

「まあ、後数分で分かるよ。そこ右に曲がって」

 車は沙月さんの指示通りに右に曲がり、細い路地へと入っていった。

「そこ左」

「左」

「右」

 そんな沙月さんの指示のもと、リムジンは細い路地や大通りを繰り返して走っていく。

 そこで初めて気が付いた。

「……追われてる?」

さっきから車が後ろにずっと付いてきている。しかも、黒塗り。ど定番じゃねえか。いかにも怪しいだろ。
 バレるの前提か? と思うくらいだ。こっそり追っているようにも感じない。

「正解。よく分かったね。もうすぐだから。あ、そこ左」

 また大通りから細い路地へと入り、そのまま直進していく。車内は不気味なほど静まり返った。まるで嵐の前の静けさだ。

「お嬢様。囲まれました。如何致しましょう」

 気付けば、周りは車で囲まれて四面楚歌だ。車から出てきた人からは明らかに殺気が漂っている。間違いなく紅の月だ。

「応戦よ。……20人か。それくらいなら何とかできる」

 沙月さんの言葉を聞いてしセバスさんと運転手の人がやる気満々なようですけど、20対2ですよ? 全員超能力者ですよ? 無理だと思います。

 ……というか、沙月さんの雰囲気がまた変わった気がする。

「光は中にいて。大丈夫だから」

 不思議とその言葉は信じられた。けど、これは怖い。本日2度目のテロリストとの遭遇です。普通なら有り得ない。

「死ね!」

 銃声が鳴り響く。超能力というのも目の当たりにした。何も無いところから火が出ている。車に引火すれば辺り一帯は大惨事となってしまうだろう。

「つ、強い……」

 2人ともとてつもなく強かった。特にセバスさんが強い。

 敵がナイフを持って一直線に首を狙う。それを紙一重で避け、敵の手を掴んで背負い投げが入った。
 その隙を狙うように後ろから火の剣を振ったが敵に背を向けたまま腹を蹴り、敵は吹っ飛んだ。強い、強すぎる。

「くそっ、なんだこいつら!」

 あっという間に6対2。数だけはまだ敵の方が有利だが、明らかにこちらの方が強い。
 ほとんど全員が超能力を使おうとする前に倒されているように見える。手も足も出ていない。

「逃すなよ」

 そう沙月さんの声が横から聞こえると、加勢が現れる。よく見ると、私たちの味方だった。

 今度は逆に敵が囲まれ、奴らにもう逃げ場はなかった。
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