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第1章 始まり
第5話ー② 夢
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今日は奏多とのデートの日。
俺は自室のクローゼットの中とにらめっこをしながら、今日着ていく服を悩んでいた。
「同じような服……というかスーツしかないな」
施設に来るとき、おしゃれな洋服の一着でも持ってくればよかったと後悔しつつ、俺はいつものカジュアルなスーツを着て奏多のもとへ向かうことにした。
着る服を悩んでいる間にかなり時間が経過していたようで、待ち合わせの時間ぎりぎりに自室を出る羽目になってしまった。
結局、良い服は見つからなかったが、スーツでデートに行くって言うのもなかなか斬新かもしれないな。
そんなことを思いつつ、廊下を歩いていると、正面からキリヤが歩いて来るのが見えた。
キリヤは冷たい視線で俺を睨み、何も言わずにそのまま通り過ぎる。
「キリヤ、おはよう」
俺は通り過ぎたキリヤに声を掛けてみたが、それから何も返ってくることはなくキリヤの姿は見えなくなった。
「やっぱり俺、キリヤに嫌われているのかな……はあ」
俺ってキリヤに嫌われるようなこと、何かしたっけ……。
思い当たる節は……ないよな?
しかしよく考えたら、初日からこんなものだったかもしれない。初めから俺のことを毛嫌いしているように感じていたし。
俺はキリヤが去った廊下をボーっと見つめていた。
「やばい! 時間が……!」
俺は奏多との集合時間が迫っていることに気が付く。
そして俺は急いでゲートへ向かった。
エントランスゲートに着くと、奏多が黒いリムジンの前で待っていた。
神宮司家の自家用車なんだろうか。やはりお金持ちのお嬢様は、乗るものも違うな……。
俺がそんなことを思っていると、奏多は俺の姿を見つけて、手を振っていた。
「先生、おはようございます!」
「ああ。おはよう!」
真っ白のワンピースに身を包み、軽くお化粧されたその顔は奏多の美しさがより一層際立っているようだった。明らかにいつもとは違う奏多に、俺は思わず見とれてしまう。
「先生、何か?」
「いや。奏多が綺麗だなと思ってな」
「ふふふ。ありがとうございます。惚れちゃいましたか?」
そう言って、いたずらに笑う奏多。
「ふざけてないで、行くぞ!」
俺は恥ずかしくなって、目そらした。
「先生、照れていますね! そういうかわいい反応も私は嫌いじゃないですよ。……じゃあいきましょうか!」
「ああ。」
そして俺たちは奏多の後ろのある黒いリムジンに乗り込んだのだった。
車の中で俺と奏多はいろんな話をしていた。
最近、施設であったことや奏多の家のことなど、他愛ない話ばかりだった。
「先生はどんな学生時代を贈られていたのですか?」
話が一区切りしたところに、奏多が唐突に俺に問う。
「前に話した通り、ずっと施設に……」
「あ、違うんです。施設に入る前の学生時代です! 中学生とか高校生とか!」
「そうか……。そんなに面白いことなんてなかったけど、聞きたいか?」
「すごく興味深いです!」
それから俺は学生時代のことを奏多に話した。
家族のこと、それから今はどうしているかわからない友人たちのこと。
普通すぎるその話を奏多はとても楽しそうに聞いてくれるのが、俺はとても嬉しかった。
「先生が先生であるのは、そういう学生時代があってのことなんですね」
「そうかもな」
「ふふふ。あ、先生! まもなく初めの目的地に到着しますよ」
奏多はそう言いながら、窓の外を見つめる。
そして奏多に続いて、俺も窓の外を見つめた。
窓の外には見たこともない景色が広がっていた。大きなビルが数多く立ち並び、大勢の人々がいろんな方向に向かって歩いているのが見えた。
「ここは……?」
「ふふふ。若者の街、渋谷です!」
「ここが渋谷……」
初めてみる景色に俺は目を輝かせた。
たくさんの人と大きな液晶パネル。開発中の駅ビルは期待をたくさん含んでいるようだった。
そして俺たちは車を止め、渋谷に降り立つ。
「どうですか?初めての渋谷は?」
「なんだかすごいな! 初めて見るものばかりで……」
「気に入っていただけたようで良かったです! じゃあいきましょうか」
そして俺は奏多に連れられ、渋谷の街を散策した。
最新のファッションショップや飲食店、映画館やゲームセンター。
歩く人々の瞳は、とてもキラキラと輝いており、夢のような場所だった。
「先生、ずっときょろきょろしていますね」
笑いながら、奏多は俺に言う。
それもそのはず。初めて見るものばかりで、俺の興奮は冷めなかった。
「いや! だって!! すごくないか! あのビルも、駅の周りも!! 渋谷がこんなに楽しい場所なんて、知らなかったから!」
これはいろはが行きたがるのも当然だよな!!
「あ……」
そう思ったとき、俺はいろはや他の生徒たちに申し訳なく思った。
俺だけこんなに、楽しんでいいのだろうかと……。
「どうしました、先生?」
暗い表情になったのを察してか、奏多が俺に言う。
「いや、生徒たちもずっと施設の中じゃなく、こういうところって行きたいんだろうなって思ったら、俺だけこんなに楽しんでいいのかってそう思ってさ」
「先生。今日は何も気にせず楽しんでいいんですよ。先生だって今までたくさん辛い思いをしてきたのでしょう? その分のご褒美だって思えばいいんです。先生が誰かがどうとかこうとか、考えちゃう性格だってことは承知していますけど、今は私のための時間であることを忘れないでくださいね?」
「ああ、そうだな。ありがとう、奏多」
そうだ、今日の俺は奏多とデートをするためにここにいる。つまり自分の欲求を満たすのためではないのだ。だから負い目に感じることはない……。
奏多の言葉に救われた俺は、再び渋谷を楽しんだ。
「先生、あそこにおしゃれなカフェがありますけど、ランチをしていきません?」
「おう、いいな。行こう!」
それから俺たちはおしゃれなカフェご飯を楽しんだ後、また車に乗り込んだ。
「今度はどこへ行くんだ?」
「とても興味深いところですよ。私もあまり行ったことはないのですが、たぶん楽しめると思います。渋谷とは違う魅力の場所とだけ、お伝えしておきます」
渋谷とは違う魅力……?
どういうことかと俺は考えたが、全く見当もつかなかった。
そして俺たちを乗せた車は次の目的地へ到着した。
「奏多、ここは?」
俺はその場所を見渡しながら、そう告げた。
「オタクの聖地、秋葉原です!」
ここが噂の秋葉原!?
奏多の言う通り、ここは確かに渋谷とは違う独特の魅力がある場所かもしれない。
ビルの壁にはアニメキャラのイラストが施されており、街を歩くのはアニメのTシャツを着ている人、メイド服を着ている人やアニメのグッズを袋いっぱいに入れて持っている人など。独特の空気が漂っているように感じた。
渋谷と共通することと言えば、この街にいる人たちの目も輝いていることだった。自分の好きなものに触れ、とても楽しんでいるそんな感覚だ。
「結衣も似たような目をしているな」
「そうですね! さあ、私達も見て回りましょう!」
そして俺たちは、アニメショップ巡りやメイドカフェなど、秋葉原の街を楽しんだ。
奏多は結衣から秋葉原の話を聞いていて、一度は行ってみたいと思っていたらしい。しかし一人で秋葉原に行くことが恥ずかしかったようで、俺と一緒に行こうと思ったそうだ。
「先生、お付き合いいただきありがとうございます。今度は、結衣も一緒に来られるといいですね」
「ああ、そうだな。それにみんなと一緒に東京観光ができたらいいな!」
ある程度秋葉原の街を楽しんだ俺たちは、帰路に就くことにした。
外出可能時間は8時間ほどのため、そろそろ帰宅しないといけない時間だ。
本当はもっといられたらいいなとは思うが、今回出かけられただけありがたいというものだろう。
車内で俺たちは今日一日のことを思い出していた。
「今日は本当に楽しかったな! 渋谷で飲んだ、あの、黒いプチプチの……」
「タピオカドリンクですか?」
「そう、それだ! おいしかったなあ。飲む前はこんなゲテモノって思っていたのに!」
「かえるの卵みたいじゃないかって騒いでおりましたわね! ふふふ……」
「お、おい! あれは奏多がそういったからだろう!」
「先生って何でも信じてくれるから、ついからかいたくなってしまいます!」
「それは褒めてるのか? 馬鹿にしてるのか?」
「さて、どちらでしょう!」
そう言って笑う奏多。そして俺もそんな奏多につられて笑っていた。
楽しい話に熱中していると、あっという間に車は施設へ到着していた。
奏多は車から降りると、その場で振り返り、俺の顔を見ながら微笑んだ。
「先生、今日は一日ありがとうございました! とても楽しかったです。」
そう言う奏多は、今までよりもずっと楽しそうな笑顔をしていた。
「俺のほうこそ、誘ってくれてありがとうな。すごく楽しかったよ。また行こうな。」
「ええ。私も楽しみにしております! それでは、おやすみなさい。」
そして奏多は自室へ戻っていった。
「さて、俺も帰って寝ようかな。」
それから俺はまっすぐ自室へ向かった。
俺は自室のクローゼットの中とにらめっこをしながら、今日着ていく服を悩んでいた。
「同じような服……というかスーツしかないな」
施設に来るとき、おしゃれな洋服の一着でも持ってくればよかったと後悔しつつ、俺はいつものカジュアルなスーツを着て奏多のもとへ向かうことにした。
着る服を悩んでいる間にかなり時間が経過していたようで、待ち合わせの時間ぎりぎりに自室を出る羽目になってしまった。
結局、良い服は見つからなかったが、スーツでデートに行くって言うのもなかなか斬新かもしれないな。
そんなことを思いつつ、廊下を歩いていると、正面からキリヤが歩いて来るのが見えた。
キリヤは冷たい視線で俺を睨み、何も言わずにそのまま通り過ぎる。
「キリヤ、おはよう」
俺は通り過ぎたキリヤに声を掛けてみたが、それから何も返ってくることはなくキリヤの姿は見えなくなった。
「やっぱり俺、キリヤに嫌われているのかな……はあ」
俺ってキリヤに嫌われるようなこと、何かしたっけ……。
思い当たる節は……ないよな?
しかしよく考えたら、初日からこんなものだったかもしれない。初めから俺のことを毛嫌いしているように感じていたし。
俺はキリヤが去った廊下をボーっと見つめていた。
「やばい! 時間が……!」
俺は奏多との集合時間が迫っていることに気が付く。
そして俺は急いでゲートへ向かった。
エントランスゲートに着くと、奏多が黒いリムジンの前で待っていた。
神宮司家の自家用車なんだろうか。やはりお金持ちのお嬢様は、乗るものも違うな……。
俺がそんなことを思っていると、奏多は俺の姿を見つけて、手を振っていた。
「先生、おはようございます!」
「ああ。おはよう!」
真っ白のワンピースに身を包み、軽くお化粧されたその顔は奏多の美しさがより一層際立っているようだった。明らかにいつもとは違う奏多に、俺は思わず見とれてしまう。
「先生、何か?」
「いや。奏多が綺麗だなと思ってな」
「ふふふ。ありがとうございます。惚れちゃいましたか?」
そう言って、いたずらに笑う奏多。
「ふざけてないで、行くぞ!」
俺は恥ずかしくなって、目そらした。
「先生、照れていますね! そういうかわいい反応も私は嫌いじゃないですよ。……じゃあいきましょうか!」
「ああ。」
そして俺たちは奏多の後ろのある黒いリムジンに乗り込んだのだった。
車の中で俺と奏多はいろんな話をしていた。
最近、施設であったことや奏多の家のことなど、他愛ない話ばかりだった。
「先生はどんな学生時代を贈られていたのですか?」
話が一区切りしたところに、奏多が唐突に俺に問う。
「前に話した通り、ずっと施設に……」
「あ、違うんです。施設に入る前の学生時代です! 中学生とか高校生とか!」
「そうか……。そんなに面白いことなんてなかったけど、聞きたいか?」
「すごく興味深いです!」
それから俺は学生時代のことを奏多に話した。
家族のこと、それから今はどうしているかわからない友人たちのこと。
普通すぎるその話を奏多はとても楽しそうに聞いてくれるのが、俺はとても嬉しかった。
「先生が先生であるのは、そういう学生時代があってのことなんですね」
「そうかもな」
「ふふふ。あ、先生! まもなく初めの目的地に到着しますよ」
奏多はそう言いながら、窓の外を見つめる。
そして奏多に続いて、俺も窓の外を見つめた。
窓の外には見たこともない景色が広がっていた。大きなビルが数多く立ち並び、大勢の人々がいろんな方向に向かって歩いているのが見えた。
「ここは……?」
「ふふふ。若者の街、渋谷です!」
「ここが渋谷……」
初めてみる景色に俺は目を輝かせた。
たくさんの人と大きな液晶パネル。開発中の駅ビルは期待をたくさん含んでいるようだった。
そして俺たちは車を止め、渋谷に降り立つ。
「どうですか?初めての渋谷は?」
「なんだかすごいな! 初めて見るものばかりで……」
「気に入っていただけたようで良かったです! じゃあいきましょうか」
そして俺は奏多に連れられ、渋谷の街を散策した。
最新のファッションショップや飲食店、映画館やゲームセンター。
歩く人々の瞳は、とてもキラキラと輝いており、夢のような場所だった。
「先生、ずっときょろきょろしていますね」
笑いながら、奏多は俺に言う。
それもそのはず。初めて見るものばかりで、俺の興奮は冷めなかった。
「いや! だって!! すごくないか! あのビルも、駅の周りも!! 渋谷がこんなに楽しい場所なんて、知らなかったから!」
これはいろはが行きたがるのも当然だよな!!
「あ……」
そう思ったとき、俺はいろはや他の生徒たちに申し訳なく思った。
俺だけこんなに、楽しんでいいのだろうかと……。
「どうしました、先生?」
暗い表情になったのを察してか、奏多が俺に言う。
「いや、生徒たちもずっと施設の中じゃなく、こういうところって行きたいんだろうなって思ったら、俺だけこんなに楽しんでいいのかってそう思ってさ」
「先生。今日は何も気にせず楽しんでいいんですよ。先生だって今までたくさん辛い思いをしてきたのでしょう? その分のご褒美だって思えばいいんです。先生が誰かがどうとかこうとか、考えちゃう性格だってことは承知していますけど、今は私のための時間であることを忘れないでくださいね?」
「ああ、そうだな。ありがとう、奏多」
そうだ、今日の俺は奏多とデートをするためにここにいる。つまり自分の欲求を満たすのためではないのだ。だから負い目に感じることはない……。
奏多の言葉に救われた俺は、再び渋谷を楽しんだ。
「先生、あそこにおしゃれなカフェがありますけど、ランチをしていきません?」
「おう、いいな。行こう!」
それから俺たちはおしゃれなカフェご飯を楽しんだ後、また車に乗り込んだ。
「今度はどこへ行くんだ?」
「とても興味深いところですよ。私もあまり行ったことはないのですが、たぶん楽しめると思います。渋谷とは違う魅力の場所とだけ、お伝えしておきます」
渋谷とは違う魅力……?
どういうことかと俺は考えたが、全く見当もつかなかった。
そして俺たちを乗せた車は次の目的地へ到着した。
「奏多、ここは?」
俺はその場所を見渡しながら、そう告げた。
「オタクの聖地、秋葉原です!」
ここが噂の秋葉原!?
奏多の言う通り、ここは確かに渋谷とは違う独特の魅力がある場所かもしれない。
ビルの壁にはアニメキャラのイラストが施されており、街を歩くのはアニメのTシャツを着ている人、メイド服を着ている人やアニメのグッズを袋いっぱいに入れて持っている人など。独特の空気が漂っているように感じた。
渋谷と共通することと言えば、この街にいる人たちの目も輝いていることだった。自分の好きなものに触れ、とても楽しんでいるそんな感覚だ。
「結衣も似たような目をしているな」
「そうですね! さあ、私達も見て回りましょう!」
そして俺たちは、アニメショップ巡りやメイドカフェなど、秋葉原の街を楽しんだ。
奏多は結衣から秋葉原の話を聞いていて、一度は行ってみたいと思っていたらしい。しかし一人で秋葉原に行くことが恥ずかしかったようで、俺と一緒に行こうと思ったそうだ。
「先生、お付き合いいただきありがとうございます。今度は、結衣も一緒に来られるといいですね」
「ああ、そうだな。それにみんなと一緒に東京観光ができたらいいな!」
ある程度秋葉原の街を楽しんだ俺たちは、帰路に就くことにした。
外出可能時間は8時間ほどのため、そろそろ帰宅しないといけない時間だ。
本当はもっといられたらいいなとは思うが、今回出かけられただけありがたいというものだろう。
車内で俺たちは今日一日のことを思い出していた。
「今日は本当に楽しかったな! 渋谷で飲んだ、あの、黒いプチプチの……」
「タピオカドリンクですか?」
「そう、それだ! おいしかったなあ。飲む前はこんなゲテモノって思っていたのに!」
「かえるの卵みたいじゃないかって騒いでおりましたわね! ふふふ……」
「お、おい! あれは奏多がそういったからだろう!」
「先生って何でも信じてくれるから、ついからかいたくなってしまいます!」
「それは褒めてるのか? 馬鹿にしてるのか?」
「さて、どちらでしょう!」
そう言って笑う奏多。そして俺もそんな奏多につられて笑っていた。
楽しい話に熱中していると、あっという間に車は施設へ到着していた。
奏多は車から降りると、その場で振り返り、俺の顔を見ながら微笑んだ。
「先生、今日は一日ありがとうございました! とても楽しかったです。」
そう言う奏多は、今までよりもずっと楽しそうな笑顔をしていた。
「俺のほうこそ、誘ってくれてありがとうな。すごく楽しかったよ。また行こうな。」
「ええ。私も楽しみにしております! それでは、おやすみなさい。」
そして奏多は自室へ戻っていった。
「さて、俺も帰って寝ようかな。」
それから俺はまっすぐ自室へ向かった。
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