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第2章 変動
第10話ー③ 人生の分かれ道
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翌朝。僕は奏多のバイオリンの音で目を覚ます。
いつもなら奏多の音よりも早く目覚めるけれど、今日の僕は少し寝過ごしてしまった。……たぶん昨夜のことが原因だろうけど。
僕は眠たい目をこすりながら寝間着から着替えて、部屋を出る。
「全部、夢だったとかじゃないよね」
そして僕は剛の部屋へ向かって歩く。
「やっぱり夢じゃない……」
剛の炎で焦げた床、そして炎を鎮火するために使った僕の能力の痕跡がいくつもあった。
僕は剛の部屋を見て、昨晩の一件が事実だったことを改めて実感する。
「おはよう、キリヤ。これ、どうしたの」
キリヤが剛の部屋の前にいると、真一がやってきた。
「おはよう、今日はずいぶん早起きだね」
「昨日の爆発が気になっただけ。それで?」
そして僕は真一に昨晩の出来事を伝えた。
「そっか。剛が」
昨夜の出来事を聞いても、いつもと変わらない無関心な表情の真一。
真一は剛のことなんてどうでもいいのだろうか。
僕は真一に対して、そんな不信感を覚える。
「真一は剛のこと、心配じゃないの?」
僕の問いに、真一は顔色一つ変えずに答えた。
「……大丈夫でしょ。だってキリヤもちゃんと帰ってきたんだから。剛も大丈夫だと思うけど。……じゃあ、僕は戻るよ」
そう言って真一は自室へ戻っていった。
真一は剛のことをどうでもいいと言うよりは、剛ならこの程度のことで負けないと信じているのかもしれない。まあ本当にそう思っているかどうかは、真一にしかわからないことなんだけどね。
「そっか。真一は、剛を信じて待つのか……」
僕は自分が暴走した時のことを思い出し、もしかして真一は僕の時も同じ反応だったのかなと笑いながらそう思った。
でも真一の言う通りかもしれない。確かに剛のことは心配だ。だけどきっと剛はこんなところで負けたりはしない。だから僕は剛を信じて待つだけ。それに先生だってついているんだから。
「剛、僕たちは信じて待っているからね」
そして僕は自室に戻った。
朝食を摂るために、クラスメイトたちは食堂に集まっていた。
「マリアちゃん、昨日の夜中のこと。何か知っておりますか?」
「何も……。それに先生と剛の姿が見えない。何かあったのかな……」
事実を知らないマリアたちは昨夜の爆発、そして姿の見えない先生と剛のことを心配しているようだった。
そして奏多は昨夜のことについて何も触れない僕に何かを察し、怒涛の質問攻めが始まった。
「キリヤは何か知っているのではないですか? 先生と剛はどこにいるのです? それに昨晩の爆発は?」
「わ、わかったから! ちょっと落ち着いてくれない??」
前のめりにくる奏多に恐怖に感じた僕は、あとから話そうと思っていた昨夜の出来事と今起こっている事をみんなに伝えた。
――昨夜の爆発は剛の暴走が原因で、そして先生は剛の付き添いで研究所に行っている。
僕は慎重にみんなにその事実を告げた。
「暴走……なんで剛君が?」
いろははその事実を聞いて、愕然としていた。
しかしいろはが驚くのも無理はない。僕自身もなぜ剛が暴走したのか、わからなかったから。
驚きのあまり言葉が出ず、静まり返る食堂。
するとまゆおが口を開き、黙り込むクラスメイト達に告げる。
「剛くんは、教師を目指していたんだ。だから大学受験の為にちょっと頑張りすぎたんだと思う。それがきっと原因なんじゃないかな」
「そういうことだったんだ……」
そういえば最近、剛は熱心に遅くまで勉強をしていたことを僕は思い出した。
「え!? そうだったの……アタシ、そんなこと全然気が付かなかった。毎日、一緒にいたはずなのに」
「それは僕も同じだよ。きっとここにいるみんなが同じことを思っている」
僕のその言葉に生徒全員が俯いた。
「私たちはずっとそばにいたのに、何にもしてあげられなかったんですな……」
「そう、だね」
その言葉にみんなが沈黙した。
そしてその沈黙を打ち破るようにまゆおが言う。
「剛君はみんなに何かしてほしかったわけじゃないと思う。いつも通りの毎日をとても大事にしていたから。だから剛君は今のこの状況を望んでないって思うんだ。みんなが悲しむ姿はきっと嫌だって思う人だもの」
「まゆおはなんでそんなことがわかるの……」
いろはは悲しそうな顔で、まゆおに問う。
そしてまゆおは、いろはのその言葉に笑顔で答える。
「剛君が言っていたんだ。昨日の夜、食堂で会ったときに。みんなの笑顔が、自分にとってかけがえのないものなんだって。だからその笑顔をいつまでも大切にしたいって」
「そっか、剛がそんなことをね……」
まゆおの言葉を聞いたいろはは、辛そうな顔をしながらも微笑んでいた。
「自分のせいでみんなが悲しい顔をしているなんて知ったら、きっと剛君も悲しむんじゃないかな……だから笑おう。それにきっと剛君は帰ってくる! みんなで剛君を信じて待とうよ!」
「あはは。まゆおの言う通りかもね。アタシらが信じなくてどーすんのって感じ! よし、暗い顔はなしなし! アタシたちはいつも通りに過ごそう!」
そしてみんなは頷き、いつものように朝食を摂り始めた。
先生がいないんだから、僕は自分がしっかりしなきゃって、一人でその思いを抱えていたけれど、まゆおがいてくれて助かった。
きっと僕一人じゃ、みんなの不安は取り除けなかったから。
「リーダーの座も怪しくなってきましたね」
奏多は意地悪そうな顔で僕にそう告げる。
「リーダーの座なんて……。でもまゆおならこのクラスをいい方向に導いていけそうだ」
僕はそう奏多に告げ、朝食を頂いた。
きっと剛なら大丈夫。僕は剛を信じるよ。先生が僕を信じてくれたみたいに。
そして先生と剛のいない1日が始まった。
いつもなら奏多の音よりも早く目覚めるけれど、今日の僕は少し寝過ごしてしまった。……たぶん昨夜のことが原因だろうけど。
僕は眠たい目をこすりながら寝間着から着替えて、部屋を出る。
「全部、夢だったとかじゃないよね」
そして僕は剛の部屋へ向かって歩く。
「やっぱり夢じゃない……」
剛の炎で焦げた床、そして炎を鎮火するために使った僕の能力の痕跡がいくつもあった。
僕は剛の部屋を見て、昨晩の一件が事実だったことを改めて実感する。
「おはよう、キリヤ。これ、どうしたの」
キリヤが剛の部屋の前にいると、真一がやってきた。
「おはよう、今日はずいぶん早起きだね」
「昨日の爆発が気になっただけ。それで?」
そして僕は真一に昨晩の出来事を伝えた。
「そっか。剛が」
昨夜の出来事を聞いても、いつもと変わらない無関心な表情の真一。
真一は剛のことなんてどうでもいいのだろうか。
僕は真一に対して、そんな不信感を覚える。
「真一は剛のこと、心配じゃないの?」
僕の問いに、真一は顔色一つ変えずに答えた。
「……大丈夫でしょ。だってキリヤもちゃんと帰ってきたんだから。剛も大丈夫だと思うけど。……じゃあ、僕は戻るよ」
そう言って真一は自室へ戻っていった。
真一は剛のことをどうでもいいと言うよりは、剛ならこの程度のことで負けないと信じているのかもしれない。まあ本当にそう思っているかどうかは、真一にしかわからないことなんだけどね。
「そっか。真一は、剛を信じて待つのか……」
僕は自分が暴走した時のことを思い出し、もしかして真一は僕の時も同じ反応だったのかなと笑いながらそう思った。
でも真一の言う通りかもしれない。確かに剛のことは心配だ。だけどきっと剛はこんなところで負けたりはしない。だから僕は剛を信じて待つだけ。それに先生だってついているんだから。
「剛、僕たちは信じて待っているからね」
そして僕は自室に戻った。
朝食を摂るために、クラスメイトたちは食堂に集まっていた。
「マリアちゃん、昨日の夜中のこと。何か知っておりますか?」
「何も……。それに先生と剛の姿が見えない。何かあったのかな……」
事実を知らないマリアたちは昨夜の爆発、そして姿の見えない先生と剛のことを心配しているようだった。
そして奏多は昨夜のことについて何も触れない僕に何かを察し、怒涛の質問攻めが始まった。
「キリヤは何か知っているのではないですか? 先生と剛はどこにいるのです? それに昨晩の爆発は?」
「わ、わかったから! ちょっと落ち着いてくれない??」
前のめりにくる奏多に恐怖に感じた僕は、あとから話そうと思っていた昨夜の出来事と今起こっている事をみんなに伝えた。
――昨夜の爆発は剛の暴走が原因で、そして先生は剛の付き添いで研究所に行っている。
僕は慎重にみんなにその事実を告げた。
「暴走……なんで剛君が?」
いろははその事実を聞いて、愕然としていた。
しかしいろはが驚くのも無理はない。僕自身もなぜ剛が暴走したのか、わからなかったから。
驚きのあまり言葉が出ず、静まり返る食堂。
するとまゆおが口を開き、黙り込むクラスメイト達に告げる。
「剛くんは、教師を目指していたんだ。だから大学受験の為にちょっと頑張りすぎたんだと思う。それがきっと原因なんじゃないかな」
「そういうことだったんだ……」
そういえば最近、剛は熱心に遅くまで勉強をしていたことを僕は思い出した。
「え!? そうだったの……アタシ、そんなこと全然気が付かなかった。毎日、一緒にいたはずなのに」
「それは僕も同じだよ。きっとここにいるみんなが同じことを思っている」
僕のその言葉に生徒全員が俯いた。
「私たちはずっとそばにいたのに、何にもしてあげられなかったんですな……」
「そう、だね」
その言葉にみんなが沈黙した。
そしてその沈黙を打ち破るようにまゆおが言う。
「剛君はみんなに何かしてほしかったわけじゃないと思う。いつも通りの毎日をとても大事にしていたから。だから剛君は今のこの状況を望んでないって思うんだ。みんなが悲しむ姿はきっと嫌だって思う人だもの」
「まゆおはなんでそんなことがわかるの……」
いろはは悲しそうな顔で、まゆおに問う。
そしてまゆおは、いろはのその言葉に笑顔で答える。
「剛君が言っていたんだ。昨日の夜、食堂で会ったときに。みんなの笑顔が、自分にとってかけがえのないものなんだって。だからその笑顔をいつまでも大切にしたいって」
「そっか、剛がそんなことをね……」
まゆおの言葉を聞いたいろはは、辛そうな顔をしながらも微笑んでいた。
「自分のせいでみんなが悲しい顔をしているなんて知ったら、きっと剛君も悲しむんじゃないかな……だから笑おう。それにきっと剛君は帰ってくる! みんなで剛君を信じて待とうよ!」
「あはは。まゆおの言う通りかもね。アタシらが信じなくてどーすんのって感じ! よし、暗い顔はなしなし! アタシたちはいつも通りに過ごそう!」
そしてみんなは頷き、いつものように朝食を摂り始めた。
先生がいないんだから、僕は自分がしっかりしなきゃって、一人でその思いを抱えていたけれど、まゆおがいてくれて助かった。
きっと僕一人じゃ、みんなの不安は取り除けなかったから。
「リーダーの座も怪しくなってきましたね」
奏多は意地悪そうな顔で僕にそう告げる。
「リーダーの座なんて……。でもまゆおならこのクラスをいい方向に導いていけそうだ」
僕はそう奏多に告げ、朝食を頂いた。
きっと剛なら大丈夫。僕は剛を信じるよ。先生が僕を信じてくれたみたいに。
そして先生と剛のいない1日が始まった。
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