白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第2章 変動

第10話ー⑤ 人生の分かれ道

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 食堂にて。

「あれ、先生来てないね」

 僕はいつもの席に先生が来ていないことに気が付く。

「そうなんです。もしかしたら、研究所の方と剛のことで連絡されているのか、あるいは……」

 奏多は、何かを気にしているような表情だった。

「ん? どうしたの?」

 僕はそんな奏多に尋ねてみたものの、

「いえ、何でも!」

 そう言ってその胸中を話してくれることはなかった。

「そっか」

 でも奏多が何を考えているのか、少しくらいはわかる。

 きっと研究所から戻ってきた先生の様子が少しおかしいことに気が付いているんだろうな。

 確かに研究所から戻った先生はなんだか元気のないように見えた。

 表情が暗かったり、声に覇気がなかったり……。明らかにいつもとは様子が違っていた。

 でもそれはただ疲れているだけなのかもしれないと思い、僕は先生の態度をあまり深読みしすぎないことにしている。

「じゃあ僕が、あとで先生の部屋にご飯を届けておくよ」
「お願いしますね」

 それから僕は夕食を終え、先生の食事を職員室へと運んだ。



 僕が職員室の前に着くと、部屋の明かりがついていないことに気が付く。

「あれ、先生もう寝ちゃったのかな」

 そして僕はこっそり職員室に入り、その奥にある先生の自室へ向かった。

 扉をノックするが、反応がない。

「先生? もう寝ちゃった?」

 僕が扉越しにそう伝えると、先生は静かな声で答えた。

「キリヤか」

 やっぱり声に覇気を感じない。

「先生、大丈夫……?」
「……ああ。大丈夫だよ。悪いな、心配かけて」
「何かあるなら、聞くよ」

 いつも先生に助けられてばかり僕は、少しでもいいから先生の役に立ちたいと思い、先生にそう告げた。

「ありがとう。でもほんとに大丈夫だから。今日はもう放っておいてくれないか。……ごめんな」

 覇気のない声で答える先生。

 先生は僕の助けなんて、必要としていないようだった。

「……わかった。先生のご飯、職員室に置いておくから、お腹が空いたら食べてね」

 その言葉で悲しみに暮れた僕は、職員室を後にした。

「僕じゃ、先生の助けにはなれないか……」

 職員室の外で壁にもたれかかりながら、僕はそう呟いた。

 先生は僕の命の恩人なのに、今の僕では先生の心は救えない。

「今の僕には、何ができる……」

 僕はそれを考えながら、天井を見つめた。

「そうだ。僕じゃダメでも、もしかしたら……!」

 そして僕はとある場所へ向かった。



 キリヤが出て行ったあと、俺は罪悪感に押し潰されそうになった。

「俺はキリヤの好意を踏みにじったんだな。信じるって言ったのに。俺は口だけのダメ教師だな……」

 結局、俺は自分ことしか考えていないってことか……。

 生徒のためといいつつ、自分の欲求を満たすために生徒を利用していただけなのかもしれない。

 自分の心が揺らいだだけでこんなに脆くなるなんて。

 俺も生徒たちのように成長しているかもしれないなんて、そんな思い上がりをして……

 俺自身が成長しないから、能力がいつまでたっても消失しないのかもしれないな。

「こんな自分、もう嫌だな……」

 そんなことを思っていると、部屋にノック音が響いた。

 キリヤが戻ってきたのかな……。

「キリヤ、今日はもう……」
「私です、入りますよ!」

 そして俺の言葉を聞かずに勢いよく扉を開けて、俺の部屋に入ってきた奏多。

「か、奏多!? なんで……」

 困惑した俺が奏多に問うと、奏多は怒りながら、俺に言った。

「キリヤから聞きましたよ!! やっぱり様子がおかしかったんじゃないですか!! なんで私に相談してくれないんです!」
「ちょ、ちょっと待って! 冷静になろう、奏多?」

 俺は奏多をなだめるが、奏多はそんなこと、お構いなしという感じだ。


「先生は勝手です! さんざん私たちを巻き込んでおいて、大事なことは何も言ってくれない!! 私もキリヤも先生の力になりたいのです! 私たちはみんな、先生に救われたんだから……。私はいつも先生からはもらってばかりで、こんな時くらいしか何も返せないじゃないですか!」

「奏多……」

「辛いことは一人で抱えるのではなく、分け合った方がいいと思いませんか? だから先生の抱えているものを私にも背負わせてくださいよ。私だって、先生を救いたい。このままじゃ、先生がどこかへ行ってしまいそうで、私は怖いんです……先生はずっと私の好きな先生でいてほしい」


 奏多はそれだけ言い終えると、俺の胸に額をつける。


「……そんなこと思ってくれていたんだな。ありがとう。嬉しいよ」

 そして俺は奏多に思いを打ち明けることにした。
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