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第2章 変動
第13話ー① それぞれが抱えるもの
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優香と狂司がきてから、1週間。春休みが明けて、今日から新学期が始まった。
生徒たちは朝食を摂ったあと、いつものように教室に集まってきた。
「今日からまた授業始まるのかー。ずっと休みがいいのにー」
いろはは席につくと、口をとがらせてそんなことを言っていた。
「いろはちゃん、がんばろう。ちゃんと勉強しないと、大人になったとき困っちゃうよ」
そう言ってまゆおはいろはを諭した。
「そっか。困るのはいやだから、アタシ頑張るよ!」
「うん。僕もいろはちゃんと一緒に頑張るから!」
そんな二人の微笑ましいやり取りを見た俺は、今とてもほっこりとしている。
まゆおは前向きになってきて、いろはと楽しそうに話す日が増えたように思う。
朝から生徒同士の楽しそうな姿を見られると、今日一日がなんだかいい日になりそうな気がすると俺は思ったのだった。
その後、俺は教室を一望してから今日から授業に参加する優香と狂司の方を見た。
優香と狂司は、それそれで配布されたタブレットの使い方を確認しているようだった。
「優香、狂司。大丈夫そうか?」
「はい、大丈夫です。烏丸くんはどうですか?」
優香は優しく狂司に問う。
「僕も大丈夫ですよ」
「よかったです」
そう言って、微笑む優香。
俺はここ数日で優香を見ていて、感じていることあった。それは優香は周りの生徒たちへの気配りがとても上手だということ。
きっと優香はすぐにクラスの人気者になるんだろうなと俺はそんなことを思った。
それからも俺は優香たちの行動を見ていると、二人はとても慣れた手つきでタブレットを操作しているのがわかった。
やはり若者の方が、こういう端末系には強いのかもしれないなと俺は年齢差を感じたのだった。
そして開始の鐘が鳴ると、生徒たちはそれぞれの学習ノルマに取り掛かっていった。
それから数時間後。午後の授業が始まってすぐのことだった。
「先生、終わりました!」
そう言って手を挙げる、優香。
「お! もう終わったのか? 早いな!」
「もう少し早く終わると思ったんですが、少し苦戦して時間がかかってしまいました……」
「いやいや! それでも十分早いって! じゃあ終わったら、もう自由時間だからな。それと、終了の報告はなくても大丈夫だぞ!」
「はい。わかりました!」
それから優香は荷物をまとめて、教室を出て行った。
「優香ちゃん、すごっ! めっちゃ早!」
教室を出た優香を見て、いろはが目を丸くしていた。
「優香って、優等生?」
優香が出て行った扉を見ながら、マリアはそう呟いた。
実はマリアの言う通りで、優香はここへ来る前の学校では成績優秀、スポーツ万能、そしてクラス委員に推薦されるような優等生だったようだ。
性格も温厚で誰にでも好かれる生徒だったらしいけれど、高校1年の時に何かがあって、それで能力が覚醒したんだとか……。
「……優等生、ね」
キリヤは何かを思ってか、優香の出て行った扉を見ながらそう呟いた。
「もしかしてキリヤ君。自分より優秀な優香ちゃんに嫉妬?」
いろはがいたずらにキリヤに問う。
「あはは……。いろは? もしかして、喧嘩売ってるの?」
久々に見る、キリヤの冷たい笑顔に震えるいろは。
「ご、ごめんなさい!!」
「キリヤ君、あんまりいろはちゃんをいじめないでくれない?」
そう言って、まゆおが二人の会話に割って入る。
「まゆおを怒らせると、怖そうだ。……これからは気をつけるよ!」
そして笑顔でまゆおに返すキリヤだった。
「ほら! お前ら、話してないで勉強に集中しろよー」
俺がそう言うと再び生徒たちはタブレットに向かった。
ノルマを終えて、教室を出た僕は屋上へ向かっていた。
今はもうほとんど行くことがなくなった屋上だけど、たまにこうして行きたくなる時がある。
屋上の扉を開けて、僕は適当なところに腰を下ろし、空を見上げた。
そして僕は優香のことについて考えていた。
優香が施設に来てから、1週間。僕はずっと優香の行動を見てきた。
マリアの言う通り、彼女は完璧な優等生だった。
「頭もよくて、スポーツ万能で人望もある優等生か……」
それが自然にできているのならば、みんなが言うように彼女は本当に優等生なんだと思う。
でも僕には彼女は無理に優等生を演じているように見えた。
あくまで僕の感じたことだから、彼女の本心はわからないけれど……。
だけど彼女を見ていると、なんだか胸が痛くなる時がある。
「彼女は何を求めているのだろう」
それから僕は夕食の時間まで、屋上で過ごした。
翌日。暁は生徒たちにある企画を提案した。
「よし。今日はレクリエーションをしよう!」
暁の急な提案にも関わらず、生徒たちは盛り上がった。
「今日は何すんの!?」
そう言って、いろははキラキラとした目で暁に問う。
「今日はな……鬼ごっこだ!!」
「また、身体を使う系ですか! ううう。そういう系は苦手なのですよ……」
「まあまあ。結衣、楽しくやろう」
そして結衣をマリアがなだめている横で、他の生徒たちは準備を始めていた。
「レクリエーションってなんだか小学校の行事みたいですね」
狂司は着替えながら、まゆおにそう話しかけた。
「そうだね。でも、ここのレクリエーションは他とはちょっと違うんだ」
まゆおは優しい笑顔でそう告げると、狂司は首をかしげて不思議そうな表情をする。
「他とは、違う……?」
「うん。きっと狂司くんも楽しめると思うよ」
「は、はあ」
狂司は疑問を抱いたまま、グラウンドに向かうのだった。
生徒たちは朝食を摂ったあと、いつものように教室に集まってきた。
「今日からまた授業始まるのかー。ずっと休みがいいのにー」
いろはは席につくと、口をとがらせてそんなことを言っていた。
「いろはちゃん、がんばろう。ちゃんと勉強しないと、大人になったとき困っちゃうよ」
そう言ってまゆおはいろはを諭した。
「そっか。困るのはいやだから、アタシ頑張るよ!」
「うん。僕もいろはちゃんと一緒に頑張るから!」
そんな二人の微笑ましいやり取りを見た俺は、今とてもほっこりとしている。
まゆおは前向きになってきて、いろはと楽しそうに話す日が増えたように思う。
朝から生徒同士の楽しそうな姿を見られると、今日一日がなんだかいい日になりそうな気がすると俺は思ったのだった。
その後、俺は教室を一望してから今日から授業に参加する優香と狂司の方を見た。
優香と狂司は、それそれで配布されたタブレットの使い方を確認しているようだった。
「優香、狂司。大丈夫そうか?」
「はい、大丈夫です。烏丸くんはどうですか?」
優香は優しく狂司に問う。
「僕も大丈夫ですよ」
「よかったです」
そう言って、微笑む優香。
俺はここ数日で優香を見ていて、感じていることあった。それは優香は周りの生徒たちへの気配りがとても上手だということ。
きっと優香はすぐにクラスの人気者になるんだろうなと俺はそんなことを思った。
それからも俺は優香たちの行動を見ていると、二人はとても慣れた手つきでタブレットを操作しているのがわかった。
やはり若者の方が、こういう端末系には強いのかもしれないなと俺は年齢差を感じたのだった。
そして開始の鐘が鳴ると、生徒たちはそれぞれの学習ノルマに取り掛かっていった。
それから数時間後。午後の授業が始まってすぐのことだった。
「先生、終わりました!」
そう言って手を挙げる、優香。
「お! もう終わったのか? 早いな!」
「もう少し早く終わると思ったんですが、少し苦戦して時間がかかってしまいました……」
「いやいや! それでも十分早いって! じゃあ終わったら、もう自由時間だからな。それと、終了の報告はなくても大丈夫だぞ!」
「はい。わかりました!」
それから優香は荷物をまとめて、教室を出て行った。
「優香ちゃん、すごっ! めっちゃ早!」
教室を出た優香を見て、いろはが目を丸くしていた。
「優香って、優等生?」
優香が出て行った扉を見ながら、マリアはそう呟いた。
実はマリアの言う通りで、優香はここへ来る前の学校では成績優秀、スポーツ万能、そしてクラス委員に推薦されるような優等生だったようだ。
性格も温厚で誰にでも好かれる生徒だったらしいけれど、高校1年の時に何かがあって、それで能力が覚醒したんだとか……。
「……優等生、ね」
キリヤは何かを思ってか、優香の出て行った扉を見ながらそう呟いた。
「もしかしてキリヤ君。自分より優秀な優香ちゃんに嫉妬?」
いろはがいたずらにキリヤに問う。
「あはは……。いろは? もしかして、喧嘩売ってるの?」
久々に見る、キリヤの冷たい笑顔に震えるいろは。
「ご、ごめんなさい!!」
「キリヤ君、あんまりいろはちゃんをいじめないでくれない?」
そう言って、まゆおが二人の会話に割って入る。
「まゆおを怒らせると、怖そうだ。……これからは気をつけるよ!」
そして笑顔でまゆおに返すキリヤだった。
「ほら! お前ら、話してないで勉強に集中しろよー」
俺がそう言うと再び生徒たちはタブレットに向かった。
ノルマを終えて、教室を出た僕は屋上へ向かっていた。
今はもうほとんど行くことがなくなった屋上だけど、たまにこうして行きたくなる時がある。
屋上の扉を開けて、僕は適当なところに腰を下ろし、空を見上げた。
そして僕は優香のことについて考えていた。
優香が施設に来てから、1週間。僕はずっと優香の行動を見てきた。
マリアの言う通り、彼女は完璧な優等生だった。
「頭もよくて、スポーツ万能で人望もある優等生か……」
それが自然にできているのならば、みんなが言うように彼女は本当に優等生なんだと思う。
でも僕には彼女は無理に優等生を演じているように見えた。
あくまで僕の感じたことだから、彼女の本心はわからないけれど……。
だけど彼女を見ていると、なんだか胸が痛くなる時がある。
「彼女は何を求めているのだろう」
それから僕は夕食の時間まで、屋上で過ごした。
翌日。暁は生徒たちにある企画を提案した。
「よし。今日はレクリエーションをしよう!」
暁の急な提案にも関わらず、生徒たちは盛り上がった。
「今日は何すんの!?」
そう言って、いろははキラキラとした目で暁に問う。
「今日はな……鬼ごっこだ!!」
「また、身体を使う系ですか! ううう。そういう系は苦手なのですよ……」
「まあまあ。結衣、楽しくやろう」
そして結衣をマリアがなだめている横で、他の生徒たちは準備を始めていた。
「レクリエーションってなんだか小学校の行事みたいですね」
狂司は着替えながら、まゆおにそう話しかけた。
「そうだね。でも、ここのレクリエーションは他とはちょっと違うんだ」
まゆおは優しい笑顔でそう告げると、狂司は首をかしげて不思議そうな表情をする。
「他とは、違う……?」
「うん。きっと狂司くんも楽しめると思うよ」
「は、はあ」
狂司は疑問を抱いたまま、グラウンドに向かうのだった。
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