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第4章 過去・今・未来
第26話ー① 未来へ進む路
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いろはが施設を出て、数週間が経った。
初めは元気のなかったまゆおだが、徐々に元気を取り戻しつつあった。
授業の終了間際、俺はまゆおに声を掛ける。
「まゆお、調子はどうだ?」
「はい! 今日はすごく調子がいいです! 無事にノルマも達成しましたよ! それに最近、また剣道の稽古を始めたおかげなのか、いろんなことに自信を持てるようになったんです!」
そう生き生きと話すまゆおにかつての臆病だった姿はかけらも感じなかった。
いろはがいなくなってふさぎ込んでしまうのではないかと心配したが、俺の取り越し苦労だったようだな。
「それはよかった。また今度、まゆおの剣術を見せてくれよ!」
「はい!!」
そう言って、ノルマを終えたまゆおは元気よく教室を出て行く。
そしてまゆおと反対に、元気がなくなっている生徒もいた。
「はあ」
「どうしたんだ、キリヤ? 最近、ため息が多いみたいだけど……」
「そ、そうかな……」
どうやら自覚はないようだな。
いつもなら優香の次に教室を出ていたキリヤが、最近はずっと最後まで教室にいる。
しかも授業中、かなりの回数のため息をつき、そして空を見つめている時間が多い。
「もしかして進路のことで悩んでいるのか?」
キリヤは少し黙りこんだ後、
「そうかもしれない」
と静かに答えた。
「そうか。……じゃあ今日はこの辺で終わりにしよう。この後、俺の部屋に来ないか?」
「……うん」
そうして俺たちは教室を後にした。
俺はキリヤと共に職員室へ向かって廊下を歩いていた。
いつもなら俺の部屋に行けると喜んで部屋まで向かうのに、今のキリヤは喜ぶどころか心ここにあらずと言う感じだ。
なぜキリヤはここまで悩んでいるのだろう。
進路はだいたい決まっているものだと思っていたが、違うのか……?
そんなことを思いつつ、隣を歩くキリヤを横目で見ていた。
それから職員室に着いた俺は荷物を下ろし、キリヤと自室に向かった。
「さあ、入ってくれ」
「お邪魔します」
キリヤはそう言ってから適当なところに腰を下ろし、俺は自室の椅子に腰かける。
「それで、何があった? なんでそんなに悩んでいるんだ? 研究所に行くのが嫌になったのか?」
俺の問いにキリヤは苦い表情をしながら、口を開く。
「……嫌ってわけじゃないんだ。ただ、それが正しい選択なのかなって思って……」
正しい選択……? 一体キリヤは何を言っているんだろう。
「どういうことだ?」
キリヤは膝の上に置いた両手の拳を強く握り、
「僕が研究所に行くことで悲しい思いをする人がいる。その人にそんな想いを抱かせるくらいなら、僕は無理にここを出ていかなくてもずっとここでみんなと楽しく暮らせばいいんじゃないかってそう思ったんだ」
俯きながら、そう語った。
「キリヤは本当にそれでいいのか? 後悔しないのか?」
「僕は……」
「前に言っただろう? 自分に嘘はつくなって。キリヤの本心を言ってみろ」
そしてキリヤは拳を握り、俺の顔をまっすぐに見て答える。
「僕は、研究所に行きたい……『ポイズン・アップル』の被害者をこれ以上出したくはないし、それに能力者を利用する人たちを許してはおけない! 僕は先生みたいに教師にはなれなくても、違う方法で同じ境遇の子供たちを救いたいんだ!! だから、僕は!」
「そうか。ちゃんとあるじゃないか。キリヤのやりたいこと。悩むことなんてない。自分の信じた道を進んでいけばいいんだよ」
しかし俺の言葉を聞いたキリヤは俯いてしまう。
「キリヤ?」
「でも僕は約束したんだ。ずっとそばにいるって。それなのに、僕は優香を裏切ろうとしてる。優香は変わるために頑張っているのに、僕はそんな優香をまた昔みたいに独りぼっちにしようとしているんだ」
そうか。キリヤが悩んでいる原因は優香のことだったのか。
二人で築いてきた信頼関係があって、それを壊すことが怖いとキリヤ自身も感じているんだな。
お互いが別れることを拒んでいるのにキリヤがやりたいことを取れば、別れが必要になるのか。
二人が別れずにキリヤのやりたいことをやる方法はないのか……。
そして俺はふと思いついたことをキリヤに告げてみることにした。
「なあキリヤ。優香も一緒に研究所に行くって選択肢はないのか」
「そんなことできるわけないよ……だって優香は僕より、一つ下なんだよ? 飛び級とかできない限り無理だよ」
「飛び級か……」
そうだよな。そもそも優香とキリヤは学年が違う。飛び級なんて、相当優秀じゃなきゃできるはずは……
「ああ、そうか! その手があった!!」
俺がそう言うと、キリヤは驚いた顔をしていた。
「どういうこと!?」
「要するに優香がキリヤと一緒に卒業できればいいんだろう? だったら、飛び級させればいい!」
「は!? 何言っているの? そんなことできるわけが……」
「いやいや。キリヤ。俺はお前たちの担任教師だぞ?」
はっとするキリヤ。
「そっか!! あ、でもそれって職権乱用なんじゃ……」
「いいんだよ! それにこんな時じゃないと、教師の職権が使えないだろう!!」
自分で言うのもあれだけど、日々の俺は教師らしいことができていないからな。これくらいはなんとかしてやりたいと思う。
「でも、そんな……」
「さあどうする?」
「……優香にも聞いてみないと」
そう言って、キリヤは俯く。
「そうだな」
キリヤは頷き、何かを決めると、
「……ありがとう、先生!」
そう言ってから、俺の自室を飛び出していった。
「さて。本当にできるかどうかはまだわからないからな。でも俺は俺にできる最善を尽くすだけだ」
そして俺は所長に電話をかけるのだった。
初めは元気のなかったまゆおだが、徐々に元気を取り戻しつつあった。
授業の終了間際、俺はまゆおに声を掛ける。
「まゆお、調子はどうだ?」
「はい! 今日はすごく調子がいいです! 無事にノルマも達成しましたよ! それに最近、また剣道の稽古を始めたおかげなのか、いろんなことに自信を持てるようになったんです!」
そう生き生きと話すまゆおにかつての臆病だった姿はかけらも感じなかった。
いろはがいなくなってふさぎ込んでしまうのではないかと心配したが、俺の取り越し苦労だったようだな。
「それはよかった。また今度、まゆおの剣術を見せてくれよ!」
「はい!!」
そう言って、ノルマを終えたまゆおは元気よく教室を出て行く。
そしてまゆおと反対に、元気がなくなっている生徒もいた。
「はあ」
「どうしたんだ、キリヤ? 最近、ため息が多いみたいだけど……」
「そ、そうかな……」
どうやら自覚はないようだな。
いつもなら優香の次に教室を出ていたキリヤが、最近はずっと最後まで教室にいる。
しかも授業中、かなりの回数のため息をつき、そして空を見つめている時間が多い。
「もしかして進路のことで悩んでいるのか?」
キリヤは少し黙りこんだ後、
「そうかもしれない」
と静かに答えた。
「そうか。……じゃあ今日はこの辺で終わりにしよう。この後、俺の部屋に来ないか?」
「……うん」
そうして俺たちは教室を後にした。
俺はキリヤと共に職員室へ向かって廊下を歩いていた。
いつもなら俺の部屋に行けると喜んで部屋まで向かうのに、今のキリヤは喜ぶどころか心ここにあらずと言う感じだ。
なぜキリヤはここまで悩んでいるのだろう。
進路はだいたい決まっているものだと思っていたが、違うのか……?
そんなことを思いつつ、隣を歩くキリヤを横目で見ていた。
それから職員室に着いた俺は荷物を下ろし、キリヤと自室に向かった。
「さあ、入ってくれ」
「お邪魔します」
キリヤはそう言ってから適当なところに腰を下ろし、俺は自室の椅子に腰かける。
「それで、何があった? なんでそんなに悩んでいるんだ? 研究所に行くのが嫌になったのか?」
俺の問いにキリヤは苦い表情をしながら、口を開く。
「……嫌ってわけじゃないんだ。ただ、それが正しい選択なのかなって思って……」
正しい選択……? 一体キリヤは何を言っているんだろう。
「どういうことだ?」
キリヤは膝の上に置いた両手の拳を強く握り、
「僕が研究所に行くことで悲しい思いをする人がいる。その人にそんな想いを抱かせるくらいなら、僕は無理にここを出ていかなくてもずっとここでみんなと楽しく暮らせばいいんじゃないかってそう思ったんだ」
俯きながら、そう語った。
「キリヤは本当にそれでいいのか? 後悔しないのか?」
「僕は……」
「前に言っただろう? 自分に嘘はつくなって。キリヤの本心を言ってみろ」
そしてキリヤは拳を握り、俺の顔をまっすぐに見て答える。
「僕は、研究所に行きたい……『ポイズン・アップル』の被害者をこれ以上出したくはないし、それに能力者を利用する人たちを許してはおけない! 僕は先生みたいに教師にはなれなくても、違う方法で同じ境遇の子供たちを救いたいんだ!! だから、僕は!」
「そうか。ちゃんとあるじゃないか。キリヤのやりたいこと。悩むことなんてない。自分の信じた道を進んでいけばいいんだよ」
しかし俺の言葉を聞いたキリヤは俯いてしまう。
「キリヤ?」
「でも僕は約束したんだ。ずっとそばにいるって。それなのに、僕は優香を裏切ろうとしてる。優香は変わるために頑張っているのに、僕はそんな優香をまた昔みたいに独りぼっちにしようとしているんだ」
そうか。キリヤが悩んでいる原因は優香のことだったのか。
二人で築いてきた信頼関係があって、それを壊すことが怖いとキリヤ自身も感じているんだな。
お互いが別れることを拒んでいるのにキリヤがやりたいことを取れば、別れが必要になるのか。
二人が別れずにキリヤのやりたいことをやる方法はないのか……。
そして俺はふと思いついたことをキリヤに告げてみることにした。
「なあキリヤ。優香も一緒に研究所に行くって選択肢はないのか」
「そんなことできるわけないよ……だって優香は僕より、一つ下なんだよ? 飛び級とかできない限り無理だよ」
「飛び級か……」
そうだよな。そもそも優香とキリヤは学年が違う。飛び級なんて、相当優秀じゃなきゃできるはずは……
「ああ、そうか! その手があった!!」
俺がそう言うと、キリヤは驚いた顔をしていた。
「どういうこと!?」
「要するに優香がキリヤと一緒に卒業できればいいんだろう? だったら、飛び級させればいい!」
「は!? 何言っているの? そんなことできるわけが……」
「いやいや。キリヤ。俺はお前たちの担任教師だぞ?」
はっとするキリヤ。
「そっか!! あ、でもそれって職権乱用なんじゃ……」
「いいんだよ! それにこんな時じゃないと、教師の職権が使えないだろう!!」
自分で言うのもあれだけど、日々の俺は教師らしいことができていないからな。これくらいはなんとかしてやりたいと思う。
「でも、そんな……」
「さあどうする?」
「……優香にも聞いてみないと」
そう言って、キリヤは俯く。
「そうだな」
キリヤは頷き、何かを決めると、
「……ありがとう、先生!」
そう言ってから、俺の自室を飛び出していった。
「さて。本当にできるかどうかはまだわからないからな。でも俺は俺にできる最善を尽くすだけだ」
そして俺は所長に電話をかけるのだった。
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