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第7章 それぞれのサイカイ

第52話ー② 青春

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 しおんの部屋に着いた真一は、いつものように適当なところに座った。

「それで。何があったんだ?」

 しおんは椅子に座ると、真一にそう尋ねた。

「うん。僕が2歳の時なんだけど――」

 それから真一は自分の過去をしおんに打ち明ける。

「とまあこんな感じかな」

 今まで真一は誰にも自分の過去を話してこなかった。だから自分がうまく話せたのかどうか不安に思っていた。

 こんな話を聞いて、もしかしたらしおんは僕に嫌悪感を抱くかもしれない。親戚たちみたいに疫病神って言うかもしれない。

 そうだったとしても、僕はしおんに僕の過去を聞いてほしかった。僕が初めて本気で信じたいと思ったやつだったから――。

 そう思いながら、真一はしおんの答えを待った。

「真一、お前……」

 しおんは僕にどんな言葉を掛けようとしているのだろう――そう思いながら、鼓動が早くなる真一。

「お前、そんなに辛い過去があったなんて……」

 しおんからの思いがけない言葉にきょとんとする真一。


「辛い、過去?」

「そうだろ! だって小さいときに両親が死んじまって、それから親戚の家をたらいまわしにされながら、嫌味を言われて……ようやく落ち着いて暮らせるようになったのに叔父さんも事故で亡くして」

「う、ん……」

「しかもこの施設で会ったクラスメイトの親族が両親と同じ事故で亡くなっていたとか……いろいろとありすぎだろ! お前はそんな辛いことを一人で抱えてきたんだな」

(どうしてしおんは、そんな言葉を掛けてくれるんだよ――)

「……別に。ずっとそうだったから、もう辛いとかそういう感情もわからなくなったよ」

「親戚は事故の日のことを知っていたのに、黙ったまま真一の両親を悪者扱いしていたんだよな……ひでえな。そりゃ、復讐とか見返してやるとかって思うよな」

(どうして僕の味方でいてくれるんだよ――)

「しおんは……僕に嫌悪感を抱かないの?」

「は? なんで嫌悪感なんて……むしろ違うだろ。慰めるのが普通だろ! その親戚たちがおかしい! なんで疫病神なんて――」

(どうしてそんな……。でも、僕はしおんに出会えて、本当に――)


 しおんはぶつぶつと何かを言っているようだったが、真一の耳には届かなかった。

 まさかしおんが自分のことを受け入れてくれるなんて本気で思っていなかった真一は、しおんの言葉や気持ちをとても嬉しく思っていたからだった。

「真一? どうしたんだ!! 泣いてんのか!?」
「は、はあ! そんなわけないじゃん!」

 真一はそう言ってしおんから顔をそらす。

 本当は目から温かいものが流れていることに気が付いていた。

「僕が泣くわけないだろ! 別に、しおんの言葉が嬉しかったわけじゃ……」
「ははは。そうか」
「何を勝手にわかったふりしてんの!」
「いいんだよ。今はこれで! よおし、俺はちょっとギターの練習でもするか」

 そう言ってギターを取り出して弾き始めるしおん。

「気なんて遣わなくていいのに」

 真一は小さい声でそう呟いた。その声はきっとしおんには聞こえていないだろう。

 それから真一は涙が止まるまで何もしゃべらず、しおんと共にその部屋で過ごしたのだった。



 ――数分後。

「そういえば結局どうする? 凛子のテレビの話は受けるのか?」
「……受けたい」
「じゃあ決まりだな! とりあえず先生にテレビの件を確認するか」
「うん」

 それから真一たちは職員室へと向かった。

「失礼しまーす」

 しおんはそう言いながら職員室の扉を開く。

 そして真一たちの存在に気が付いた暁は、真一たちの方に顔を向けた。

「おう。2人そろってどうしたんだ? またライブの相談か?」

 そう言って暁は笑っていた。

「違うんです。実は凛子からとある話をもらって」
「話?」

 首をかしげる暁。

「うん。僕たちに密着取材をしたいんだって」
「ほう」
「その話を受けようかって真一と話しているんですけど……」
「この施設に部外者が入ることはできないでしょ。だからどうにかできないかなって思って」
「うーん」

 暁は腕を組んで考えているようだった。

「難しい、かな」

 不安な表情でそう尋ねる真一。

「俺もその辺はわからないなあ。とりあえず所長に一回確認してみるよ。2人はどうしてもその取材を受けたいんだろう? ダメって言われてもなんとかしてみせるさ!」

 笑顔でそう告げる暁。

「ありがとうございます! やったな、真一!!」
「う、うん!」
「ああ……これからの2人の活躍が楽しみだなあ」

 しみじみとそう呟く暁。

 その言葉に驚いた真一は目を丸くして、

「そう、なの?」

 とゆっくりと暁に尋ねた。

「ああ! だって自分の担任していた生徒が有名になるかもしれないんだぞ? そして世界一のミュージシャンになったら、俺はもう嬉しくて嬉しくて……それを考えただけで最高に幸せだよなあ。応援してるからな、真一もしおんも!」
「だってさ」

 そう言いながら、しおんは真一の顔を覗き込む。

「ふ、ふうん。まあすぐに有名になるから待っていてよ」
「おう!」

 それから真一たちは職員室を出た。

「よっしゃ!! じゃあやるか!」
「そうだね」

 そして真一たちは今日も自分たちの歌を歌った。
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