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第8章 猫と娘と生徒たち

第62話ー⑦ しおんの帰省

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 ――イベント終了後。

「兄さん! 僕、すごく楽しかった!! 今日はありがとうございました!」
「いや、それは俺の方こそ。『ASTERアスター』の皆さんとやれたことは、とても貴重な経験でした。本当にありがとうございました!」

 しおんはそう言って、頭を下げた。

「今度は2人のステージ、見せてくれよ?」

 哲郎はそう言いながら、しおんと肩を組んだ。

「あ、はい!!」
「僕も見て見たいなあ。配信されてる動画をもう何回も見てるけど、ボーカルの人すごく歌うまいよねー。生で聞いてみたいよお」

 陽太はニコニコと微笑みながらそう言った。

「うちのボーカルに伝えておきます!」
「……ちっ」

 今、舌打ちされた!? やっぱり俺が出演したからか――

 そんなことを思い、不安な表情をするしおん。

「おい、星司~。あんまり後輩、いじめんなよ?」
「別にいじめているつもりはない」

 哲郎の言葉に「ふん」っと言ってそっぽを向く星司。

「ねえねえ、星司はしおん君に何かないの?」

 陽太が星司にそう言うと、

「ない!!」と言って、一人でどこかへ行ってしまった。

 やっぱり俺、あの人に何かしたのか――?

 そう思いながら、星司の背中を見つめるしおん。

「あははは。ごめんね、兄さん。星司って本当は優しい人なんだけど、今はちょっと人見知りしているのかもしれない」
「お、おう……」

 たぶん違う気がするけど、あやめがそう思っているのなら、そういう事にしておこう――

「……あ! そろそろ電車が!! こんな中途半端になってすみません。今日はこれで失礼します!」
「もうそんな時間なんだ。じゃあ兄さん。また4月にね!」
「ああ! またな」
「ボーカルさんによろしくねー」

 そう言って笑顔で手を振る陽太。

「はい! それじゃ、失礼します!!」

 そう言ってしおんはイベント会場を出たのだった。



 ――保護施設、エントランスゲート前。

「ずいぶん遅くなったなあ。もう20時か……」

 そう言いながらしおんはゲート前へ立った。そして顔認証システム搭載のエントランスゲートはその顔に反応して自動で開く。

「真一、起きてるかな。ちょっと話したい気分だな」

 そう呟きながら、しおんはまっすぐ真一の個室へと向かった。

 そしてしおんが真一の自室前に到着すると、そこから真一の歌声が漏れていることに気がついた。

 そうか。能力がなくなって、今までみたいに声をかき消せないんだな――

 それからしおんは扉に耳を当てて、その歌声を黙って聴いていた。

 やっぱり真一の歌声はいいな――とそんなことを思いながら、真一の歌声に聴き入るしおん。

 それからしおんは歌が終わったタイミングで扉をノックする。

 そしてゆっくりと扉が開くと、真一が姿を現した。

「おかえり」
「ただいま」

 しおんが笑顔でそう言うと、

「どうしたの?」

 首をかしげてそう言う真一。

「ちょっと話さないか? 土産話がたくさんあるんだ」
「へえ。僕もちょうどしおんに聞きたいことがあったんだよ」

 そしてしおんは真一の部屋の中に入っていった。

「それで話ってのはさ――」
「ちょっと待って」
「ん? どうした??」
「今日、何をしていたのか教えてくれない?」

 笑顔でしおんにそう言う真一。

「え!? ええっと……事務所に行って、『ASTER』のイベントの見学を……」
「へえ、見学。そうか、見学かあ」

 え、何そのリアクション!? まさか、真一――

「もしかして、知ってる?」
「今はネットっていう優れモノがあるからねえ。動画サイトの視聴回数も急に増えたし、コメントでイベントのことを書いている人もいたけど?」

 やっぱり……先に連絡入れておけばよかったな。まあそんな余裕なんてなかったけど――

「悪い! 隠すつもりはなかったんだよ! あとで話そうと思ってて! それに俺の出演も急に決まったことだったから!!」

 そう言って両手を顔を前で合わせるしおん。

「ふうん。じゃあ、詳しく聞かせてもらおうか? お土産話のついでにね?」
「は、はい……」

 そしてしおんは自分の経験したことや家族との思い出を話した。

「――マジですごかったんだよ! あやめの歌、すごく上達しててさ。なんだか俺も負けてられないなって思って!」

 しおんは興奮しながら、イベントのことを語っていた。

「へえ、そうなんだ。しかもあやめが陰でそんなに努力をしていたなんてね」
「ああ。でもそれって真一のおかげっていうか……影響だって言ってたよ! 真一くらいうまくなりたいって、憧れで目標なんだってさ!」
「へ、へえ。そっか。ふーん」

 そう言って顔をそらす真一。

「お! 嬉しそうだな」

 しおんはニヤニヤしながら、顔をそらす真一にそう言った。

「そ、そんなこと! ……ある、かな。嬉しいよ。そんなふうに思ってもらえているなんてさ。僕も頑張る。今よりもっともっとできるようになりたいから」

 しおんは真一の言葉を聞き、ニコッと微笑むと、

「頼もしいな! 俺も負けてられないぜ!」

 と答えた。

「うん。ありがとう」
「あ! あとは4月からのことなんだけどさ!」

 それからしおんと真一は一晩中、語り明かしたのだった。



 翌朝。目を覚ました二人は始業時間10分前だという事を知る。

「今日の寝坊はしおんのせいだからね。道連れで怒られるなんて嫌だよ」
「そんなこと言うなって! これから俺たちはずっと一緒だろう? だから今日も仲良く2人で怒られようぜ!」
「ああ、もう最悪だ!!」

 そう言いながら、教室を目指して廊下を走るしおんと真一。



 それからの2人はもちろん仲良く遅刻になり、暁からのお説教を頂くのでした――
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