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第8章 猫と娘と生徒たち

第64話ー② その力の真実を

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 数日後。エントランスゲート前。

 暁は水蓮とミケと共に送迎の車を待っていた。

「先生、今日はどこへお出かけするの?」

 水蓮は暁の服の裾を引っ張りながらそう言った。

「今日はな、水蓮が前にいたところに行くんだよ」
「じゃあ、あの姉さんにも会える?」

 水蓮の言うあのお姉さんって、きっと白銀さんのことだろうな――

「たぶんな! ああ、でも。もしかしたら、お仕事が忙しくて会えないかもしれないな」
「そっか……お仕事じゃ、しょうがないよね」

 そう言って肩を落とす水蓮。

「あはは。でも会えるといいな!」
「うん!!」

 水蓮は満面の笑みでそう言った。

「あ、そうだ! 水蓮、もしも俺とはぐれた時の約束事な!」
「はい!」
「俺のいないところで、誰かと会った時は顔を見ないこと! それだけは約束してくれるか?」

 本当はこんな約束事はしたくないけれど、でも水蓮の為なんだよな――

 そう思いながら、暁は水蓮の顔をまっすぐに見て告げた。

「わかりました! スイ、約束守るよ!! 指切りげんまんしよ!!」
「おう!!」

 そして暁と水蓮は指切りをした。

「ありがとな、水蓮」
「うん!!」

 水蓮はまだ幼いのに、物分かりが良くて助かる。でも少し物分かりが良すぎるのではないかと暁は思っていた。

 気を張りすぎなければいいけれど――

「――ねえ、先生ってば!!」

 ぼーっと考え込んでいた暁は、その水蓮の声で我に返った。

「ど、どうした、水蓮??」
「まだお迎え、来ないの?」
「確かに。もう着いてもいい頃だと思ったんだけどな……」

 暁がそう呟くと、道路の向こうから1台の車がやってきた。

 その車は暁たちの前に止まり、窓がゆっくりと開くと、

「すみません、三谷さん。遅くなりました」

 運転手の青年は申し訳なさそうにそう告げた。

「いえ。いつもありがとうございます。わざわざ来ていただいて、本当にありがたいです」
「そう言っていただけるだけでこちらがありがたいです。じゃあ中へどうぞ」

 そう言って運転手の青年は微笑んだ。

 それから暁は水蓮とミケと共に車へと乗り込んだ。

「あの、三谷さん。一つ聞いてもよろしいですか?」

 運転手の青年は運転をしながら、暁にそう言った。

「は、はい。なんですか?」
「え、っと……その猫は……」

 そうだよな。やっぱり気になるよな――そう思う暁。

「あ、ああ。えっと、自分の大切な友人ってところですので、お気になさらず! あ、もしかして研究所って動物不可なんですか?」
「いいえ。そんなことはないですよ。ただ気になっただけと言いますか」

 運転手の青年は笑いながらそう言った。

「あははは……」
「それとその子は……もしかしてSS級の子ですかね」

 その問いを聞いた暁は、少しだけ驚いた顔をした。

 この人は水蓮のことを知っている……? もしかして――
 
「白銀さんから何か聞いているんですか?」
「まあ少しは。こう見えて僕も『グリム』の人間ですからね!」
「そうなんですね」

 所長や白銀さんの他にも『グリム』に所属している大人っているんだな――

 暁はそのあたりのことを所長たちから聞いたことがなかったなとふと思い、今度キリヤに会った時にでも聞いてみようと思うのだった。

「あ、ってことはやっぱりキリヤたちのことも――?」
「もちろん! 聞きたいですか? キリヤ君たちが日々、どんなことをしているのかを」
「聞きたくないと言えば嘘になりますが、今回はやめておきます。どうせなら、キリヤたちから直接聞きたいなって」

 そう言って微笑む暁。

「親心ってやつですかね。じゃあ余計なおせっかいはやめておきます」
「あはは。ありがとうございます」
「でもキリヤ君から聞いていた通り、優しい方なんですね。ちゃんとお話ししてそれを感じました」

 運転手の青年はそう言って笑った。

「ありがとうございます! というか……キリヤって、俺のことを研究所で話すんですか!?」
「来たばかりの時は本当に三谷さんのお話ばかりでしたよ。最近は仕事のことばかりですが、『先生なら、きっとこうする』って口癖は今でも変わらないですね」
「そうなんですね……」

 運転手の青年から聞いたキリヤの話に、喜びで心が温かくなるのを感じる暁。

 遠く離れていても、俺のことを思ってくれていたのか。本当に嬉しい限りだな――

 そんなことを思い、暁はニヤニヤとしていた。

「先生、ニコニコ! 何か良いことあったの?」

 水蓮はそう言いながら、暁の顔を覗き込んだ。

「ああ、ちょっとな!」

 暁がそう言って笑いかけると、

「先生が嬉しそうだと、スイも嬉しい!」

 水蓮はそう言ってにっこりと笑った。

「そうか、ありがとな水蓮!」
「うん!」

 それから暁たちを乗せた車は、研究所に到着したのだった。
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