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第8章 猫と娘と生徒たち

第64話ー③ その力の真実を

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「じゃあ、お帰りの際はまたお声掛けください!」

 運転手の青年がそう言うと、

「ありがとうございます!」

 そう言ってから暁たちは車を降りて、運転手の青年にお辞儀をした。

「じゃあ行こうか」

 そして暁が研究所の方を向くと、ちょうど優香が建物の中から出てきた。

「お待ちしておりましたよ、先生! あ、えっと……その子とその猫はなんですか?」

 優香はそう言って、首をかしげた。

 そういえば水蓮たちを連れていくことは伝えてなかったな――

「あー、えっと。水蓮のことは白銀さんから聞いてもらった方が早いかな。そして今日話があるのは、俺じゃなくてこの猫のミケさんなんだ」
「……はい?」

 暁の言葉に驚く優香。

 ……しまった。ミケさんが『ゼンシンノウリョクシャ』だってことを言う前にこんなことを言っても変に思うだけだよな――

「ああ、ごめん! 後で順を追って話すから!!」
「は、はあ」

 怪訝そうな顔をする優香。

 このままでは自分がおかしい人間だと思われたままになると危惧した暁は、

「そういえば、キリヤはどうしてる? いつも一緒ってわけじゃないんだな」

 急に姿が見えないキリヤのことに話題を移す。

「あ……えっと。最近いろいろとあって、今は修行中みたいな感じです」

 そう言って少し俯き気味になる優香。

 なんだか優香の表情が暗いような……もしかしてキリヤに何かあったのか? それに――

「修行中……?」
「はい。あとから挨拶に行かれますか?」

 淡々とそう答える優香。

 自分から顔を見せないってことは、きっと今のキリヤは俺に会いたくないんだろうな……ああ、そうか。だからメッセージの返信もなかったわけか。

 だったら、無理に会っていく必要はないよな。いつまでもキリヤだって、何もできない子供じゃないだろうし――!

「いや。忙しいならまた今度でいいよ。頑張るキリヤの邪魔はしたくないからさ」
「そう、ですか」

 優香はそう言って少しだけ俯いた後、笑顔で暁の方を向いた。

「じゃあ打ち合わせルームを取ったので、そちらでお話しましょうか。その……ミケさん? の話を」
「おう!」

 そして暁たちは研究所の中へと入っていった。



 研究所内、打ち合わせルームにて――

「それで、話ってなんですか?」

 椅子に腰かけた優香は、早速暁たちにそう尋ねた。

「ああ、じゃあミケさん。よろしくお願いします」

 暁がそう言うと、ミケは優香の前にちょこんと座った。

『ええ、あーあー。私の声が聞こえるか。蜘蛛の子よ』

 そして驚く優香。

 この反応、優香も聞こえているのか――? 暁はそう思いながら、優香を見つめていた。

 そしてミケの方をみて、

「聞こえます。あの、あなたは?」

 優香はそう尋ねた。

「やっぱり……」
「え? 何がやっぱりなんですか?」
『優香も暁と同じ『ゼンシンノウリョクシャ』という事だ』

 優香は首をかしげると、

「それってどういうことですか? 『ゼンシンノウリョクシャ』って……もしかして私の能力と何か関係があるってことですか?」

 ミケの方をまっすぐに見てそう言った。

『察しがよくて助かるな。そうだ』
「それでその『ゼンシンノウリョクシャ』って……」

 それからミケと暁は、優香に『ゼンシンノウリョクシャ』について話し始めた――。

「――なるほど。それじゃ、私のヒトとしての寿命はあとどれくらいあるんですか?」
『私が完全に猫になったのは、26歳の時。能力が発動して16年くらいだったかな』
「そうですか……今の私が19歳だから、あと7年くらいと考えるのが妥当ですかね」

 顎に手を添えてそう呟き、ミケの話を整理していた。

『そうだな』
「……なんだ、じゃあまだあと7年もあるんですね」

 そう言って笑う優香。

「優香……」

 きっと笑顔でそう言いつつも、ショックだったことに変わりはないだろう。俺だってもし無効化がなければ、もう――

 そう思いながら、拳を握る暁。

「ミケさんも先生もあんまり真剣に言うもんだから、あと1,2年かと思いましたよ! でもあと7年もあれば、たくさん思い出が作れる。まだキリヤ君と一緒にいられる」

 優香はほっとした顔でそう言った。

『優香は随分、前向きに捉えてくれるんだな』
「時間が限られているのなら、落ち込んでなんていられませんよ! 確かに悲しいし驚きましたけど……でもおかげで毎日を大切に過ごせそうです!」

 笑顔でそう言う優香。

 優香は俺が思うよりもずっと前向きに未来を捉えているんだな。何もしてやれない自分が情けない――

「優香が、そう言うのなら……」

 暁が暗い表情でそう言うと、

「もう! なんで先生が悲しそうな顔をするんですか? まだまだ先の話なんですから! それに先生だってまだわからないんですよ? だから1分1秒も無駄になんてしないでくださいね!」

 明るい口調でそう言う優香。

 確かに優香の言う通りかもしれない。俺だっていつどうなるか――

「そうだな。……わかったよ。ありがとな、優香!」

 暁はそう言って微笑んだ。

『じゃあ話はまとまったようだし、帰るか暁。私は疲れたから、いつものベッドで昼寝がしたい……』

 そう言って大きな欠伸をするミケ。

「ああ、わかったよ。話せる猫って言うのもなかなか手がかかるなあ」

 暁は腰に手を当てながらため息交じりにそう言った。そんな2人のやり取りを見て、楽しそうに笑う優香。

「あれ? そういえば、一緒に来ていた女の子の姿が見えないみたいですけど」
「え……!?」

 そして暁は部屋を見渡した。

「本当だ! まずいな。ちょっと探してくる! ミケさんは……動く気はなさそうだな。はあ、ちょっとここで休憩しててくれ」

 暁は困った顔でミケにそう伝えると、

『わかった』

 とミケはそう言って、その場にしゃがんだ。

「では、仕方がないので私がミケさんを見張っておきますね」
「助かるよ! じゃあ、ちょっと行ってくる!」

 そう言って暁は打ち合わせルームを飛び出していった。
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