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第10章 未来へ繋ぐ想い
第79話ー⑤ 私の守りたかった場所
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――翌日曜日。
特にやることもなかった実来はリビングでなんとなくテレビを観ていた。
そしてお昼のバラエティ番組が始まり、特に興味を持つわけでもなくぼーっと眺める。
『さて次のコーナーは! 凛子ちゃんの持ち込み企画!』
『はい! 私のお友達を紹介しちゃいます! それではVTRスタートです!』
テレビからする、人気アイドル知立凛子の声を聞き、実来は昨年みた動画のことをふと思い出した。
『ASTER』のあやめが拡散した動画を投稿したのって、確か知立凛子だったはずだよね――
「ま、まさかね……」
それからテレビをまっすぐに観て、知立凛子の紹介する友人が一体誰なのかと実来はその正体が映し出される瞬間をドキドキしながら待っていた。
そして――
『はあ!? な、なんだ!? って凛子?? 話とちが……ってもうカメラが回ってる!?』
『どうしたの? 凛子がここへ来るなんて珍しい』
『今日は――』
映し出された2人が、あの時のアーティストだったことを知る実来。
「嘘……」
驚いて、呆然とする実来。
そして実来は『はちみつとジンジャー』の開設されていた動画サイトとSNSをすぐにフォローした。
――翌日。
「ねえねえ、昨日のお昼の番組観た?」
「あ、あれっしょ! 『ASTER』のボーカルが出てた!」
「そうそう! それでさ――」
学校では昨日の昼にやっていたバラエティ番組のことで盛り上がっていた。
「実来は? 昨日の観た?」
「う、うん! 去年、動画観てからずっと探してたアーティストだったから、すごく嬉しくてSNSとか即フォローしちゃった!」
「マジ!? すごいガチ勢じゃん!」
そしてその日は一日中『はちみつとジンジャー』の話で盛り上がり、いつもの暇つぶしをやることはなかった。
それからしばらく杏子たちは『はちみつとジンジャー』の動画に夢中で、暇つぶしを行うことがなくなっていった。
「歌の力ってすごいんだな……『はちみつとジンジャー』に出会ってから、あんなに杏子たち、変わったんだもんね。感謝しないと」
いつかデビューしたら、絶対にライブに行こう――
そう誓った実来だった。
それから1か月が経った頃、『はちみつとジンジャー』のボーカル、風谷真一のスキャンダルが大々的に公表された。
「『疫病神』だってさ。やっぱS級クラスってやばい人しかいなんじゃない? どんなにいい歌を歌っても、その歌い手がこんなんじゃね」
「確かに! そのネット記事読んでから、マジで冷めたわ~」
杏子たちは教室でそんな会話をしていた。そしてそれを黙って聞く実来。
「あ、ごめんごめん! 実来は確か、『はちみつとジンジャー』の大ファンだったよね! こんなこと聞かされたら、嫌な気持ちになるよねえ」
杏子は冷めた瞳で実来にそう言った。
その表情は、実来はわかってるよね? と言っているように見えていた。そして実来は、
「わ、私も冷めたし!! なんであんなの好きだったんだろう、意味わかんないよ!」
そう言って笑顔を作った。
「だよねー」
「んじゃ、今日は何する?」
「また浦崎になんかするで良くない? 最近、うちらが何もしてあげなかったから、また調子に乗ってきたみたいだし」
「りょ! じゃあ実来、よろしく!!」
「え、う、うん!」
それから実来はまた杏子たちの暇つぶしに付き合う日々が始まった。
『はちみつとジンジャー』のおかげで変わると思っていた日常は、すぐに元通りになり、憂鬱な日々の始まりでもあった。
そして季節は廻り、高校2年生の秋のこと――
実来は相変わらず杏子たちの暇つぶしに付き合う日々が続いていた。そんなある日の事だった。
「浦崎が『白雪姫症候群』覚醒したんだって……」
実来の友人の一人がそう言った。
「はあ? マジ??」
「うん。私さ、近所に住んでんだけどね……昨日、浦崎の家から水が噴き出してて……」
「水?」
「そう。なんか水の能力とかって言ってたかな」
「うっわ、マジ怖いじゃん」
「『白雪姫症候群』になるのも嫌だけど、S級にだけはなりたくないよね」
「わかる~殺人とかしちゃうかもよ!」
「あり得そうだよねえ」
実来は3人の会話をただ黙って聞いていた。
『はちみつとジンジャー』の一件もあり、生徒たちの間では『白雪姫症候群』、特にS級能力者に対する評価はとても悪かった。
もちろんS級以外の能力者も一般の生徒からしたら、あまり良いものとは思われていない傾向にあったのだった。
「でも浦崎、転校しちゃうのか……残念だね、遊ぶ相手がいなくなっちゃうじゃん」
杏子はつまらなさそうにそう言った。
遊ぶ相手って……『白雪姫症候群』は過度なストレスが原因で覚醒するって聞いたことがある。じゃあ浦崎は私たちのせいで――
実来は俯き、ふとそんなことを思う。
「ははは! 杏子、冷たあい!」
「だってそうっしょ? ね、実来?」
「え……」
唐突に呼ばれた実来は、はっとした顔で杏子を見る。
「遊び相手がいなくなって、一番寂しいのは実来でしょ?」
杏子はそう言って、ニコッと笑った。
ここで私が違うと言えば、きっと次の暇つぶしのターゲットは私になる。それは嫌だ……せっかくできた居場所を失いたくはない――
「うん! そうだね!!」
実来は作り笑顔でそう言った。
その言葉に杏子は満足したようで、笑顔のまま「次は誰にしようか」と教室を一望した。
しかし、誰も杏子と目を合わすことはなかった。
それはそうだよね、浦崎と同じ目になんて遭いたくない、もんね――
「実来、決めてよ」
「……え?」
「ああ、それいいじゃん! そうしなよ!!」
「で、でも――」
「は? でも、何? 実来がターゲットになりたいの?」
「そ、それは……」
冷や汗をかく実来。
「うちら、ズッ友。でしょ?」
杏子は冷めた笑顔で実来にそう告げた。
「わ、わかった……」
それから実来はクラスで一番ひ弱な女子を選び、次の暇つぶしの相手にした。
胸が引き裂かれるような思いだった。でも、私は友達を……この場所を失いたくはない――
そんなことを思いながら、実来は杏子たちに付き合い続けていた。
そして3月に行われる『白雪姫症候群』の一斉検査の時期がきた。
「今年何もなければ、もう大丈夫って聞くけど……」
検査を受けた実来は、今回も無能力者と診断された。
これでもう私は――そう思いながら、ほっとする実来だった。
それから実来は高校3年生になった。
「木本さあ、マジで調子乗んなよ?」
「この間、H組の田島君に告られてたよね!! どんな手、使ったわけ~」
実来が高校3年生になっても相変わらず暇つぶしは続いていた。
木本は昨年、転校した浦崎の代わりに実来が選んだ女子生徒だった。
「ごめんなさい……ちゃんと、ちゃんと断りましたから!!」
「そういう問題じゃないっての! なんでわかんないかなあ」
実来はただ黙って木本のことを見つめていた。
時折、木本は実来に助けを求めるような視線を送るが、実来はその視線から目をそらしていた。
ごめんなさい。私のせいで――
そんなことを思いながら、実来は目の前で嫌がらせを受ける木本を見ていた。
「じゃあ今日はこれでいいや。帰ろ」
「はーい」
「実来も行くよー」
「う、うん……」
そう言って、実来はその場を去った。
実来は杏子たちと別れてからいつもルートで最寄り駅に向かった。そして最寄り駅を降りてからトボトボと自宅まで歩く実来。
「こんなこと、続けて良いのかな……」
ため息交じりにそう呟く実来。そして横断歩道の信号が赤になり、立ち止まった実来は、スマホを取り出してSNSを開く。
「そういえば、『はちみつとジンジャー』って今、どうなったんだろう。ずっと聴いてなかったな」
それから実来は慣れた手つきで『はちみつとジンジャー』のSNSアカウントページに飛んだ。
「こんなにファンが……しかもCDデビューしたんだね。ライブ行こうって決めてたのにな……でも――」
そして以前、杏子たちが話していたことを思い出す実来。
「また『はちみつとジンジャー』の話を出したら、きっと気持ち悪いって言われて距離を置かれるかもしれない……それは嫌だ」
そして実来の周りに小さな虫たちが飛び回り始める。
「ああ、もう何? うっざ……」
そう言って虫たちを払うと、虫たちはどこかへ飛んでいった。
「もう!」
それから信号が青に変わり、実来は再び歩きだしたのだった。
特にやることもなかった実来はリビングでなんとなくテレビを観ていた。
そしてお昼のバラエティ番組が始まり、特に興味を持つわけでもなくぼーっと眺める。
『さて次のコーナーは! 凛子ちゃんの持ち込み企画!』
『はい! 私のお友達を紹介しちゃいます! それではVTRスタートです!』
テレビからする、人気アイドル知立凛子の声を聞き、実来は昨年みた動画のことをふと思い出した。
『ASTER』のあやめが拡散した動画を投稿したのって、確か知立凛子だったはずだよね――
「ま、まさかね……」
それからテレビをまっすぐに観て、知立凛子の紹介する友人が一体誰なのかと実来はその正体が映し出される瞬間をドキドキしながら待っていた。
そして――
『はあ!? な、なんだ!? って凛子?? 話とちが……ってもうカメラが回ってる!?』
『どうしたの? 凛子がここへ来るなんて珍しい』
『今日は――』
映し出された2人が、あの時のアーティストだったことを知る実来。
「嘘……」
驚いて、呆然とする実来。
そして実来は『はちみつとジンジャー』の開設されていた動画サイトとSNSをすぐにフォローした。
――翌日。
「ねえねえ、昨日のお昼の番組観た?」
「あ、あれっしょ! 『ASTER』のボーカルが出てた!」
「そうそう! それでさ――」
学校では昨日の昼にやっていたバラエティ番組のことで盛り上がっていた。
「実来は? 昨日の観た?」
「う、うん! 去年、動画観てからずっと探してたアーティストだったから、すごく嬉しくてSNSとか即フォローしちゃった!」
「マジ!? すごいガチ勢じゃん!」
そしてその日は一日中『はちみつとジンジャー』の話で盛り上がり、いつもの暇つぶしをやることはなかった。
それからしばらく杏子たちは『はちみつとジンジャー』の動画に夢中で、暇つぶしを行うことがなくなっていった。
「歌の力ってすごいんだな……『はちみつとジンジャー』に出会ってから、あんなに杏子たち、変わったんだもんね。感謝しないと」
いつかデビューしたら、絶対にライブに行こう――
そう誓った実来だった。
それから1か月が経った頃、『はちみつとジンジャー』のボーカル、風谷真一のスキャンダルが大々的に公表された。
「『疫病神』だってさ。やっぱS級クラスってやばい人しかいなんじゃない? どんなにいい歌を歌っても、その歌い手がこんなんじゃね」
「確かに! そのネット記事読んでから、マジで冷めたわ~」
杏子たちは教室でそんな会話をしていた。そしてそれを黙って聞く実来。
「あ、ごめんごめん! 実来は確か、『はちみつとジンジャー』の大ファンだったよね! こんなこと聞かされたら、嫌な気持ちになるよねえ」
杏子は冷めた瞳で実来にそう言った。
その表情は、実来はわかってるよね? と言っているように見えていた。そして実来は、
「わ、私も冷めたし!! なんであんなの好きだったんだろう、意味わかんないよ!」
そう言って笑顔を作った。
「だよねー」
「んじゃ、今日は何する?」
「また浦崎になんかするで良くない? 最近、うちらが何もしてあげなかったから、また調子に乗ってきたみたいだし」
「りょ! じゃあ実来、よろしく!!」
「え、う、うん!」
それから実来はまた杏子たちの暇つぶしに付き合う日々が始まった。
『はちみつとジンジャー』のおかげで変わると思っていた日常は、すぐに元通りになり、憂鬱な日々の始まりでもあった。
そして季節は廻り、高校2年生の秋のこと――
実来は相変わらず杏子たちの暇つぶしに付き合う日々が続いていた。そんなある日の事だった。
「浦崎が『白雪姫症候群』覚醒したんだって……」
実来の友人の一人がそう言った。
「はあ? マジ??」
「うん。私さ、近所に住んでんだけどね……昨日、浦崎の家から水が噴き出してて……」
「水?」
「そう。なんか水の能力とかって言ってたかな」
「うっわ、マジ怖いじゃん」
「『白雪姫症候群』になるのも嫌だけど、S級にだけはなりたくないよね」
「わかる~殺人とかしちゃうかもよ!」
「あり得そうだよねえ」
実来は3人の会話をただ黙って聞いていた。
『はちみつとジンジャー』の一件もあり、生徒たちの間では『白雪姫症候群』、特にS級能力者に対する評価はとても悪かった。
もちろんS級以外の能力者も一般の生徒からしたら、あまり良いものとは思われていない傾向にあったのだった。
「でも浦崎、転校しちゃうのか……残念だね、遊ぶ相手がいなくなっちゃうじゃん」
杏子はつまらなさそうにそう言った。
遊ぶ相手って……『白雪姫症候群』は過度なストレスが原因で覚醒するって聞いたことがある。じゃあ浦崎は私たちのせいで――
実来は俯き、ふとそんなことを思う。
「ははは! 杏子、冷たあい!」
「だってそうっしょ? ね、実来?」
「え……」
唐突に呼ばれた実来は、はっとした顔で杏子を見る。
「遊び相手がいなくなって、一番寂しいのは実来でしょ?」
杏子はそう言って、ニコッと笑った。
ここで私が違うと言えば、きっと次の暇つぶしのターゲットは私になる。それは嫌だ……せっかくできた居場所を失いたくはない――
「うん! そうだね!!」
実来は作り笑顔でそう言った。
その言葉に杏子は満足したようで、笑顔のまま「次は誰にしようか」と教室を一望した。
しかし、誰も杏子と目を合わすことはなかった。
それはそうだよね、浦崎と同じ目になんて遭いたくない、もんね――
「実来、決めてよ」
「……え?」
「ああ、それいいじゃん! そうしなよ!!」
「で、でも――」
「は? でも、何? 実来がターゲットになりたいの?」
「そ、それは……」
冷や汗をかく実来。
「うちら、ズッ友。でしょ?」
杏子は冷めた笑顔で実来にそう告げた。
「わ、わかった……」
それから実来はクラスで一番ひ弱な女子を選び、次の暇つぶしの相手にした。
胸が引き裂かれるような思いだった。でも、私は友達を……この場所を失いたくはない――
そんなことを思いながら、実来は杏子たちに付き合い続けていた。
そして3月に行われる『白雪姫症候群』の一斉検査の時期がきた。
「今年何もなければ、もう大丈夫って聞くけど……」
検査を受けた実来は、今回も無能力者と診断された。
これでもう私は――そう思いながら、ほっとする実来だった。
それから実来は高校3年生になった。
「木本さあ、マジで調子乗んなよ?」
「この間、H組の田島君に告られてたよね!! どんな手、使ったわけ~」
実来が高校3年生になっても相変わらず暇つぶしは続いていた。
木本は昨年、転校した浦崎の代わりに実来が選んだ女子生徒だった。
「ごめんなさい……ちゃんと、ちゃんと断りましたから!!」
「そういう問題じゃないっての! なんでわかんないかなあ」
実来はただ黙って木本のことを見つめていた。
時折、木本は実来に助けを求めるような視線を送るが、実来はその視線から目をそらしていた。
ごめんなさい。私のせいで――
そんなことを思いながら、実来は目の前で嫌がらせを受ける木本を見ていた。
「じゃあ今日はこれでいいや。帰ろ」
「はーい」
「実来も行くよー」
「う、うん……」
そう言って、実来はその場を去った。
実来は杏子たちと別れてからいつもルートで最寄り駅に向かった。そして最寄り駅を降りてからトボトボと自宅まで歩く実来。
「こんなこと、続けて良いのかな……」
ため息交じりにそう呟く実来。そして横断歩道の信号が赤になり、立ち止まった実来は、スマホを取り出してSNSを開く。
「そういえば、『はちみつとジンジャー』って今、どうなったんだろう。ずっと聴いてなかったな」
それから実来は慣れた手つきで『はちみつとジンジャー』のSNSアカウントページに飛んだ。
「こんなにファンが……しかもCDデビューしたんだね。ライブ行こうって決めてたのにな……でも――」
そして以前、杏子たちが話していたことを思い出す実来。
「また『はちみつとジンジャー』の話を出したら、きっと気持ち悪いって言われて距離を置かれるかもしれない……それは嫌だ」
そして実来の周りに小さな虫たちが飛び回り始める。
「ああ、もう何? うっざ……」
そう言って虫たちを払うと、虫たちはどこかへ飛んでいった。
「もう!」
それから信号が青に変わり、実来は再び歩きだしたのだった。
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