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第10章 未来へ繋ぐ想い

第79話ー⑧ 私の守りたかった場所

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 ――翌朝。

「うっわ、これはやばいな……」

 自室の洗面台の鏡に映る自分の顔を見た実来はそう呟く。その顔は泣いたまま寝落ちしたせいで、目が腫れていたのだった。

「とりあえず顔を洗って…………変わらない、か」

 今日はコンタクトをするのは無理そうだな……仕方ない、眼鏡にしよう――

 そして実来は着替えてから眼鏡をつけると、食堂に向かったのだった。



 ――食堂にて。

「お、実来! おはよう!!」

 暁は実来を見るなり、笑顔でそう言った。

「おはよう、ございます」

 実来が目をそらしながらそう言うと、

「? 今日は眼鏡なんだな!」

 少し実来の顔を見つめてから暁はそう言った。

 放っておいてくれないかな。それに、眼鏡のことはあまり触れてほしくないのに――

 そう思いながら、実来は俯いた。

「は、はい。ちょっと目が腫れてしまって……」
「何!? 大丈夫か!? 病院に――」
「だ、大丈夫です!」

 実来が顔を上げて慌ててそう言うと、

「そ、そうか? それなら、良いけど……」

 暁はそう言ってから、座っていた席へ戻って行った。

 そんなに心配してくれなくてもいいのに。別に私は心配されたいわけじゃない――

 実来はそんなことを思いながら、食べ物の並ぶカウンターに向かった。

「おはようございます、如月さん」

 先に来ていた織姫はそう言って、実来に微笑んだ。

「おはようございます、本星崎さん」

 実来はそんな織姫にそっけなくそう返す。

「……今日は眼鏡ですか」
「ええ」

 何、もしかして馬鹿にするつもり――?

 そう思いながら、隣で食べ物を選ぶ織姫を横目で見る実来。

「似合いますね! いつもの眼鏡なしでも綺麗な方だなとは思っておりましたが、眼鏡があってもやっぱりお綺麗です」

 そう言って笑う織姫。

 そしてその思いがけない織姫の言葉に驚く実来。

「え、あ、ありがとう、ございます……」

 初めて眼鏡姿で褒めてもらえた気がする。それでもやっぱり根暗見えるから、眼鏡は好きにはなれないんだけどね――

 そんなことを思い、実来は俯いた。

「――今朝はたくさん食べてください。元気が出ますよ」

 そう言って織姫は机に向かっていった。

「ちょっと食べたくらいで元気になるのなら、苦労してないっての……」

 それから実来は食べ物を取り、机へと向かう。

 杏子にあんなことを言われて……私、これからどうしたら――

 実来はそう思いながら歩いていると、何もないところで急に躓き、そして持っていたトレーを落とした。

「あ……」

 拾わなくちゃ――そう思いながら、手を伸ばそうとする実来。しかし、食堂にいる織姫や暁たちからの視線が急に怖く感じて、硬直してしまう。

 もしかして馬鹿にされるんじゃないか。笑われているんじゃないか――と思いながら。

 そして昨夜の杏子とのやりとりを思い出す実来。

『――じゃあこれで友達ごっこはお終い。ばいばーい』

 ねえ、また戻るの? 誰にも相手にされず、家と学校を往復するだけだったあの寂しい日々に。また私は孤独に――

 そう思い、涙が溢れる実来。

「如月さん? どうされたんですか?? 躓いたときにけがを!?」

 そう言って織姫が実来に触れようとした時、

「触らないで!!」

 実来はそう大声を上げた。

「え……」

 その声に目を丸くする織姫。

「もうやめてよ……私は、私はあなたたちと違う! 私はS級なんかじゃない! あんたたちみたいな化け物とは違う!! 普通の人間なの!! 私の人生狂わせないでよ!! せっかくできた居場所を奪わないでよ!」

 実来がそう言うと、食堂内は沈黙した。

 暁が実来の元に行こうとした時、織姫は実来の頬へ平手打ちをする。

 突然のことに驚き、平手打ちされた頬を押さえ、呆然とする実来。

「ええ。あなたの言う通りです。私達はあなたとは違います。あなたが私達を化け物と呼ぶならそれでもいいです。でも私は、そうは思いません。

 ここは私が『本星崎織姫』でいられる場所です。私のことをちゃんと見てくれる人たちがいる温かい場所です。

 だからみんなを化け物と呼ぶあなたを、私はここの仲間なんて思えない! そんなに嫌なら、前の学校でもどこでも行けばいいのよ!!」

 織姫がそう言うと、実来は織姫の顔を見ずにそのまま食堂を出た。

 私だって、ここを出られるのなら……来なくても良い場所だったなら来ていないのに――

 それから実来は涙を流して、どこかへ走っていったのだった。



 * * *


 食堂にて――

「おい! 待てって、実来!!」

 暁はそう言って、出て行った実来を追ったのだった。

 食堂に残った織姫、狂司。そして水蓮は実来を追う暁を心配して、廊下の方を見に行っていた。

 そして織姫はその場に座り込み、実来の頬を叩いた右手を左手でギュッと掴む。その右手は少しだけ震えていったのだった。

 それからそんな織姫の元に狂司がそっと寄り添って、

「頑張りましたね。ちょっと意外でした。織姫さんがそんなことを言うなんて」

 優しくそう言った。

「……私、ひどいことを。仲間じゃない、なんて……」

 そう言って目に涙をためて狂司を見つめる織姫。

「大丈夫、あとは先生に任せましょう」

 狂司がそう言うと、織姫は狂司の正面から背中にそっと手を伸ばし、その胸の額をつけてから涙を流す。

 そして狂司は、そんな織姫の頭を優しく撫でながら、微笑んだのだった。
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