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第10章 未来へ繋ぐ想い
第79話ー⑦ 私の守りたかった場所
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実来が施設に来てから数日。実来は施設での生活に馴染んできたようだった。
午後の授業終了間際の教室にて――
教室には剛と水蓮、そして実来が残っていた。
高校課程を卒業している剛は自分の管轄ではないため、暁は特に気にしてはいなかったが、実来のことは少し気がかりになっていた。
学業は平均ってことだったけど、大丈夫だろうか――
そんなことを思いながら、実来を見つめる暁。
「あの、先生……すごく視線を感じるんですが」
「あ、悪い! ノルマの進捗はどうかなと思って」
「まあ、あと1問ってところです。だからそんなに心配しなくても……」
「そ、そっか! ごめんな、ははは!!」
暁はそう言って頭を掻いた。
そしてそんな暁を怪訝な顔で観る実来。
気をつけないとな……年頃の女子だし。見た目もモデルみたいだから、きっと今まで男子生徒からいやらしい目で見られてきているのかもしれない――
そう思った暁は実来から視線を外したのだった。
その後、終業ベルが鳴ると、実来は広げていた勉強用具を片付けた。そしてそのまま立ち上がらずに、持ってきていたスマホをいじり始める。
前の学校の友達かな……そういえば、授業が終わるとすぐにスマホを見るよな。それと食事の時もいつも持って来ているみたいだし――
暁はそんなことを思って実来を横目で見ながら、自身の片づけを進めていた。
それからひと段落したのか、実来は教室を出て行く。
そして、
「あ、実来ちゃん忘れ物してるよ!」
水蓮がそう言って実来の机上にある筆箱を手に取った。
「本当だな。まあ誰が盗るってわけでもないから、置いておこう」
「ダメです! これは、スイが実来ちゃんに届けます!!」
「え? そ、そうか?? じゃあ頼んじゃおうかな」
「任せてください!!」
水蓮はそう言って教室を出て行った。
「水蓮もしっかりしてきたな」
そう呟いて微笑む暁だった。
* * *
廊下にて――
「今日、体育祭だったんだ……楽しそうだったな。去年も私は一緒だったのに」
そんなことを呟きながら廊下を歩く実来。
すると、
「実来ちゃーん! 忘れ物、持ってきたよー!」
そう言って水蓮が走ってきた。
「え? あ、それ……ありがとう、水蓮ちゃん」
そして水蓮から筆箱を受け取る実来。
「いえいえ! じゃあスイは、先生のところに戻ります!!」
「うん! あ、ねえ水蓮ちゃんって暁先生の子どもなの? 一緒のお部屋に住んでいるよね?」
「そうだけど、そうじゃないよ! 先生は先生だもん! じゃあねえ」
そう言って水蓮は元来た道を走っていった。
「どういう事なんだろう……」
ずっと疑問には思っていた。でもきっと大した理由もないんだろうな――と水蓮との会話で察した実来。
「あんな小さい頃からこんな場所にいたら、きっと外の世界のことを何も知らずに大人になるんだろうな……なんだか、可哀そう」
そして実来は自室に戻ったのだった。
――翌日。
実来はいつものように授業を受けていた。
チラチラと自分のことを見る暁を少し鬱陶しく感じる日々を送っていた実来。
そんなに私を監視していないと不安? 私がここにいる人たちみたいに懐かないから? すっごくうざい――
そんなことを思いながら、実来は黙々とノルマを進めていた。
そして終業ベルが鳴り、いつものように片づけを終えるとスマホを開く。
もうこんなに通知が。やっぱり時間が合わないんだよね。このままじゃ――
不安に思いながら、実来はチャットに投稿する。
『ごめん! 今、終わった!!』
『おつ~なんか最近あんまチャットしないね。充実って感じ? もううちらと仲良くする必要ないんじゃない??』
『違うよ~こんな化け物たちしかいない施設で充実なんてあるわけないじゃん!!』
『化け物とか! ひどいこと言うじゃん(笑)でも実際そうか! ママたちもそうやって言ってるし』
『うちの親も言ってた!!』
え……みんなの親がそんなことを。じゃあ私のことも――?
『さすがに私のことはそう思ってないよね? だってこうやってみんなと普通に話してるし!』
『当たり前じゃん!』
『そうそう! うちらはズッ友でしょ』
よかった――そう思ってほっとする実来。
『あ、じゃあそろそろ! 今日塾だし~』
『うん! またね!』
それから実来はスマホをポケットにしまうと、立ち上がって教室を出て行った。
その日の夕食後、実来は自室でぼーっと過ごしていた。そして何度もスマホを見てチャットが来ないことを不安に思っていた。
「なんで? こんなにチャットが来なかったことなんてないのに……」
もしかして私のことを避けてるんじゃ――
「そんなこと、ない! だってさっきもズッ友って言ってた。杏子は私を裏切らない。離れてもこうして変わらずに連絡だって取ってるし。だからきっと大丈夫……」
そうは言いつつも不安が募る実来。
「ダメだ。何もしないから悪いことを考えるんだよ……『はちみつとジンジャー』のSNSでも――」
そしてSNSを開く実来。自分から何かを発するSNSではなかったため、目的の情報以外には目を通さない実来だったが、ある投稿が目に留まる。
『元同級生、S級になった件(笑)』
そう書かれた投稿に添えられる一枚の画像。それは実来たちのグループチャットのやりとりが写った画像だった。
「え……何、これ」
『早く縁切りたいのに、しつこく連絡してきてうざいんだよね』
『ほんと、それよ。距離置いてるのわかんないかな~』
『しかもこれ、ウケない? 化け物たちしかいない施設とか言ってんの!』
『お前もな! って感じ』
それからも3人のやり取りは続いていった。
そんなやり取りを見て、実来は居ても立っても居られなくなり、そのやり取りを写真に収めると、
『ねえ、これってどういうこと? 嘘、だよね??』
画像を添えて、グループチャットに投稿した。
すると、
『見たんだ』
杏子からその一言だけが帰ってきた。
『なんであんなこと書くの? 私達、友達だってズッ友だって杏子言ったよね?』
『うわ、きっも……』
「え……」
『そんなわけないでしょ。それに実来、もううちらと違うじゃん。化け物のお仲間でしょ? 気安く連絡とかしてこないでほしいんだけど』
頭が真っ白になり、杏子に何も返せない実来。そして、続けて杏子からチャットが届いた。
『うちのママも化け物と連絡すんなって言ってたし。気が付いたならちょうどよかった。じゃあこれで友達ごっこはお終い。ばいばーい』
――杏子は退室しました。
「……何、それ。なんで……なんでそんなことを言うの。私はずっと私だったじゃん。なんでS級になったくらいでそんなこと……私達、ズッ友って言ってたじゃん!!」
そう言ってスマホを投げる実来。
「私は違う、違うのに……私は化け物なんかじゃ、ない……」
実来はそう言いながら、布団に顔をうずめて涙を流すのだった。
午後の授業終了間際の教室にて――
教室には剛と水蓮、そして実来が残っていた。
高校課程を卒業している剛は自分の管轄ではないため、暁は特に気にしてはいなかったが、実来のことは少し気がかりになっていた。
学業は平均ってことだったけど、大丈夫だろうか――
そんなことを思いながら、実来を見つめる暁。
「あの、先生……すごく視線を感じるんですが」
「あ、悪い! ノルマの進捗はどうかなと思って」
「まあ、あと1問ってところです。だからそんなに心配しなくても……」
「そ、そっか! ごめんな、ははは!!」
暁はそう言って頭を掻いた。
そしてそんな暁を怪訝な顔で観る実来。
気をつけないとな……年頃の女子だし。見た目もモデルみたいだから、きっと今まで男子生徒からいやらしい目で見られてきているのかもしれない――
そう思った暁は実来から視線を外したのだった。
その後、終業ベルが鳴ると、実来は広げていた勉強用具を片付けた。そしてそのまま立ち上がらずに、持ってきていたスマホをいじり始める。
前の学校の友達かな……そういえば、授業が終わるとすぐにスマホを見るよな。それと食事の時もいつも持って来ているみたいだし――
暁はそんなことを思って実来を横目で見ながら、自身の片づけを進めていた。
それからひと段落したのか、実来は教室を出て行く。
そして、
「あ、実来ちゃん忘れ物してるよ!」
水蓮がそう言って実来の机上にある筆箱を手に取った。
「本当だな。まあ誰が盗るってわけでもないから、置いておこう」
「ダメです! これは、スイが実来ちゃんに届けます!!」
「え? そ、そうか?? じゃあ頼んじゃおうかな」
「任せてください!!」
水蓮はそう言って教室を出て行った。
「水蓮もしっかりしてきたな」
そう呟いて微笑む暁だった。
* * *
廊下にて――
「今日、体育祭だったんだ……楽しそうだったな。去年も私は一緒だったのに」
そんなことを呟きながら廊下を歩く実来。
すると、
「実来ちゃーん! 忘れ物、持ってきたよー!」
そう言って水蓮が走ってきた。
「え? あ、それ……ありがとう、水蓮ちゃん」
そして水蓮から筆箱を受け取る実来。
「いえいえ! じゃあスイは、先生のところに戻ります!!」
「うん! あ、ねえ水蓮ちゃんって暁先生の子どもなの? 一緒のお部屋に住んでいるよね?」
「そうだけど、そうじゃないよ! 先生は先生だもん! じゃあねえ」
そう言って水蓮は元来た道を走っていった。
「どういう事なんだろう……」
ずっと疑問には思っていた。でもきっと大した理由もないんだろうな――と水蓮との会話で察した実来。
「あんな小さい頃からこんな場所にいたら、きっと外の世界のことを何も知らずに大人になるんだろうな……なんだか、可哀そう」
そして実来は自室に戻ったのだった。
――翌日。
実来はいつものように授業を受けていた。
チラチラと自分のことを見る暁を少し鬱陶しく感じる日々を送っていた実来。
そんなに私を監視していないと不安? 私がここにいる人たちみたいに懐かないから? すっごくうざい――
そんなことを思いながら、実来は黙々とノルマを進めていた。
そして終業ベルが鳴り、いつものように片づけを終えるとスマホを開く。
もうこんなに通知が。やっぱり時間が合わないんだよね。このままじゃ――
不安に思いながら、実来はチャットに投稿する。
『ごめん! 今、終わった!!』
『おつ~なんか最近あんまチャットしないね。充実って感じ? もううちらと仲良くする必要ないんじゃない??』
『違うよ~こんな化け物たちしかいない施設で充実なんてあるわけないじゃん!!』
『化け物とか! ひどいこと言うじゃん(笑)でも実際そうか! ママたちもそうやって言ってるし』
『うちの親も言ってた!!』
え……みんなの親がそんなことを。じゃあ私のことも――?
『さすがに私のことはそう思ってないよね? だってこうやってみんなと普通に話してるし!』
『当たり前じゃん!』
『そうそう! うちらはズッ友でしょ』
よかった――そう思ってほっとする実来。
『あ、じゃあそろそろ! 今日塾だし~』
『うん! またね!』
それから実来はスマホをポケットにしまうと、立ち上がって教室を出て行った。
その日の夕食後、実来は自室でぼーっと過ごしていた。そして何度もスマホを見てチャットが来ないことを不安に思っていた。
「なんで? こんなにチャットが来なかったことなんてないのに……」
もしかして私のことを避けてるんじゃ――
「そんなこと、ない! だってさっきもズッ友って言ってた。杏子は私を裏切らない。離れてもこうして変わらずに連絡だって取ってるし。だからきっと大丈夫……」
そうは言いつつも不安が募る実来。
「ダメだ。何もしないから悪いことを考えるんだよ……『はちみつとジンジャー』のSNSでも――」
そしてSNSを開く実来。自分から何かを発するSNSではなかったため、目的の情報以外には目を通さない実来だったが、ある投稿が目に留まる。
『元同級生、S級になった件(笑)』
そう書かれた投稿に添えられる一枚の画像。それは実来たちのグループチャットのやりとりが写った画像だった。
「え……何、これ」
『早く縁切りたいのに、しつこく連絡してきてうざいんだよね』
『ほんと、それよ。距離置いてるのわかんないかな~』
『しかもこれ、ウケない? 化け物たちしかいない施設とか言ってんの!』
『お前もな! って感じ』
それからも3人のやり取りは続いていった。
そんなやり取りを見て、実来は居ても立っても居られなくなり、そのやり取りを写真に収めると、
『ねえ、これってどういうこと? 嘘、だよね??』
画像を添えて、グループチャットに投稿した。
すると、
『見たんだ』
杏子からその一言だけが帰ってきた。
『なんであんなこと書くの? 私達、友達だってズッ友だって杏子言ったよね?』
『うわ、きっも……』
「え……」
『そんなわけないでしょ。それに実来、もううちらと違うじゃん。化け物のお仲間でしょ? 気安く連絡とかしてこないでほしいんだけど』
頭が真っ白になり、杏子に何も返せない実来。そして、続けて杏子からチャットが届いた。
『うちのママも化け物と連絡すんなって言ってたし。気が付いたならちょうどよかった。じゃあこれで友達ごっこはお終い。ばいばーい』
――杏子は退室しました。
「……何、それ。なんで……なんでそんなことを言うの。私はずっと私だったじゃん。なんでS級になったくらいでそんなこと……私達、ズッ友って言ってたじゃん!!」
そう言ってスマホを投げる実来。
「私は違う、違うのに……私は化け物なんかじゃ、ない……」
実来はそう言いながら、布団に顔をうずめて涙を流すのだった。
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