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第10章 未来へ繋ぐ想い

第82話ー⑥ S級クラスの出来事

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 施設の建物横にある木の陰から狂司、織姫、ローレンスはグラウンドをこっそりと見つめていた。

「やはり、見張りは火山さんだけですか」

 織姫の視線の先には、空き缶の前で仁王立ちをしている剛の姿があった。

「まあ無難の策ですね。このままのこのこと出て行けば、水蓮ちゃんの能力で石化するか如月さんの虫に捕まるか……ですね」
「ええ、そうですね」

 グラウンドを見つめながら、淡々と会話をする織姫と狂司。

「お前ら冷静に分析してる場合か? どうするんだよ」
「そうですね……ローレンス君がとりあえず特攻してみます?」

 狂司が笑顔でローレンスにそう告げると、

「馬鹿か!? さっき冷静に分析してたよな!? それなのになんで一番やっちゃいけない特攻を提案するんだよ!!」
「いやあ。君がどうなるのか、見ておきたいなと思って」

 ニヤニヤと笑いながら狂司はそう言った。

「う、うぜえ」

 狂司たちのその様子を静かに見つめる織姫。

 特攻ですか……でも、実来たちがどこにいるかをわからないことには――

 それから織姫は剛の周囲を確認するために目を凝らすと、剛たちの後方にある大樹の下の方でベージュ色の衣服らしいものを目にした。

 あれは実来が普段着ているカーディガン? では、あの樹の裏に実来たちが潜んでいるということになりますね――

「――特攻作戦も、あながち間違えではないかもしれませんよ」

 織姫はニヤリと笑いながら狂司とローレンスの方を見てそう言った。

「どういうことだ?」
「ローレンスさんの特攻は変わらずですが、その道を私達で作るんです――」

 それから織姫は思いついた作戦を2人に告げる。

「確かに、その作戦ならいけるかもしれませんね……」

 狂司は顎に手を当てて、そう呟いた。

「俺はお前らを信じて突き進めば良いわけだな?」
「はい」

 そう言って頷く織姫。

 そして狂司は目を細めてローレンスの方を見ると、

「信じて、ねえ……」

 冷たくそう言った。

「まあ、どうするかはお前に任せるわ。俺は俺の勝手にするだけだ」

 それから狂司とローレンスは静かに睨み合う。

 やっぱりこの2人には、何か過去が――

 そんなことを思いながら、狂司たちを見つめる織姫。

「織姫さん、どうしました?」

 狂司は織姫の方を見ながらそう言った。

「いいえ、何でも。……それでは、さっきの作戦でよろしいですか?」
「僕は大丈夫です」
「俺もだ」
「それでは、勝ちを取りに行きましょう――」

 そして織姫たちは動き始めたのだった。


 * * *


「まずはあなたを引き付けます」

 織姫はそう言って缶の見張り役をしている剛に向かって、『流星群』を放った。

「そう来ると思ったぜ!」

 そう言って剛は向かって来る隕石を炎の拳で砕いていく。

「ローレンスさん、今のうちに! くれぐれも後ろにいる実来たちにはお気をつけください!」
「ああ、わかった!!」

 そう言って飛び出すローレンス。そしてその後を狂司も追った。

「なんでお前、ついて来るんだよ! あとから出て来る作戦だっただろ!!」
「ローレンス君一人だと、ちょっと心配だったものでね」

 そう言ってニコっと笑う狂司。

「はあ?」
「ほらほら、さっさと行きますよ」
「ちっ」

 君のことをまだ完全に信用したわけじゃないですからね。もし剛君たちに何かしようってことなら、僕は刺し違えてでも――

 そんなことを思いながら、狂司はローレンスを見る。

 すると走る狂司とローレンスの周りに、小さな虫たちが纏わりつき始めた。

「これが如月さんの……」
「おい! 前を見ろ!!」

 ローレンスのその声に正面を向く狂司。そこには小さな虫たちが群れを成して、真っ黒な玉状になっていた。そして足を止める2人。

「ここからどうする……?」
「こうするまでです!」

 そう言って狂司は『鴉の羽クロウ・フェザー』をその虫たちに放った。

 するとその虫たちは狂司たちの存在に気が付き、まっすぐに狂司に向かって飛んできた。

「おいおい……もしかして怒ったんじゃないか!?」
「一時撤退しましょう」

 そう言って狂司は方向転換をする。そして織姫から遠ざかるように、その場から離れた。

 さすがに一網打尽と言うわけにはいきませんからね。僕たちがもし捕まっても、織姫さんだけは――

「待てって!」

 ローレンスはそう言って狂司を追った。


「どうするんだよ!」

「一度隠れましょう。如月さんたちがあの大樹の裏に潜んでいるという事はさっき織姫さんも言っていたでしょう」

「そうだけど……もう見つかっているのに、隠れる意味なんてあんのか?」


 確かに、無意味に等しい。そんなことはわかっているんですよ――

「ですが、少しだけでも時間を稼いで――止まってください!」
「は、はあ!?」

 狂司の声で足を止めるローレンス。

「今度はなんだ!?」
「おかしい。虫が追ってこない……」

 そして周りを見渡す狂司とローレンス。

「上手くまいた……とか?」
「そうだと良いですが、なんだか嫌な予感が――!?」

 はっとした狂司はローレンスを突き飛ばす。

 それから勢いよく尻もちをつくローレンス。

「いってぇな! 何する……ってお前! 身体が石に!!」

 ローレンスは石化している狂司の身体の一部を見て、目を見開きながらそう言った。

「なんで君なんかを庇ったんでしょうね。僕にとっては、憎い相手だったはずなのに」

 絶対に許せない相手だと思っていたのに、僕も織姫さんのことは言えないくらいのお人好しということですか――

「大丈夫か! おいっ!!」
「僕のことはいい。たぶん近くに水蓮ちゃんがいると思うので、君も気をつけるんですよ」

 そう言って苦笑いをする狂司。

「どこだ……どこにいる!!」

 ローレンスはそう言って周りを見渡す。

 すると、小さな虫たちが再びローレンスにまとわりついた。

「またか……くっそ。狂司が俺を庇って、犠牲になったのに……俺は何もできないままか」
「いや、僕死んではいないですよ」

 って言うか、勝手に死んだことにしないでくださいよ――

 そう思いながら、やれやれと言った顔をする狂司。

「俺も、S級だったら……」
「君がどのクラスだったとしても気持ちで負けていたら、弱いままでしょうね」

 狂司は冷たい口調でローレンスにそう告げる。

「気持ちで……?」
「はい。君は弱い。でも自分が弱いことをちゃんと認められている。それは心の強さです。しかし、結局弱い自分が嫌で、また強さを求めようとする君はやっぱり弱いってことじゃないですか」

 僕らしくもないですね、敵に塩を送るなんて。でもこれで少しくらいは彼との関係性が変わるかもしれません――

 そんなことを思いながら、狂司は「ふっ」と笑う。

「うーん。弱いとか強いとか何かよくわからなくなってくる話だな……」

 どうやら、僕の想いはまったく彼に届いていなかったようですね。少し……いえ、だいぶ不愉快です――

「頭の弱さが悔やまれますね」

 狂司はため息交じりにそう呟く。

「いちいち喧嘩吹っかけてくんなよ!! ああ、でもわかった。俺は弱い! でも俺は俺の力を信じるよ!! それでいいか?」
「うんうん、それでいいです」

 そう言って満足そうに頷く狂司。

「なんか発言が上からなんだよな……そういうところ、なんかキキに似てるっつーか」
「――あの変人ファッションリーダー女と同じにしないでほしいですね」

 狂司はそう言ってローレンスを睨む。

「たぶんキキも同じことを言うだろうよ! って、言っているうちにでかいのが来たぞ!!」

 真っ黒の大きな塊がゆっくりとローレンスたちの前に現れた。

「もうこうなったら、やけだ! 全部ぶん殴ってやるぜ!!」

 そう言ってローレンスは己の拳で、塊と化している小さな虫たちを殴っていったのだった。
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