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アフターストーリー

第1話ー② 決着

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 ――破道家にて。

 キリヤと優香は家に招き入れた女性――慎太の母に連れられ、廊下を歩いていた。

 慎太のお母さんは、慎太の死をどう受けとめているのだろう――

 キリヤはそう思いながら、黙って慎太の母の後ろを歩く。

 慎太の能力――『爆破』の暴走によって破裂した慎太は、姿かたちが完全に失われていた。

 そのため、遺体の存在はなく、慎太が命を落としたと言う事実だけが慎太の両親に伝えられていたはずだった。

「あれって……」

 キリヤの隣を歩いていた優香は、そう言って急に立ち止まる。

 キリヤはそう言った優香の見ている方に視線を移し、そこに立派な仏壇があることを知った。

「ええ。何かあるわけではないんですが、一応形だけでもと思って」

 仏壇の方に視線を向けて、悲し気にそう言う慎太の母。

 慎太は、ちゃんと家に帰って来られたんだね――

 そう思いながら、キリヤは仏壇の方へと向かう。

「そうですか……ってキリヤ君?」

 キリヤはその仏壇の前に立ち、そこにある笑顔の慎太の遺影を静かに見つめる。

 慎太。会いに来るのが遅くなってごめんね――

 キリヤが仏壇を見つめていると、慎太の母はキリヤの隣にやって来て、

「お線香、上げて行きますか?」

 優しい声でそう言った。

「え……でも、僕――」

 そう言って俯くキリヤ。

 僕に線香を上げる資格なんてない……だって、僕のわがままで慎太は――

「きっと慎太も、喜んでくれると思うので」

 慎太の母はそう言って微笑んだ。

「素直になりなよ、キリヤ君?」
「優香……」

 素直になる――その言葉の意味をキリヤは考えた。

 今の自分がどうしたいのか。どうありたいのか、と。

 久しぶりに会えた友人に、僕は何を遠慮していたのだろう――

 そう思ったキリヤは微笑みながら、優香を見る。

「――うん。そうだね」

 そしてキリヤは慎太の母の方を向くと、

「あの、お線香……あげてもいいですか?」

 笑顔でそう言った。

「ええ、どうぞ」

 慎太の母はそう言ってキリヤに線香を渡す。

 そしてキリヤは線香を受け取ると蝋燭に火を点け、受け取った線香に火を灯した。それから線香を立てて、キリヤは手を合わせた。

 慎太、久しぶり。挨拶に来るのが遅くなってごめんね。そして……あの時に助けることができなくてごめん。もっと早くに保護できなくてごめん。慎太と出逢えて、僕も本当に楽しかった。だから今はゆっくりと休んで――

 キリヤは悲痛な表情を浮かべ、慎太にそう伝えた。

 そこは何の意味もなさないただの仏壇でしかないけれど、それでも慎太に届くと信じてキリヤはそう伝えたのだった。

 そんなキリヤの様子を、優香と慎太の母は静かに見つめる。

 そしてキリヤは顔を上げ、すっと立ち上がった。

「もういいの?」

 優香がそう言うと、「うん」とキリヤはそう言った。

「それでは、お隣の部屋へ」

 慎太の母は笑顔でそう言った。

 やっぱり慎太から僕のことを何も聞いていないのかな――

 そんなことを思いながら、キリヤは慎太の母の後ろを歩いた。

 そしてキリヤたちは仏壇のあった部屋の隣に部屋に通されたのだった。

「私はお茶の準備をしてくるので、お二人はこちらでくつろいでお待ちください」

 慎太の母はそれだけ言って、部屋を出て行った。

「ふう」

 キリヤはそう言って両手を後ろに伸ばして座る。

「気疲れでもした?」

 隣に座った優香は、そう言ってキリヤの顔を覗きこむ。

「あはは。そうかもしれない……慎太のお母さんに何を言われるのかなって、ずっとドキドキしていたんだ。でも、慎太は僕のことをお母さんに何も話していなかったみたいだね」
「うーん。そうでもないんじゃない?」

 優香は顎に手を添えて、そう答えた。

「え? どういうこと?」
「えっと、それは――」
「お待たせしました」

 そう言って部屋に戻って来る慎太の母。その手にはお茶を乗せたお盆を持っていた。

 そしてそのお茶をキリヤと優香の前にそれぞれ置くと、慎太の母はキリヤたちの前に座った。

「それで今日は……」

 慎太の母はキリヤたちの方を見ながら、そう言った。

「はい……実は、ぼ――自分がどうしても、破道さんにお伝えしなければならないことがあって、こちらにお邪魔させていただきまして……」

 キリヤは、そう言って俯いた。

 なんでこんな時に怖気づくんだよ! ちゃんと伝えるって……謝るって決めたのに。僕が、慎太を死なせてしまったことを――

 そう思いながら、キリヤは両手の拳をぐっと握る。

「……あの、一ついいですか?」

 慎太の母は俯くキリヤにそう言った。

「は、はい」

 キリヤはそう言いながら、顔を上げる。

「桑島さんって、桑島キリヤさんと言うんですよね?」
「え、ええ」
「ずっと、あなたのことを探しておりました」
「え……」
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