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06 悩む
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あの二人を許さないと決めた私は、今後どうするべきかを悩んでいた。
このまま何も知らないフリをし、我慢して結婚したとしても、きっと二人は私に隠れて付き合い続けるだろう。
もしかしたら、私と結婚した後にリリアンを愛人として迎えるつもりでいるのかもしれない。
アストン様だって、リリアンに侯爵夫人が務まらないことは分かっているはずだ。
リリアンは高位貴族としての堅苦しいマナーが大嫌いで、学ぶことはしたくない、遊んでいたい、男性に媚を売って楽して生きていきたいという考えの持ち主なのだから。
でもリリアンは、黙って笑っているだけならとても可愛いので、妻というよりは愛人向きの性格だと思う。
リリアンに婚約者はいないから、アストン様は不貞相手としてはちょうどいいと考えたのかしら?
誠実で優しくて大好きだったアストン様の本性が、私の義妹に手を出すような、軽い男だったなんて本当にショックだわ……
あの二人の不貞をお父様に打ち明けて、私とアストン様の婚約を破棄してもらう?
それは無理ね……。あのお父様は亡くなったお母様を今でも愛しているくらい一途な人だから、二人が不貞をしていると知ったら、ただ婚約破棄するだけでは終わらないと思う。リリアンを修道院に入れるくらいのことはするかもしれない。
アストン侯爵家の方も、醜聞を避けるために簡単に婚約破棄を受け入れてはくれないと思う。優しい方達ではあるけれど、名門侯爵家の方らしくそう言ったことには厳しそうだ。
私の代わりにリリアンとの結婚を勧めても、侯爵様も夫人もリリアンは受け入れてくれなそうだし、謝罪をされて慰謝料を払われた後、再構築するようにと説得されそうだ。
そしてアストン様の方は、愛するリリアンとの仲を引き裂いた私を恨んでくるかもしれない。
私はもうアストン様は信用出来ないから結婚はしたくないし、あんなリリアンと家族でいることも出来ない。……どうすればいい? よく考えないと。
すると、悩む私の所にまたあの女がやって来る。
「お義姉様。先程、レイモンド様から使者が来て、お義姉様に贈り物を届けて下さいましたよ。
偶然その場に居合わせたので、私が届けに来ましたわ」
リリアンは大きな花束を持っていた。
実は、私が具合が悪いからお見舞いを遠慮して欲しいと言った後、アストン様からは毎日のように贈り物が届けられるようになっていたのだ。
贈り物は花束やアクセサリー、有名店のお菓子の詰め合わせなど、メッセージカードを添えた状態で届けられる。
メッセージカードには、〝早く君に会いたい〟とか〝結婚後に君と使う部屋の準備をして待っている〟とか〝早く元気になれますように〟とか〝愛している〟とか、まるで溺愛する婚約者にでも送るような言葉が書いてあって、私は返事に困っていた。
「……ありがとう。花束にメッセージカードは入っていなかった?」
「さあ? 私は受け取ってそのままここに持って来ただけですので」
「そう……」
私や一部の令嬢達にだけ見せる、リリアンの底意地の悪い笑顔を見て、直感的にこの子がメッセージカードを隠しているのではないかと思った。
しかし、もうそんなことはどうでもいい。あんな偽りの気持ちが書かれたメッセージカードなんて、貰っても無意味なのだから。
「お義姉様ったら嫌だわぁ。もしかして、メッセージカードがないからと私を疑っています? 私は何もしていないですわ。
ちょっと具合が悪いからと、そんな陰気な顔をしていたらレイモンド様に捨てられますわよ」
リリアンは、私が二人の不貞関係を知ってしまったことに気付いているのかも知れない。
惨めな私を見に来て、楽しんでいるようにしか見えなかったからだ。
「お義姉様はずっと引きこもっていらっしゃるから分からないと思いますが、この前、結婚式当日に駆け落ちをして花嫁を置いて逃げた令息がいたみたいですわ。
結婚式の当日で招待客は来てしまっていたし、家同士の結びつきを重視した政略結婚だから、急遽逃げた令息の弟が花婿になって結婚式を挙げたらしいですわよ。
お義姉様は素敵な結婚式を挙げられるといいですわね。ふふ……」
「リリアン。私の心配をしてくれてありがとう。
でも、私のことよりも自分自身のことを考えるべきよ。
一時的に親しくしてくれる殿方はいるけれど、婚約を申し込んでくれるような方はいないのでしょう?
私みたいな陰気な病人なんて構ってないで、婚約者を探す努力でもした方がいいわよ」
「ふん! 余計なお世話よ」
私に言い返されたことが不愉快だったらしく、リリアンは八つ当たりするように勢いよくドアを閉めて行ってしまった。
さっきのリリアンは、私がアストン様から捨てられるとでも言いたげだった。
しかし、アストン様は侯爵令息として貴族の結婚の意味をよく理解している方だから、結婚直前の今になってそんなことをするはずがない。あるとしたら愛人を隠れて囲うくらいだろう。
リリアンだって、楽して贅沢したいという考えの性格だから、苦労することが決まっている駆け落ちなんてするはずがない。そんな二人が、駆け落ちをして逃げるだなんて絶対にあり得ないのだ。
それよりも当日に逃げるのはいいかもしれない。
私達の教会での挙式は午前十時開始だった。リリアンとアストン様が恋仲だと暴露する手紙を置いて、当日の朝に私がいなくなっていたら……?
急で何もかもが間に合わないから、同じシーウェル家の令嬢であるリリアンを花嫁にして結婚式を強行すると思う。
亡くなったお母様のことにしか興味のない父も、疎遠になりつつある実の兄も、私を裏切ったアストン様とリリアンも、私の方から捨ててやる……
物分かりのいい、良い子でいるのはやめてやるわ。
このまま何も知らないフリをし、我慢して結婚したとしても、きっと二人は私に隠れて付き合い続けるだろう。
もしかしたら、私と結婚した後にリリアンを愛人として迎えるつもりでいるのかもしれない。
アストン様だって、リリアンに侯爵夫人が務まらないことは分かっているはずだ。
リリアンは高位貴族としての堅苦しいマナーが大嫌いで、学ぶことはしたくない、遊んでいたい、男性に媚を売って楽して生きていきたいという考えの持ち主なのだから。
でもリリアンは、黙って笑っているだけならとても可愛いので、妻というよりは愛人向きの性格だと思う。
リリアンに婚約者はいないから、アストン様は不貞相手としてはちょうどいいと考えたのかしら?
誠実で優しくて大好きだったアストン様の本性が、私の義妹に手を出すような、軽い男だったなんて本当にショックだわ……
あの二人の不貞をお父様に打ち明けて、私とアストン様の婚約を破棄してもらう?
それは無理ね……。あのお父様は亡くなったお母様を今でも愛しているくらい一途な人だから、二人が不貞をしていると知ったら、ただ婚約破棄するだけでは終わらないと思う。リリアンを修道院に入れるくらいのことはするかもしれない。
アストン侯爵家の方も、醜聞を避けるために簡単に婚約破棄を受け入れてはくれないと思う。優しい方達ではあるけれど、名門侯爵家の方らしくそう言ったことには厳しそうだ。
私の代わりにリリアンとの結婚を勧めても、侯爵様も夫人もリリアンは受け入れてくれなそうだし、謝罪をされて慰謝料を払われた後、再構築するようにと説得されそうだ。
そしてアストン様の方は、愛するリリアンとの仲を引き裂いた私を恨んでくるかもしれない。
私はもうアストン様は信用出来ないから結婚はしたくないし、あんなリリアンと家族でいることも出来ない。……どうすればいい? よく考えないと。
すると、悩む私の所にまたあの女がやって来る。
「お義姉様。先程、レイモンド様から使者が来て、お義姉様に贈り物を届けて下さいましたよ。
偶然その場に居合わせたので、私が届けに来ましたわ」
リリアンは大きな花束を持っていた。
実は、私が具合が悪いからお見舞いを遠慮して欲しいと言った後、アストン様からは毎日のように贈り物が届けられるようになっていたのだ。
贈り物は花束やアクセサリー、有名店のお菓子の詰め合わせなど、メッセージカードを添えた状態で届けられる。
メッセージカードには、〝早く君に会いたい〟とか〝結婚後に君と使う部屋の準備をして待っている〟とか〝早く元気になれますように〟とか〝愛している〟とか、まるで溺愛する婚約者にでも送るような言葉が書いてあって、私は返事に困っていた。
「……ありがとう。花束にメッセージカードは入っていなかった?」
「さあ? 私は受け取ってそのままここに持って来ただけですので」
「そう……」
私や一部の令嬢達にだけ見せる、リリアンの底意地の悪い笑顔を見て、直感的にこの子がメッセージカードを隠しているのではないかと思った。
しかし、もうそんなことはどうでもいい。あんな偽りの気持ちが書かれたメッセージカードなんて、貰っても無意味なのだから。
「お義姉様ったら嫌だわぁ。もしかして、メッセージカードがないからと私を疑っています? 私は何もしていないですわ。
ちょっと具合が悪いからと、そんな陰気な顔をしていたらレイモンド様に捨てられますわよ」
リリアンは、私が二人の不貞関係を知ってしまったことに気付いているのかも知れない。
惨めな私を見に来て、楽しんでいるようにしか見えなかったからだ。
「お義姉様はずっと引きこもっていらっしゃるから分からないと思いますが、この前、結婚式当日に駆け落ちをして花嫁を置いて逃げた令息がいたみたいですわ。
結婚式の当日で招待客は来てしまっていたし、家同士の結びつきを重視した政略結婚だから、急遽逃げた令息の弟が花婿になって結婚式を挙げたらしいですわよ。
お義姉様は素敵な結婚式を挙げられるといいですわね。ふふ……」
「リリアン。私の心配をしてくれてありがとう。
でも、私のことよりも自分自身のことを考えるべきよ。
一時的に親しくしてくれる殿方はいるけれど、婚約を申し込んでくれるような方はいないのでしょう?
私みたいな陰気な病人なんて構ってないで、婚約者を探す努力でもした方がいいわよ」
「ふん! 余計なお世話よ」
私に言い返されたことが不愉快だったらしく、リリアンは八つ当たりするように勢いよくドアを閉めて行ってしまった。
さっきのリリアンは、私がアストン様から捨てられるとでも言いたげだった。
しかし、アストン様は侯爵令息として貴族の結婚の意味をよく理解している方だから、結婚直前の今になってそんなことをするはずがない。あるとしたら愛人を隠れて囲うくらいだろう。
リリアンだって、楽して贅沢したいという考えの性格だから、苦労することが決まっている駆け落ちなんてするはずがない。そんな二人が、駆け落ちをして逃げるだなんて絶対にあり得ないのだ。
それよりも当日に逃げるのはいいかもしれない。
私達の教会での挙式は午前十時開始だった。リリアンとアストン様が恋仲だと暴露する手紙を置いて、当日の朝に私がいなくなっていたら……?
急で何もかもが間に合わないから、同じシーウェル家の令嬢であるリリアンを花嫁にして結婚式を強行すると思う。
亡くなったお母様のことにしか興味のない父も、疎遠になりつつある実の兄も、私を裏切ったアストン様とリリアンも、私の方から捨ててやる……
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